古楽100-(3)(バッハ)

78 バッハ  カンタータ4「キリストは死の縄目につながれたり」BWV4
ルターが、グレゴリオ聖歌「過越のいけにえを」Victimae paschali laudesの旋律を改編してコラール「キリストは死の縄目につながれたり」を作り、そのコラールをもとにバッハがカンタータ4番とする。
このカンタータ「キリストは死の縄目につながれたりBWV4」は、死と生命が戦い、生命が死を呑みつくすという緊迫感のあるクライマックスがあるが、
音楽としては、
その前の、罪ゆえに死に囚われる人間の絶望を歌う
ソプラノとアルトの2重唱の第2変奏「死に打ち勝てる者絶えてなかりき」(Den Tod niemand zwingen kunnt)と
死に勝った喜びを歌う
第6変奏「かくて我ら尊き祭を言祝ぎ」(So feiern wir das hohe Fest)が
不思議な響きを持っていて印象的。
バッハは、聞くものに音楽の喜びを与えてくれる不思議な作曲家だ。
第5変奏のバスのアリアは聞き逃せない
79 バッハ     カンタータ第82番「われは足れり」BWV82

バッハ(独1685-1750)のバス独唱の名曲として知られる。ルカによる福音書にある、救い主としての幼児イエスに出会い心満たされて死に赴くシメオン老人の物語で、シメオンを「私」として歌います。”私はもう結構。正しい人たちの希望である救い主をこの腕に抱きしめたのだ。私は今日のうちにもこの世を去りたい。”と。誕生した孫かひ孫を抱き上げる老人のような、深い限りなくやさしい喜びと気持ちが重なり、心が安らぐ名曲である。
80 バッハ     カンタータ106番 「神の時こそいと良き日」
J.S.バッハ(独1685-1750)のこの曲は、「哀悼行事用」呼ばれる葬送用のカンタータである。リコーダー、ビオラ・ダ・ガンバの柔らかい美しい前奏で始まる。死の人間のジメジメしたやりきれなさが、どこかへ吹っ飛んでしまうような独特の響きがある。旧約の、避けられない掟としての死を歌うバス、その後、やさしいソプラノが「主イエスよ来たりたまえ」と救済の手を差し伸べる。直後のアリアとガンバの伴奏がとりわけ美しく感動的だ。終章もリコーダー、ガンバが効果的にコラールを締めくくり、これらの楽器の魅力を再認識させてくれる。
81 バッハ  カンタータ第182番 「天の王よ、汝を迎えまつらん」BWV182
イエスはユダヤ各地で伝道して多くの信者・弟子を得た後、首都エルサレムに入り、やがて十字架にかけられるが、このエルサレム入城を「枝の日曜日」とし、その週の金曜日が受難日、次の日曜日が復活祭となる。第182番 「天の王よ、汝を迎えまつらん」は、このエルサレム入城の時のカンタータである。最初のソナタは、ヴァイオリンとリコーダーによる素朴でのどかな音楽。「ロバに乗って」という場面を想像させる。なんといってもこの曲の要は、5曲目のアルトによるアリアであろう。リコーダーのオブリガートが、やがてやって来る受難を予知させる。
82 バッハ モテット3番BWV227「イエスよ、私の喜びよJesu,meine Freude
バッハのモテットは6曲あるが、いずれも、聖書の聖句や宗教詩、コラールなどのテキストを音楽化したもので、祈りの音楽である。中でも3番「イエスよ、私の喜びよJesu,meine Freude」は、同名のコラールをベースに、それを効果的に生かした素晴らしい作品である。テキストも、イエスに寄り添うことで、死、罪、傲慢、虚栄、富、名誉と戦うといった素朴な内容で、心の安らぎを求める祈り、信仰、霊の勝利を歌う。変奏が多彩で、テキストの内容が音楽となって深化してゆく不思議な一曲である。
83 バッハ     「マタイ受難曲」
バッハ(独1685-1750)の「マタイ受難曲」は、「ヨハネ受難曲」が「初めに言あり、言は神であった」という福音書の前提を踏まえているため、神の支配、栄光が強調されるが、「マタイ受難曲」の方は、イエスの人間的実存の面から展開されているため、イエスの人間としての苦悩などが多くの場面で描写される。ユダの裏切りへの厳しいことば、イエスの苦悩を理解しない弟子への落胆、「我が神、どうして私をお捨てになるのか」という神への信の確認など、きわめてドラマティックな展開を見せる。「ああ、血にまみれ傷ついた御頭よ」が歌われるコラールの旋律が何度も繰り返えされ、そのたびに、胸が締め付けられる思いがする。一度聞いたら忘れられない旋律である。ヘルマン・ヘッセは、ある手紙の中で、このマタイ受難曲について、次のように述べている。「この曲は本当に計り知れぬ偉大な作品です。「いつの日にかわれ去り逝く時」のコラールとか、終わりの合唱の序奏の部分などで、熱い涙がほほを伝うのを感じたほどです。でもベルリンの真ん中で、主イエスの死に立ち会うなんて奇妙なことですね」
84 バッハ  「オルガン独奏のためのトリオソナタBWV525-530」

