The Tragedy of Y

「Yの悲劇」


エラリー・クイーン


1932

★★★★★

 バーナビー・ロス名義による悲劇四部作の一つと言うよりは、『Xの悲劇』ともども完全に一人立ちし、ミステリ史上にその名をはせるようになった本書『Yの悲劇』は、その緻密な構成と犯人の意外性から、数多くの賞賛を浴びてきました。残念ながら今日の欧米におけるエラリー・クイーンの評価は、謎解きが数学の証明をするがごとく行われる作品が敬遠されやすいことからか、あまりかんばしくないそうです。ただし日本においてはその評価は依然高く、現在活躍している国内作家達にも多大な影響を及ぼしてきました。ハッター家にまつわる悲劇は主人であるヨーク・ハッターがニューヨーク近郊の海から変死体となって発見されたことから始まります。続いて起ったのは、未亡人となったハッター夫人がヨークと結婚する際連れてきた前夫との間に出来た娘で、目も見えず耳も聞こえず声も出せない女性ルイーザの毒殺未遂でした。そして遂にハッター夫人自身が深夜マンドリンで殴られ殺害されます。更にはヨークの実験室から火災が…。日はあきながらも次々と一家に起る惨劇に老優ドルリイ・レーン氏は信じられない真実を見出します。本書は家族にまつわる「血」をテーマにしたため、全 編を通して冷たい感じがします。またドルリイ・レーン氏が自分の推理を論理的に説明しようとするため、読んでいてクドく感じる場面も多々あります。身体障害者であるルイーザが、謎解きを楽しませるために登場させられた感もあり、これらはパズラーの完全性を追求したあまりに生じた残念な部分と言えるでしょう。


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