Le Mystere de la Chambre Jaune

「黄色い部屋の謎」


ガストン・ルルー


1908

★★★★★

 鮮やかな黄色い壁に囲まれ、床には黄色いござが敷き詰められた「黄色い部屋」。そこは紛れも無く密室の頂点を極めた部屋の一つです。今やミュージカル『オペラ座の怪人』の著者として有名になったフランスの作家ガストン・ルルーが、エドガー・アラン・ポーやコナン・ドイルに感化され書き上げたのが本作『黄色い部屋の謎』です。「黄色い部屋」で当代きっての科学者の娘が何者かに襲われる。銃声と悲鳴を聞きつけ、科学者と使用人が部屋に飛び込んだ際には犯人の姿は消え失せていた。「黄色い部屋」の入口はただ一つ、内側から鍵のかかっていたそのドアは実験室につながっており、科学者自身と使用人が仕事をしている最中だった。また部屋の唯一の窓には格子がはめられ、人がすり抜けることは不可能だった。つまり「黄色い部屋」は完全な密室だったのです。パズラーの王道を行くこの作品は、冒頭から事件の概要を説明し、探偵ルールタビーユの登場から現場検証、さらには人物消失や瞬間人物入替が起きる第二、第三の不可思議な事件を立て続けに読者にさらけ出します。あまりにも展開が速いため全体的に粗っぽく、人物の性格や背景の描写が手薄になっている感はありますが、 それを吹き飛ばすだけの矛盾の無い真相には驚かされます。犯人の意外性だけでも、史上に残る作品と成り得たでしょう。一方、ルールタビーユが目にした事で読者には明かされない点もあり、必ずしもフェアであるとは言いきれませんが、そこまで完全性を追求するのは負け犬の遠吠えになるでしょう。本編には『黒衣婦人の香り』というルールタビーユ物の続編があります。ミステリ的には劣りますが、本編を読んだ後には読まずにはいられなくなります。


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