バッハ(独1685-1750)のこのオルガンのトリオソナタは、3楽章構成で6曲あるが、詩情に満ちた美しい曲ばかりで、どの曲にも惹きつけられる。3人で演奏されるソナタ形式を一人で、右手、左手、両足で3パートを演奏する。それぞれのメロディの自律性を認識し、他のメロディーとの掛け合いを上手く弾きこなす必要があり、かなり高度な演奏技術が要求される。
ソナタ525の冒頭から楽しい豊かな音色で始まり、切なく美しいアダージョ、アレグロでは、軽やかな小さな生き物が飛び交う。ソナタ526のラルゴ、ソナタ527のア
ダー-ジョなど美しい曲を経て、ソナタ528,529,530に至って豊穣な音響世界に誘う。
 後半では、特に
ソナタ529のアレグロの出だしがかわいらしい行進、小さな喜びがときめく。ラルゴが印象に残る。不思議な魅力を感じさせる音の世界。泉がわきでるような。
85 バッハ オルガン作品「幻想曲とフーガ BWV542」「フーガ BWV578]
バッハの「幻想曲とフーガ BWV542」「フーガ BWV578]は、大フーガ、小フーガといわれている名曲。大フーガ、小フーガという言い方は、BWVの番号が存在しなかったときの名残りのようである。
大フーガのドラマティックで、未踏の空間へグイグイ心をひっぱって行くような展開、そして、目の前に開ける壮大で美しい世界。この音楽の世界は何だろう。すべてが一致結合し価値を認めており充足しあっている。
一方の小フーガは、バランスの取れたまとまった名曲。
86 バッハ オルガン曲「トッカータとフーガ 二短調BWV565」
この曲は、誰でも知っているバッハ(独1685-1750)のオルガン曲の代表作であるが、この曲に触発されてヘルマン・ヘッセが詩を書いている。「バッハのあるトッカータに寄せて」という題がつけられている。
「凝固せる太古の沈黙.....支配する暗黒.....このとき一条の光  雲の裂け目よりほとばしり、光なき虚無の中より 世の深遠をつかむ。..............」 
   ヘッセは、「バッハのトッカータを聞くと、必ず天地創造のイメージが、しかも光の誕生のイメージが湧いてくるのです。」と言っている。天地創造の「光あれ」の始原の瞬間を描くことが出来るのは、人間の無意識の深い層において共鳴しあうリズム、時間の流れを表現しうる「音楽」においてしかない。それは、まさに、オルガンの、バッハの、この曲、なのかもしれない。
打ち寄せる波の往還。
87 バッハ 教理問答書コラール WV682:「天にまします我らの父よ」

穏やかな波動が一点から円を描き天上に広がってゆく

88 バッハ 前奏曲とフーガ「ハ短調BWV549]
ペダルの迫力がすごい。エネルギーがほとばしる。フーガはそのエネルギーを秘めに秘めてリズムを刻む。だんだん激しくなってゆく。
89 バッハ  「パッサカリアとフーガハ短調BWV582」
バッハ(独1685-1750)のオルガン曲の中で、「パッサカリアとフーガ」は「トッカータとフーガ」に並んで素晴らしい。
冒頭の低音主題が大変印象的で、この主題の反復と変奏がグイグイと深くて雄大な世界に我々を引き込んでゆく。
90

