Trent's Last Case

「トレント最後の事件」

E・C・ベントリー

1913

★★★★

 アメリカ金融界の帝王マンダスンが、イギリス郊外にある別荘の物置小屋の前で頭を撃たれたて死んでいるのが発見されます。マンダスンには若くて美しい妻メイベルがいましたが、ここ最近は仲がうまくいっておらず、原因は彼の秘書にありました。マンダスンは死ぬ直前に、その秘書をロンドンまで私用の使いに出していますが、妻には二人でドライブに行くと嘘をついていました。新聞社『レコード』の依頼を受け現地に飛んだフィリップ・トレントは、その妻の美貌に心を奪われてしまいます。本書を紹介する時に「ミステリに恋愛を持ち込んだ」とよく言われますが、それは20世紀初頭の当時であったからこそ使われる文句であり、現代において本書のような展開は珍しくありません。しかしながら、トレントの恋愛物語を全体のプロットのなかに巧みに融合させている技法は高く評価されるものです。犯人の意外性やトリックの独創性など推理小説の観点から評価される点は多々あるとは思いますが、著者が書きたかったものは読者を驚かそうとしたものというより、ミステリの要素を取り入れた普通小説だったのではないでしょうか。新訳で迎えた本シリーズですが、今回の訳は少し難解でした。


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