自作俳句100選

俳句雑誌「波」(主宰:倉橋羊村)に掲載された自作句を紹介してゆきます。 



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2月

5月

8月

11月

3月

6月

9月

12月

4月

7月

10月

1月

12月 いつの世も浮浪者絶えぬ聖夜かな
イブ近し爺々だんだんサンタ顔

異世界を出入りする猫塀の穴

海風にゆるりと風車冬の空

柿の実は熊にも大事な冬支度

枯落葉砕けて還る土塊に

聞き慣れぬ鳥のさえずりパリの朝

もう風に託すものなき枯尾花

湯に漬けて手の指伸ばす冬の朝

11月

金緑色羽に残して虫終える

藁塚に登りて束を更に積む

葉が落ちて蜂の巣姿を現わしぬ

陽を受けて弾け飛ぶ音草の種

細き野路犬の尾揺れるいのこづち

茶碗蒸し栗の実探る箸の先

肩車親より高く秋の空

わが庭に見慣れぬ落葉遠きより
10月

腰下ろしパレット広げる草紅葉

日だまりに人の集まる駅ホーム

駆け回る落葉追う子らつむじ風

葡萄粒圧し合う狭き房の中

オルガンの音符を棺に献花式

外周より内へ刈り込むコンバイン

秋の空影落とす街米軍機

栗の毬(いが)割(さ)けて実りの風入れる

落花して蜘蛛の巣彩る金木犀

黄金の麦畑揺れる風の紋

我歩く先へ先へと赤とんぼ

深夜まで臭いの消えぬ焼秋刀魚

穂を垂れて畦道狭き稲田かな
9月

髷結えば土俵に馴染む異国力士

窓を這う守宮の腹の息使い

祭り終え帰る神輿に秋茜

背筋立て小枝となりぬ寸取虫

腹を見せ網戸に止まる秋の蝉

嵐去り蜘蛛忙しや巣直しに

曼珠沙華鼻の欠けたる道祖神

トンネルの切れ目に紅葉旅列車

石仏の肩に蟷螂櫨紅葉

背表紙に無数の視線古本市
8月

終戦日黙祷続く蝉時雨

蜂もまた水辺に憩う酷暑かな

片影を伝いて犬の散歩道

唖蝉の沈黙の智恵太古より

夏の道足裏熱し散歩犬

空蝉になりてなおも踏ん張りぬ

念仏に踊り伝えてこの夏も

分入れば一樹一声蝉の森

トンネルの向こうもこちらも蝉時雨
7月

太陽に強いられて咲く夏の花

子を母の影に憩わす炎天下

酢を飛ばす団扇の風にむせる妻

頑なに太古の形守るシダ

森出てまた森に入る水道橋

緑陰や老いに優しき風抜ける

花の中ほんのり明るき蛍袋

闇に住み影食べ回る守宮(やもり)かな

6月  

出入りするガソリンスタンド燕の巣

通り雨ビルの谷間虹の脚

折れ曲がりミシン目続く蟻の道

五月晴れビル窓拭きの命綱

巡り会う一蝶一花夏の夢

夏暖簾蕎麦屋の土間の葱の束

悠久の時巻き戻す蝸牛

5月  

大凧の糸手繰る人げんげ田に

信長も好みし相撲弓の舞

薇(ぜんまい)の小さな角笛風の音

野放図にはみ出すひこばえ若き意思

転んでも楽しや芝生子供の日

4月

腰伸ばし畑打ち休む遠桜

    こぼれ種廃材置場の菫草
耕運機花弁混ざりし畑の畝
一片の花びら塞ぐ蟻の穴
土筆和え春の苦みを噛みしめリ
穴出てはや尾を切られし蜥蜴かな
古民家の花降る縁の黒光り
3月

寒戻り重ね着をして立ち話

食材の菜の花一輪卓に挿す
仰向けに背中掻く猫日向ぼこ
春雷に一喝されし朝寝坊
啓蟄やまた新しき外来語
啓蟄や繰出す鳥獣戯画絵巻
幼時より娘を雛と見守りぬ

セーターの背中に日だまり南窓

日陰出て蜥蜴背に陽を蓄えり

琵琶咲けどその香と知らず過ぎにけり

2月 カワセミの瑠璃色映す冬の沼
草野球焚火を囲む応援団
マスクして目と目で話す花粉症
北風にこごえる耳に血の鼓動

どの首も陽に向く川鵜ひなたぼこ

つながれて主人待つ犬春寒し

穏やかな老いの温もり石路の花
1月 裸木に巻きつく蔓も共に枯れ
蜜蜂の足力なく石蕗の花
元日に複製飾るモネ「日の出」
汗にじむ襷をつなぐ箱根越え
正月より花瓶に残る実千両
飾りなく花器に白菊喪の新年