バッハ オルガンコラール「深き淵より我汝をよばわる」

オルガンコラール「深き淵より我汝をよばわる」→詩篇130の基づくマルティン・ルターの作詞作曲。
同名のカンタータ第38がある。
詩篇130は罪の深い絶望から神の赦しを乞うという内容。
コラールの単旋律をもとに、深い淵からの重い叫びが響いてくるような荘厳な曲である。
時が生まれ一斉に万象が動き始め伸びてゆき互いに絡んでゆく。
そして怒濤のごとく流れゆく
91 バッハ  「フランス組曲 5番BWV816」
バッハ(独1685-1750)の組曲は、このフランス組曲に先立ち「イギリス組曲」がある。「イギリス組曲」は、各曲の冒頭に自由なプレリュードがおかれているが、フランス組曲は、それはなく、舞曲リズムのアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグを核とした組曲である
。バッハは、舞曲リズムから、曲のさまざまな多様性を引き出したといわれている。
繊細なリズム感、洗練された音楽表現、自然な音楽といった性格を創り出してきた。
この組曲の、特に有名でもある5番のアルマンドが流れ始めると、その洗練された音楽表現と自然な流れにうっとりしてしまう。
92 バッハ  「パルティータ全曲 」BWV825-830 
バッハ(独1685-1750)の鍵盤の組曲には、この「パルティータ」のほか「フランス組曲」「イギリス組曲」などがある。「パルティータ」は、「クラヴィーア練習曲集第1部」として最初に出版され、第2部には「イタりア協奏曲」「フランス序曲」、第3部「オルガン・ミサ曲」、第4部「ゴルトベルグ変奏曲」と続く。
「パルティータ」のなかで、印象深いのは1番と6番。1番は、舞曲のリズムを生かしながら、自然にある調和、変化を音で表現しているような繊細さとともにおおらかさがある。第2曲は、イタリア協奏曲を想起させる。
6番は、第1曲が長大なトッカータ。冒頭のあふれ出る感情が曲を最後まで流してゆく。
93 バッハ 平均律クラヴィーア曲集(1)BWV846-869 
24の調による「プレリュードとフーガ」。曲集は(1)と(2)があり、(1)は1722年、(2)はその20年後に完成している。(1)で印象に残る曲は、先ずなんといっても第1曲ハ長調BWV846,この曲を基にグノーが「アヴェ・マリア」のメロディをつけて編曲しことで知られる。こうした短い曲では、第13曲嬰ヘ長調BWV858は、:明るく楽しいプレリュードとフーガが快く美しい。
圧巻は次の3曲。
第4曲嬰ハ短調BWV849のプレリュードの冒頭のモチーフが素晴らしい。フーガは堂々とした巨大な構築空間の中で、かつ濃縮された時間の流れ。
第8曲変ホ短調BWV853は、厳粛で雰囲気の中超越的な感情が鋭く語りかけてくるプレリュード、そしてゆったりと静かに流れ、命のリズムをとらえて運んでゆくようなフーガ。
そして第24曲ロ短調BWV869の長大で崇高なフーガ。
94

バッハ 平均律クラヴィーア曲集(2)

