Case Without A Corpse

「死体のない事件」

レオ・ブルース


1937

★★★★
新樹社
小林晋訳

 ビーフ巡査部長がタウンゼンドらとともに《司教冠》亭のパブリック・バーでダーツに興じていると、地元で悪党と呼ばれるロジャーズ青年が「人を殺した」と言って店に駆け込んできます。その後ビーフ達が駆け寄る間も無く、ロジャーズは小さな瓶の内容物を飲み干してその場で死んでしまいます。ロジャーズのシャツには人間の血が付着しており、ポケットのなかにあったナイフも血痕で汚れていたことから、ロジャーズが誰かを殺したのは間違いなさそうでしたが、肝心の被害者が誰なのかがさっぱり判りませんでした。

 アガサ・クリスティーの『アクロイド殺害事件』や『オリエント急行の殺人』などに用いられているトリックは二度と真似ることができないと言われていますが、本書に用いられたトリックもその斬新で独創的な面から他者が真似できない逸品となっています。エラリイ・クイーンのような緻密さは無くとも、大胆でアッと驚く真相が用意されていれば、それだけで読者は満足できることを証明しています。捜査陣にスコットランド・ヤードのスチュート警部を加えることで、正統的に事件を解こうとする中央警察のスチュートと、偶然に助けられながらも独自の捜査をとる地方警察のビーフとの面白い対比が成立しています。

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