Case for Three Detectives

「三人の名探偵のための事件」


レオ・ブルース


1936

★★
新樹社
小林晋訳

 セイヤーズの生んだピーター・ウィムジイ卿、クリスティーのエルキュール・ポアロ、チェスタトンのブラウン神父、この名探偵達にそっくりな三人が見事な推理合戦を繰り広げるパロディーの域を越えた本格パズラーです。医師サーストンの家では数人の客を呼んで、ウイークエンド・パーティーが催されていました。夜の11時を過ぎた頃、床につくと言って席を離れたばかりのサーストン夫人の部屋から悲鳴が聞こえます。すぐにサーストン医師らが駆けつけますが、部屋には内から鍵がかかっており、入る事ができません。ようやく扉を壊して中に入ると、ベッドには首を切られ死んでいる夫人が横たわっていました。窓がひとつ開いていましたが、犯人が逃走したような跡は残っていません。すぐに警察が呼ばれビーフ巡査部長が到着する一方、誰が呼んだのか三人の名探偵達も突然現れ、それぞれの個性を活かした調査が開始されます。冒頭で事件が起きると、後は三人の鮮やかな推理が、ジェットコースターのように次から次へと繰り広げられます。全編の約90%が彼らの推理に充てられているため、全く飽きる事はありません。最後に三者三様の密室のトリック、動機、犯人が発表されますが、それまで裏方だったビーフが全く別の第四の説を唱え、周囲を驚かせます。このビーフと三人の名探偵の対比も本書の楽しみの一つです。ミステリ処女作にしてこの完成度、著者の更なる翻訳が待たれます。なお本書を翻訳された小林晋氏はレオ・ブルース・ファンクラブも主催されています。

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