24の調による「プレリュードとフーガ」の第2集。第1集に比べ音楽性が豊か。全体的にプレリュードが美しい。優雅さ、快適さ、甘美さなど次々繰り広げられる多彩な曲想に、飽きることはない。なかでも、印象に残る曲は、第4曲嬰ハ短調BWV873、第6曲ニ短調BWV875、第8曲嬰ニ短調BWV877、第9曲ホ長調BWV878、第22曲BWV893変ロ短調など。
第4曲嬰ハ短調BWV873は、大変哀愁に満ちた深い表現で胸にしみわたってくるプレリュード、軽快ではあるが、深い情感を維持したまま進むフーガ。
第6曲ニ短調BWV875、波打つようなリズムで振り向きつつもどこまでも駆け上って行くようなプレリュード、そして、下降する力とそれを止めようとする力が拮抗するフーガ、
第8曲嬰ニ短調BWV877、快いアルマンドのプレリュード、深い底へ下りてゆくようなフーガ
そして、天から降りてきて凪の海に浮かびながらその空間に漂い自然のリズムに憩うような第9曲ホ長調BWV878、
更に、13曲以降の後半に入ると、オルガン曲のような重厚さがあり構築的な曲が多くなり、どの曲を聴いても、深い海の底の永遠のときに立脚して、海面の動きを聞き分けているような充実感を味わうことが出来る。
95 バッハ 「半音階的幻想曲とフーガニ短調 BWV903」
この曲はベートーベンもよく研究したといわれる。
幻想曲の急速なパッセージ、大胆な転調、加えて、「語り歌う」レチタティーヴォ、しばし、バッハの他の曲にみられないこのドラマティックな曲に息をのむ。
この即興的な《幻想曲》で表現は、《フーガ》という厳格性に引き継がれ高められ、濃縮される。
96 バッハ  「イタリア協奏曲BWV971」
バッハ(独1685-1750)のこの有名な「イタリア協奏曲」は、いわゆるソロと管弦楽の協奏曲ではなく、2段鍵盤(チェンバロ)による協奏曲的な形式原理を持ったソロ器楽曲である。
ヴィヴァルディなどのイタリアの合奏協奏曲の作曲原理を取り入れていることから「イタリア協奏曲」といわれている。
1楽章:ヘ長調(アレグロ)→2楽章:ニ短調(アンダンテ)→3楽章:へ長調(プレスト)と、緩/急、長/短、強/弱の効果的な組み合わせが、曲の流れを生き生きとさせると共にまとまりのあるものにしている。
特に1楽章が終わり2楽章が始まってゆく長/短調の変わり目の展開に特別な期待感を抱かせる。
97 バッハ  「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータBWV1001

バッハ(独1685-1750)のこの曲は、誰もが一度は心酔する名曲である。
パルティータ第2番のシャコンヌは、深い感動を与えてくれる。
一方、ソナタも素晴らしい。第1番の2楽章フーガの始まりの部分や3楽章のシチリアーノの柔らかな響き、第2番の3楽章アンダンテの美しさ、4楽章アレグロの不思議な響きなど魅力一杯である。また、ソナタ3番は宗教色が強いといわれる。1楽章は鐘の音、2楽章はコラールの祈り。3楽章のメロディとバスの響きが素晴らしい。
98

バッハ  「無伴奏チェロ組曲BWV1007-1012」

バッハ(独1685-1750)の「無伴奏チェロ組曲」は、聞けば聞くほど、いつの間にか自分の内面の声を聞いているような気分になってくる。言葉にならない音楽の言葉が語られてゆく。私はその言葉にうなずきながら聞く。
6曲のすべて、前奏曲が、滑り込むように曲にいざなう。第1組曲から第6組曲に至るまで、だんだん深い世界に入ってゆく。スラーが奥へ深く引きつれ、付点のリズムが激しく鼓動する。各組曲の、ブーレ、ガボットが降りtてゆく階段の踊り場で、生き生きと躍動する。第6組曲は、音域が一層幅広くなり、言葉にならぬ言葉を振り絞って語りつくして終える。
99 バッハ  「音楽の捧げもの」BWV1079
バッハ(独1685-1750)のこの有名な曲は、フリードリッヒ2世がバッハに与えた主題により作曲し王にプレゼントした作品である。魅力はこの主題の旋律。
この一連の作品のなかで、やはり「フルート・トラヴェルソ、ヴァイオリンと通奏低音のためのトリオ・ソナタ」が素晴らしい。
ラルゴ、アレグロに続きアンダンテが始まると、この曲に出会えた喜びを感ずる。
バッハが王の前で即興した「3声のリチェルカーレ」、即興できなかったが後で献呈した「6声のリチェルカーレ」など話題も面白く、曲集としても堪能できる。
主題の旋律を一本の樹にたとえるならば、次々とさまざまな樹木が展開されて、やがて、大きな森となって響き始める。この多様なバリエーションの魅力に心を奪われる。
100

バッハ  「フーガの技法」BWV1080

バッハ(独1685-1750)の「フーガの技法」は、一つの主題を複数の声部が追いかけるのであるが、そこには反行、縮小、二重、3重、鏡影、カノンなどさまざまなフーガが展開する。やや衒学的で、感覚に訴える要素を犠牲にしても、対位法の技を極限にまで突き詰めた作品といわれている。18のフーガを詩篇との関連で読み解こうとする試みもある。バッハの音楽には、音楽を超えたロゴスの世界を暗示させるような力があるのは確かだ。

