「親指のうずき」

アガサ・クリスティ

★★★

By the pricking of my thumbs
Something wicked this way comes.

"MACBETH"
by William Shakespeare
なんだか親指がずきずきするよ
よくないことが起こるんだ

「マクベス」
 ウィリアム・シェイクスピア


あらすじ
 トミーとタペンスは、トミーの叔母が余生を送る養老院を訪ねる。その後叔母が亡くなり、二人は遺品引き取りに行った際、タペンスは叔母の部屋にあった一枚の風景画に「見た記憶がある」と思う。その絵は叔母が亡くなる前に、別の老婦人から譲り受けた物だった。そしてその老婦人は突然養老院を出ていっていた。記憶をたどり、その風景画の実在場所を一人探し求めるタペンス。そして、ついにその場所を見つけたタペンスはその村の隠れた事実を知る。

感想
 世界中の多くの読者から「その後、トミーとタペンスはどうしました?いまなにをやっています?」という問い合わせに答える形でクリスティが1968年に78歳で書いた作品です。この中でトミーとタペンスの子供たちデボラとデリクもすでに結婚しており老夫婦の域に達しています。前半はタペンス、中盤はトミー、そして最後は二人でと大きく話は3つにわかれます。結末はそれなりに驚きますが、ちょっと途中で説明が多く退屈する所もあります。50歳近い二人(特にタペンス)がここまで行動するか?と、思いたくもなりますが、そこはお話ということにしておきましょう。

おまけ
 その1)ハヤカワ文庫を読まれた方は表紙に注目。私は読んだ後に気づきました。まだ読まれていない方は「???」だと思いますが、読了後に「そうか]と思って下さい。

 その2)この本にも「鏡は横にひび割れて」のシャロット姫(Lady of Shalott)が登場します。どこかは読んでのお楽しみ。シャロット姫に関しては、私の「鏡は横にひび割れて」の感想を見てください。

 その3)ベレズフォード家の召使いのアルバートがとてもいい味をだしています。いつもチキンを真っ黒こげにしているのに、変なところでトミーの役に立ちます。

 その4)この本の題名「親指のうずき」は、シェイクスピアの「マクベス」の第四幕第一場で、洞窟の中で三人の魔女の一人がマクベスが近づいてきたことを察して、

   「親指がぴくぴく動く、何か悪いものがこっちに近づいて来るな、抜けろ、かんぬき、誰でもいいぞ」

「マクベス」福田恆存訳 新潮文庫


と話す一節から用いられています。本編「親指のうずき」の中では、タペンスが失踪したと思われる老婦人のことを不審に思いこの一節を口にします。

 その5)感想にも書いた通り、クリスティはこの本を個人ではなく多数の世界中の読者に捧げています。以下にその原文を紹介します。

This book is dedicated to the many readers
in this and other countries who write to me
asking: "What has happened to Tommy and
Tuppence? What are they doing now?"
My best wishes to you all, and I hope you
will enjoy Tommy and Tuppence again,
years older, but with spirit unquenched!

           
 AGATHA CHRISTIE
  本書を、世界各国から私に手紙をくださり、
「その後、トミーとタペンスはそうしました?
いまなにをやっています?」と問い合わせて
こられた多数の読者に捧げます。
 この通り、トミーとタペンスもだいぶ年をとり
ましたが、その情熱はいささかも衰えて
おりません。皆さん、どうかよろしく。
そしてこの二人との再会を楽しんでください
ますように。
          
 アガサ・クリスティ