The Red Redmaynes

「赤毛のレドメイン家」


イーデン・フィルポッツ


1922

★★★★

 イギリス南部デボンシャーと言えば、まずはアガサ・クリスティーを思い浮かべますが、本書の中でイーデン・フィルポッツはそのデボンシャーの自然を力強く雄大に描いています。赤毛で知られるレドメイン家の一族は、3人の兄弟とすでに亡くなっている長男の娘ジェニーの4人だけとなっていました。ジェニーはマイケル・ペンディーンと結婚をしましたが、おじ達からは強い反対を受けていました。ある日兄弟の末っ子であるロバートがジェニー達の前に突然現れます。怒鳴られるかと思いきや、逆に理解を示し始め、いつしか二人のなかを公認するようになっていました。ところがある日ロバートとマイケルが二人で出て行ったきり帰ってきません。ジェニーの捜索願いを受けて、警察が発見したものは近くのバンガローに残された大量の血痕でした。状況から、殺されたのはマイケルで、犯人のロバートは死体をどこかへ隠して逃走したものと判断されました。たまたま近くで鱒釣りに興じていたロンドン警視庁のブレンドンが捜査に当たりますが、犯人はおろか死体すら発見することができません。そして事件はこの後、レドメイン兄弟連続殺人へと変わっていったのです。江戸川乱歩はよほど本作品がお気に入りだったらしく、「底には底のあるプロットの妙」と絶賛しています。しかし今日のミステリ通の読者には、底は浅く簡単に割れてしまうでしょう。個人的にはプロットの妙より、イギリス・イタリアと事件が移るたびに描かれる壮大な自然の美しさに感動します。狂気的な事件とは裏腹なこの自然を描くことこそが、ダートムア・ノヴェル作家と呼ばれるフィルポッツの原点だったのでしょう。そうは言っても、乱歩が推すだけあって、ラストにはどんでん返しが繰り広げられ、意外な結末も用意されており、イギリスミステリ黄金時代の幕開けを担ったのは間違いありません。


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