12290; 89 バッハ  「パッサカリアとフーガハ短調BWV582」 バッハ(独1685-1750)のオルガン曲の中で、「パッサカリアとフーガ」は「トッカータとフーガ」に並んで素晴らしい。
冒頭の低音主題が大変印象的で、この主題の反復と変奏がグイグイと深くて雄大な世界に我々を引き込んでゆく。
90

バッハ オルガンコラール「深き淵より我汝をよばわる」

オルガンコラール「深き淵より我汝をよばわる」→詩篇130の基づくマルティン・ルターの作詞作曲。
同名のカンタータ第38がある。
詩篇130は罪の深い絶望から神の赦しを乞うという内容。
コラールの単旋律をもとに、深い淵からの重い叫びが響いてくるような荘厳な曲である。
時が生まれ一斉に万象が動き始め伸びてゆき互いに絡んでゆく。
そして怒濤のごとく流れゆく
91 バッハ  「フランス組曲 5番BWV816」 バッハ(独1685-1750)の組曲は、このフランス組曲に先立ち「イギリス組曲」がある。「イギリス組曲」は、各曲の冒頭に自由なプレリュードがおかれているが、フランス組曲は、それはなく、舞曲リズムのアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグを核とした組曲である
。バッハは、舞曲リズムから、曲のさまざまな多様性を引き出したといわれている。
繊細なリズム感、洗練された音楽表現、自然な音楽といった性格を創り出してきた。
この組曲の、特に有名でもある5番のアルマンドが流れ始めると、その洗練された音楽表現と自然な流れにうっとりしてしまう。
92 バッハ  「パルティータ全曲 」BWV825-830  バッハ(独1685-1750)の鍵盤の組曲には、この「パルティータ」のほか「フランス組曲」「イギリス組曲」などがある。「パルティータ」は、「クラヴィーア練習曲集第1部」として最初に出版され、第2部には「イタりア協奏曲」「フランス序曲」、第3部「オルガン・ミサ曲」、第4部「ゴルトベルグ変奏曲」と続く。
「パルティータ」のなかで、印象深いのは1番と6番。1番は、舞曲のリズムを生かしながら、自然にある調和、変化を音で表現しているような繊細さとともにおおらかさがある。第2曲は、イタリア協奏曲を想起させる。
6番は、第1曲が長大なトッカータ。冒頭のあふれ出る感情が曲を最後まで流してゆく。
93 バッハ 平均律クラヴィーア曲集(1)BWV846-869  24の調による「プレリュードとフーガ」。曲集は(1)と(2)があり、(1)は1722年、(2)はその20年後に完成している。(1)で印象に残る曲は、先ずなんといっても第1曲ハ長調BWV846,この曲を基にグノーが「アヴェ・マリア」のメロディをつけて編曲しことで知られる。こうした短い曲では、第13曲嬰ヘ長調BWV858は、:明るく楽しいプレリュードとフーガが快く美しい。
圧巻は次の3曲。
第4曲嬰ハ短調BWV849のプレリュードの冒頭のモチーフが素晴らしい。フーガは堂々とした巨大な構築空間の中で、かつ濃縮された時間の流れ。
第8曲変ホ短調BWV853は、厳粛で雰囲気の中超越的な感情が鋭く語りかけてくるプレリュード、そしてゆったりと静かに流れ、命のリズムをとらえて運んでゆくようなフーガ。
そして第24曲ロ短調BWV869の長大で崇高なフーガ。
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バッハ 平均律クラヴィーア曲集(2)

