ホームページへ霊性について目次前のページへ次のページへ

●「心が機械に影響を与える」プリンストン大学の研究  Kim Zetter   
                       HOTWIRED JAPAN 2005719

 プリンストン大学の地下にある研究室では、26年間、奇妙な会話が繰り返されてきた。

 誰も会話の内容を聞くことはできないが、その結果ははっきりと見ることができる。次々に落ちてくるボールが命令に従って特定の方向に進んだり、噴水式の水飲みの水柱が希望に応じて高く噴き出すように見えたり、ドラムのビートが速くなったりするのだ。

 それでも会話は聞こえない。なぜなら、実験者の心と、実験者が働きかけようとする機械との間で交わされている会話だからだ。

 『プリンストン大学工学部特異現象研究』
(PEAR)プログラムの研究者たちは、1979年から、人間の意識が機械に与える影響を測定する試みを続けてきた。

 研究者たちはランダム・イベント・ジェネレーター
(REG)――無作為に出力をするコンピューター――を用意し、実験参加者たちに、機械の出力を制御することに意識を集中させた。そして数百万回に上る実験の中から、心が機械と対話できる可能性を示す、小さいけれども「統計的に有意な」結果を検出した。しかし、研究者たちは慎重で、心が何らかの結果を引き起こすのだとか、意思疎通の本質がわかったなどとは主張していない。

 この研究室を指揮するプリンストン大学のロバート・ジャン名誉教授は、物理学者で、同大学工学部の学部長を務めたこともある。ジャン教授は
1977年に、ある学部生が卒業論文としてREGを設計したいと申し出たときに、心と機械のつながりに関心を持った。その後、REGを利用して心が機械に与える影響を測定するというアイディアに興味を抱き、1979年に研究室を開設した。

 研究室はプリンストン大学の敷地内にあるが、大学から資金援助は受けていない。その代わりに、米マクドネル・エアクラフト社
(後の米マクドネル・ダグラス社であり、現在は米ボーイング社の傘下にある)の創立者ジェームス・S・マクドネル氏、ローレンス・ロックフェラー氏、野球チーム『デトロイト・タイガース』の元オーナーでありフェッツァー・ブロードキャスティング社のCEOを務めるジョン・フェッツァー氏など、個人からの寄付に頼っている。

 ジャン教授によると、マクドネル氏が知りたがっているのは、重要な電子システムが、ストレス下にある人間の操作者の考え方にどのような影響を受けうるかだという。
(中略)

この他にも、実験参加者がドラムマシンをコントロールしようとする実験や、ポリスチレン製の黒い小さなボール数千個を滝のように落とす装置
(写真)による実験などが行なわれている。この装置では、ボールは壁に向かって並べて打たれた「釘」の間を通り、最下段に横1列に配置された縦長の容器のいずれかに納まるよう作られており、実験者はボールが落ちる方向を左右のどちらかに偏らせようと試みる。

 これらの実験すべてのデータを総合すると、
1万分の1の割合でコントロールに成功している。わずかな成功率のように感じられるかもしれないが、ノエティック・サイエンス研究所の上級研究員ディーン・ラディン氏は予想どおりの数字だと言う。ラディン氏は米AT&T社のベル研究所で研究者として働いた経歴がある。

 「できたばかりの研究分野では、条件にばらつきがあるため効果が小さい場合が多い」とラディン氏は説明する。「われわれはまだ、効果に関係し
(結果を高め得る)要素すべてを知っているわけではない」

 ラディン氏は、現在の研究段階を、静電気の研究が始まった頃になぞらえる。当時の科学者は、静電気の発生量に湿度が影響することさえ知らなかった。

 人間の意識が機械に影響を与えるという現象そのものに関しては、まだほとんど何も解明されていないが、距離や時間が結果に影響しないことははっきりしている。たとえば、機械が部屋の中に置かれている場合、実験者がその部屋の外にいても、国の反対側にいても、機械に与える影響は変わらない。また、
REGが作動する前に意識を集中させたとしても、さらにはREGが動いている最中に本を読んだり音楽を聴いたりしていても、効果は変わらない。

 室温などの環境条件も関係しないが、実験者の気分や態度は結果を左右する。機械に影響を与えられると信じることは、よい結果につながる。

 プリンストン大学のジャン教授によると、機械との共鳴も重要な要素だという。ジャン教授は、これに似た例として、偉大な音楽家がバイオリンと一体になっているかのように見えるときや、才能あるスポーツ選手が突如として道具とともに自分の限界を超えるときに起きていることを挙げている。

 さらに、性別も関係がある。男性は思いどおりの結果を出す傾向があるが、効果の度合いは小さい場合が多い。逆に、女性は男性よりも大きな効果を出すが、それが意図したとおりの結果とは限らない。滝のように落ちてくるボールを左側に寄せたいと念じても、意図に反して右側に落ちるといった具合だ。

 男女のペアで実験に臨むと、さらによい結果が得られる。しかし、同性の
2人では有意な結果は得られない。恋愛関係にある男女の結果が最もよく、それぞれが1人で実験に参加したときより7倍もよい結果が出ることもしばしばあった。PEARプログラムのマネージャーを務める発達心理学者のブレンダ・ダン氏によると、こうしたケースでは往々にして、男女それぞれの特徴が結果に反映されているという。女性単独の特徴に沿って効果が大きくなり、一方で男性単独の特徴に沿って狙いどおりの結果も出るというわけだ。

 「
2つの特徴、言い換えれば2つの変数があって、互いが補い合っているようなものだ」とダン氏は説明する。「(男性の特徴は)意図と関係している。いっぽう、(女性の特徴は)共鳴と関係が強いようだ」

 結局、こういったこと何を意味しているのだろう?

