Case With No Conclusion

「結末のない事件」

レオ・ブルース


1939

★★★★
新樹社
小林晋訳

 医師のベンスンがフェラーズ家の書斎で首を切られ死んでいるのが発見されます。前夜、フェラーズ家の主人スチュアートが被害者と口論していたこと、犯行時間に屋敷にいたのは使用人を除いてスチュアートだけだったこと、凶器と思しき短剣からスチュアートの指紋が検出されたことなどから、警察はスチュアートを犯人と断定し逮捕します。しかしスチュアート本人は犯行を否定しており、それを信じる弟のピーターは警察を退職して私立探偵を始めたばかりのビーフに兄の無罪を証明するよう依頼します。刻一刻と迫るスチュアートの裁判。果たしてビーフはそれまでに真犯人を見つけることができるのか?

 まずタイトルがいいです。『結末のない事件』――これだけで読みたくなります。ビーフは何かを解決するのだろうか?それともしないのか?仮に「事件の結末」は無くとも「小説の結末」はあるだろう。ならば一体どんな終わり方をするんだ?内容を知らなくても読む前からいろいろ想像させられる作品です。事件はいたってシンプル、ビーフの捜査も関係者の聞き込みというオーソドックスなもの。しかしその過程で見つかる事実に風変わりなものも多く、語り手のタウンゼントが途中で整理をしてくれます。ここもいいです。謎を解く手がかりも含まれており、読者にとって推理のしどころです。そしてやはり結末がいいです。ちゃんと結末はあります。それも驚くべき結末が。バラバラの破片がきちんとひとつに収まる様は実に爽快です。ビーフが解決編で語らなかったある仕掛け(とても大切な部分)を真田啓介氏が巻末の解説で補足説明しているのですが、これがまた驚かされます。レオ・ブルースがなぜこれを本編で詳しく語らなかったのか不思議でなりませんが、その仕込みの器用さにただただ感嘆しました。往年の名探偵の名がそこかしこに登場するのも楽しいです。

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