異世界を出入りする猫塀の穴
海風にゆるりと風車冬の空
柿の実は熊にも大事な冬支度
枯落葉砕けて還る土塊に
聞き慣れぬ鳥のさえずりパリの朝
もう風に託すものなき枯尾花
湯に漬けて手の指伸ばす冬の朝
金緑色羽に残して虫終える
藁塚に登りて束を更に積む
葉が落ちて蜂の巣姿を現わしぬ
陽を受けて弾け飛ぶ音草の種
細き野路犬の尾揺れるいのこづち
茶碗蒸し栗の実探る箸の先
肩車親より高く秋の空
腰下ろしパレット広げる草紅葉
日だまりに人の集まる駅ホーム
駆け回る落葉追う子らつむじ風
葡萄粒圧し合う狭き房の中
オルガンの音符を棺に献花式
外周より内へ刈り込むコンバイン
秋の空影落とす街米軍機
落花して蜘蛛の巣彩る金木犀
黄金の麦畑揺れる風の紋
我歩く先へ先へと赤とんぼ
深夜まで臭いの消えぬ焼秋刀魚
髷結えば土俵に馴染む異国力士
窓を這う守宮の腹の息使い
背筋立て小枝となりぬ寸取虫
腹を見せ網戸に止まる秋の蝉
嵐去り蜘蛛忙しや巣直しに
曼珠沙華鼻の欠けたる道祖神
トンネルの切れ目に紅葉旅列車
石仏の肩に蟷螂櫨紅葉
終戦日黙祷続く蝉時雨
蜂もまた水辺に憩う酷暑かな
片影を伝いて犬の散歩道
唖蝉の沈黙の智恵太古より
夏の道足裏熱し散歩犬
念仏に踊り伝えてこの夏も
分入れば一樹一声蝉の森
太陽に強いられて咲く夏の花
子を母の影に憩わす炎天下
酢を飛ばす団扇の風にむせる妻
頑なに太古の形守るシダ
森出てまた森に入る水道橋
緑陰や老いに優しき風抜ける
花の中ほんのり明るき蛍袋
闇に住み影食べ回る守宮(やもり)かな
出入りするガソリンスタンド燕の巣
通り雨ビルの谷間虹の脚
折れ曲がりミシン目続く蟻の道
五月晴れビル窓拭きの命綱
巡り会う一蝶一花夏の夢
夏暖簾蕎麦屋の土間の葱の束
悠久の時巻き戻す蝸牛
大凧の糸手繰る人げんげ田に
薇(ぜんまい)の小さな角笛風の音
野放図にはみ出すひこばえ若き意思
転んでも楽しや芝生子供の日
腰伸ばし畑打ち休む遠桜
寒戻り重ね着をして立ち話
セーターの背中に日だまり南窓
日陰出て蜥蜴背に陽を蓄えり
琵琶咲けどその香と知らず過ぎにけり
どの首も陽に向く川鵜ひなたぼこ
つながれて主人待つ犬春寒し