 それは誰にもわからない。ジャン教授もラディン氏も、実験者の意思と機械の動きに相関関係が見られるからといって因果関係があるとは限らないと述べている。

 「
(両者に関係があるという)推論はできるが、直接的な証拠はない」とラディン氏は話す。

 ラディン氏によると、この現象は「量子もつれ」と類似性があるかもしれないという。量子もつれとは、通信した形跡がない
2つの離れた粒子に関連性が見られる状態のことで、アルベルト・アインシュタインはこの状態を「離れた場所での幽霊のような動き」と形容している。

 あるいは、この現象を引き起こしているのは、神経生理学者の
W・グレイ・ウォルター博士が1963年に行なった一連の実験で起こったことに似た何かかもしれない。ウォルター博士の実験の被験者たちは運動皮質に電極を埋め込まれ、回転式のスライド映写機の隣に座らされた。被験者は、ボタンを押すと映写機が動くと伝えられていたが、実はそのボタンは偽物で、映写機は実際には、被験者の脳から送り出され増幅された信号に反応して動いていた。

 ジャン教授は、
PEARプログラムの実験について次のように説明している。「(ウォルター博士の実験と違うのは)脳から機械に信号を送るのに回路を使用していない点だ。何が起こるのであれ、何らかの特異な経路を伝って起こっている。われわれにはまだ、この情報を運ぶものの正体がわかっていない。情報の伝達に有利に働く条件についてある程度わかっているだけだ」


PEARプログラムの実験で生じる効果は小さいものの、何度も繰り返し現れている。ただし、必ずしも予測可能な効果が出ているわけではない。一度効果を出した実験者が翌日に同じ実験をしても、まったく結果が得られない場合もある。

 
PEARプログラムは数多くの中傷にさらされており、方法論に欠陥があると指摘されたり、娯楽作品のようなものだと切り捨てられたりしている。この実験を、たとえば赤信号から青信号に変われと念じながら運転している人が、そのとおりになったのは自分の力によるものだと考えるようなものだと言う人もいる。

 カナダのトロントにあるヨーク大学のスタンリー・ジェファーズ準教授
(物理学)は、PEARプログラムのものとよく似た実験をしようと試みたが、結果を再現することはできなかった。ドイツにある2つの研究所も、PEARプログラムの協力を得て、PEARプログラムが使用した装置で実験を行なったが、やはり同じ結果を出すことはできなかった。

 ジェファーズ準教授は「科学の世界で主張を真剣に受け止めてもらおうと思ったら、その主張に再現性がなければならない」と語る。「再現できないからといって間違っているとは限らないが、科学者たちの関心は急激に失われる」

 
PEARプログラムのマネージャーを務める発達心理学者のダン氏によると、ジェファーズ準教授が行なった実験をそのままやってみたところ、有意な結果が得られたという。また、1980年代から十数回にわたってメタ分析を実施し、他の研究機関で行なわれた実験からPEARプログラムの結論を支持する結果を得ている。メタ分析では、多くの過去の実験から得られている膨大なデータを横断的、統計的に組み合わせて調べ直し、全体として効果の再現性の有無を確かめる。

 プリンストン大学のジャン教授は「われわれは偶然からの偏差に目を向けている。実験を数多く繰り返していくとこの偏差は少なくなるものだ」と説明する。「十分な数の実験をこなせば、
(効果は)統計的に加重される。この効果の妥当性に疑いの余地はない」

 
PEARプログラムには参加していないノエティック・サイエンス研究所のラディン氏も、この研究グループは堅実な科学を実践していないとする批判に異議を唱える。

 「この研究分野は普通の分野よりもはるかに厳しい目が向けられており、批判もかなり大きい。この種の研究を手がける人々は、通常よりしっかりした研究を行なう必要があることを十分に理解している。
PEARプログラムは厳密な科学研究の中でも最高レベルの原則を採用し、その下で途方もない難題の数々に取り組み、なかなか興味深い答えを導き出している」

 ジャン教授は、自分たちの研究を批判する人々について、この現象が通常の原因と結果の法則に当てはまると思う時点で間違っているという見解を示している。
PEARプログラムで研究している現象は、カール・ユングが「非因果的な現象」と呼ぶ共時性(シンクロニシティ)などの現象と同じカテゴリーに属すると、ジャン教授は考えている。

 「こうした現象はもっと複雑な、気まぐれとも言える、ほとんどとらえどころのない法則に従っている」とジャン教授は話す。「それでも、こうした現象はたしかに存在する」

 ヨーク大学のジェファーズ準教授はこの考え方に疑問を呈する。

 「彼らの行動は矛盾している。信頼のできる科学者として、統制された条件下における特定の効果を主張し、一方で思いどおりの結果が出ないと、今度は厳密な科学的手法は当てはまらないと言い出すのだ」とジェファーズ準教授は指摘する。

 それでもジャン教授は、科学者がまだ現象を説明できないからといって、現象が実在しないことにはならないと反論する。

 「もしこの現象が存在するなら、こうした現象に注意を向けて建設的に取り組むための仕組みを作るよう、われわれの専門分野に属する研究者から科学界に要求してもよいと思う」とジャン教授は語った。

前のページへ次のページへ