Nocturne Pour Assassin
Carambolages


「殺人交叉点」

フレッド・カサック


1957, 1959

★★★
創元推理文庫
平岡 敦訳
殺人交叉点
−Nocturne Pour Assassin−
 ルユール夫人は夫と別れた後、愛する若い大学生ボブと一緒に生活を始めます。ボブは若さゆえに次々と同年代の女性を愛しますが、ルユール夫人はそれを寛容し続けます。そしてルユール夫人が入院をしていたある日、ボブは清純な女性ヴィオレットとともに庭で殺害されているのが発見されます。犯人は「私」なのですが、警察はそれに気付かず、互いに殺しあった二重殺人として捜査を打ち切ります。そして10年が経ち時効目前になったある日、ルユール夫人と犯人に新たな展開が待ち受けていたのです。

 紹介される時を誤った不幸な作品としかいいようがありません。最初に紹介された時はその誤訳からこの作品がもつ最大のトリックが失われてしまい、それが修正された今回の新訳は古典本格ミステリブーム真っ只中に登場してしまったがために、本格物を読み慣れた読者には目新しく感じられなかったに違いありません。そうは言っても犯人が追い詰められる緊迫感は並外れたものがあり、結末が見えてもそれに至る下りは存分に楽しめます。ルユール夫人と犯人がそれぞれの観点から書簡をつづると思わせておいて、後半で意外な共通項を持たせるアイデアは絶賛に値します。
連鎖反応
−Carambolages−
 エール=ピュール社の課長補佐を勤めるジルベールは結婚目前にしてかつての愛人から慰謝料を請求されます。しかしジルベールの現状の給料では支払うことができず、昇給するしか手がありません。そこで社長がいなくなれば玉突きに昇進がなされ、最終的に自分も課長に昇進し給料が上がると考えたジルベールは、社長の殺害を計画します。

 結末の意外性では「殺人交叉点」より上をいくこれまた倒叙物です。単なる倒叙物で終わらせず、最後に全てをひっくり返す展開が実に心地よいです。「殺人交叉点」が会話中心の文体であったのに比べて、こちらはじっくりと描写をするタイプで、犯行を計画するジルベールのとまどう気持ちがよく伝わってきます。

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