The Shudders

「シャダーズ」
―サッチャー・コルトの事件簿1:寒気―

アンソニー・アボット


1943

★★★
ROM叢書
吉村早苗訳

 死刑執行を二時間後に控えたジョリー・テイラーは、サッチャー・コルトNY市警本部長を刑務所に呼び、自分の愛する女性を奪ったボールドウィン博士という男が何の証拠も残さず瞬間的に殺人を犯す方法を見つけ、それを実行すると警告します。その後、警察の懸命な捜索にもかかわらずボールドウィン博士の手掛かりは何も得られませんでしたが、三年経ったある日、テイラーの死刑を執行した刑務所長がコルト本部長を突然訪れ、ボールドウィン博士を目撃したと告げます。そしてその直後に刑務所長は床に崩れ落ちて死亡してしまいます。さらにその十五分後、今度はボールドウィン博士自身がコルト本部長の前に現れ、自分を警察署に連れてこようとした警察官が車中で突然死亡したと告げるのです。

 証拠を残さず人を瞬殺するという大きな謎で読者を引き付けるアンソニー・アボットの後期作です。その殺害トリックにはかなりの注文が付きますが、全編にわたって繰り広げられるサスペンスは見事で、コルト本部長の捜査方法も昔ながらの探偵風で私好みです。犯人の意外性もありますが、これもまた注文が付くこと間違いなしの大仕掛で成り立っており、個人的には受け入れられませんでした。エラリー・クイーンの最盛期が過ぎたアメリカ・ミステリ史上で、このような本格ミステリを書き続けていた作者は評価できます。

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