The J. Alfred Prufrock Murders

「老人たちの生活と推理」

コリン・ホルト・ソーヤー


1988

★★★★
創元推理文庫
中村有希訳

 カリフォルニア州サンディエゴの北20マイルに位置する<海の上のカムデン>は元ホテルを改造した高級老人ホームでした。その老人ホームである日、質素でおとなしかった老婦人が階段の下で死んでいるのが発見されます。老婦人は階段から転げ落ちて死んだのではなく、体をめった刺しにされていたのです。老人ホームに住む故提督夫人アンジェラ・ベンボウを始めとする女性4人組みは好奇心旺盛のあまり、警察からの注意を無視して独自に事件の真相を探ろうとします。

 老婦人を探偵に据えたものといえばアガサ・クリスティーのミス・マープルが思い浮かびますが、ここに登場する老婦人達はミス・マープルとは違って警察が迷惑していることなどお構いなしで活発に探偵ごっこをします。その無謀なまでの活発さが最大の魅力であり、ユーモアあふれる楽しいシーンを繰り広げてくれます。しかし楽しいシーンばかりではありません。老人達はそれぞれが過去を持ってホームに入居し、自分の余生を知ってサークル活動をしたりおしゃべりに勤しんだりしています。そんな彼女達の微妙な心の動きを実にうまく表現しており、事件の真相に密接につなげているのです。何とも言えないせつない終わり方に必ずや心を打たれることでしょう。結末の意外性も抜群で、ミステリとしての完成度も高いです。同じ老婦人達を探偵役に据えた2作目以降もユニークなタイトルが並んでおりとても楽しみです。

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