Smallbone Deceased

「スモールボーン氏は不在」


マイケル・ギルバート


1950

★★★
小学館
浅羽莢子訳

 一ヶ月前に創設者のエイブル・ホーニマンを狭心症で亡くしたばかりの法律事務所の書類保管箱のなかから、顧客のマーカス・スモールボーン氏が死体となって発見されます。スモールボーン氏は死後六週間以上経っており、ホーニマンが亡くなる前から事務所の保管箱に入れられていたことになりました。スモールボーン氏とホーニマンはイカボッド・ストークス信託の共同管財人で、金銭トラブルに巻き込まれた末に殺害されたと考えられました。たった三日前に事務弁護士の資格と取ったばかりの新米弁護士ヘンリー・ブーンが警察と協力してこの謎に挑みます。

 『捕虜収容所の死』とはまた違って、カット割りのような細かい場面展開を繰り返しながら、英国風ユーモアをふんだんに織り込んで作られた本格物です。登場人物の多さは相変わらずで、一つの章が短く会話中心であることと、丹念な性格描写など省いていることから、個々の登場人物とそのキャラクターを理解するのはなかなか困難です。それでもテンポの良さと、秘書の女性達のおしゃべりに代表されるようなクスっと笑わせるユーモアで読者を引き込み、そっと散りばめた伏線で最後にあっと驚かせてくれます。一晩に九十分しか眠らないという天才素人探偵ヘンリー・ブーンの特異性が印象的で、ヘイズルリグ警部と一致協力する姿に好感が持てます。

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