Death From a Top Hat

「帽子から飛び出した死」

クレイトン・ロースン


1938

★★★
ハヤカワ・ミステリ文庫
中村能三訳

 ロス・ハートの住むアパートの一室で神秘哲学者のセザール・サバット博士が絞殺死体で見つかります。サバット博士は床にチョークで描かれた大きな星のまんなかに、頭、両手、両足をその五つの頂点にのばし仰向けになって死んでいました。死体の発見された部屋は、扉の閂がなかからかけられ、鍵もかかったうえに鍵穴が布でふさがれた完全な密室だったのです。さらに容疑者のひとりがまたもや密室で殺害され、事件は連続殺人へと発展していきます。ロス・ハートの依頼で奇術師のマーリニが事件の捜査に加わり、この絶対不可能と思われた密室からの脱出方法を解明します。

 自身も奇術師であるクレイトン・ロースンが奇術師グレイト・マーリニを探偵役に配して書いた処女作が本書『帽子から飛び出した死』です。作者が奇術師だけあって登場人物の多くが奇術や霊媒などに関する職業についており、それらにまつわる話題もそこかしこに散りばめられたりしていて、とても楽しい構成になっています。「騙す」という点では奇術もミステリも同じであるので、処女作ながらツボを押さえた本格ミステリに仕上がっています。作者が大の本格ミステリ・ファンであったこともその要因のひとつでしょう。黄金時代の名探偵にふれたり、ジョン・ディクスン・カーばりの密室講義に、C・デイリー・キングばりの手がかり索引(文中のどこに事件解決の手がかりがあったかを指し示すもので、ロースンの場合は原註)まであります。

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