24の調による「プレリュードとフーガ」の第2集。第1集に比べ音楽性が豊か。全体的にプレリュードが美しい。優雅さ、快適さ、甘美さなど次々繰り広げられる多彩な曲想に、飽きることはない。なかでも、印象に残る曲は、第4曲嬰ハ短調BWV873、第6曲ニ短調BWV875、第8曲嬰ニ短調BWV877、第9曲ホ長調BWV878、第22曲BWV893変ロ短調など。
第4曲嬰ハ短調BWV873は、大変哀愁に満ちた深い表現で胸にしみわたってくるプレリュード、軽快ではあるが、深い情感を維持したまま進むフーガ。
第6曲ニ短調BWV875、波打つようなリズムで振り向きつつもどこまでも駆け上って行くようなプレリュード、そして、下降する力とそれを止めようとする力が拮抗するフーガ、
第8曲嬰ニ短調BWV877、快いアルマンドのプレリュード、深い底へ下りてゆくようなフーガ
そして、天から降りてきて凪の海に浮かびながらその空間に漂い自然のリズムに憩うような第9曲ホ長調BWV878、
更に、13曲以降の後半に入ると、オルガン曲のような重厚さがあり構築的な曲が多くなり、どの曲を聴いても、深い海の底の永遠のときに立脚して、海面の動きを聞き分けているような充実感を味わうことが出来る。
95 バッハ 「半音階的幻想曲とフーガニ短調 BWV903」 この曲はベートーベンもよく研究したといわれる。
幻想曲の急速なパッセージ、大胆な転調、加えて、「語り歌う」レチタティーヴォ、しばし、バッハの他の曲にみられないこのドラマティックな曲に息をのむ。
この即興的な《幻想曲》で表現は、《フーガ》という厳格性に引き継がれ高められ、濃縮される。
96 バッハ  「イタリア協奏曲BWV971」 バッハ(独1685-1750)のこの有名な「イタリア協奏曲」は、いわゆるソロと管弦楽の協奏曲ではなく、2段鍵盤(チェンバロ)による協奏曲的な形式原理を持ったソロ器楽曲である。
ヴィヴァルディなどのイタリアの合奏協奏曲の作曲原理を取り入れていることから「イタリア協奏曲」といわれている。
1楽章:ヘ長調(アレグロ)→2楽章:ニ短調(アンダンテ)→3楽章:へ長調(プレスト)と、緩/急、長/短、強/弱の効果的な組み合わせが、曲の流れを生き生きとさせると共にまとまりのあるものにしている。
特に1楽章が終わり2楽章が始まってゆく長/短調の変わり目の展開に特別な期待感を抱かせる。
97 バッハ  「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータBWV1001
バッハ(独1685-1750)のこの曲は、誰もが一度は心酔する名曲である。
パルティータ第2番のシャコンヌは、深い感動を与えてくれる。
一方、ソナタも素晴らしい。第1番の2楽章フーガの始まりの部分や3楽章のシチリアーノの柔らかな響き、第2番の3楽章アンダンテの美しさ、4楽章アレグロの不思議な響きなど魅力一杯である。また、ソナタ3番は宗教色が強いといわれる。1楽章は鐘の音、2楽章はコラールの祈り。3楽章のメロディとバスの響きが素晴らしい。
98

バッハ  「無伴奏チェロ組曲BWV1007-1012」

バッハ(独1685-1750)の「無伴奏チェロ組曲」は、聞けば聞くほど、いつの間にか自分の内面の声を聞いているような気分になってくる。言葉にならない音楽の言葉が語られてゆく。私はその言葉にうなずきながら聞く。
6曲のすべて、前奏曲が、滑り込むように曲にいざなう。第1組曲から第6組曲に至るまで、だんだん深い世界に入ってゆく。スラーが奥へ深く引きつれ、付点のリズムが激しく鼓動する。各組曲の、ブーレ、ガボットが降りtてゆく階段の踊り場で、生き生きと躍動する。第6組曲は、音域が一層幅広くなり、言葉にならぬ言葉を振り絞って語りつくして終える。
99 バッハ  「音楽の捧げもの」BWV1079 バッハ(独1685-1750)のこの有名な曲は、フリードリッヒ2世がバッハに与えた主題により作曲し王にプレゼントした作品である。魅力はこの主題の旋律。
この一連の作品のなかで、やはり「フルート・トラヴェルソ、ヴァイオリンと通奏低音のためのトリオ・ソナタ」が素晴らしい。
ラルゴ、アレグロに続きアンダンテが始まると、この曲に出会えた喜びを感ずる。
バッハが王の前で即興した「3声のリチェルカーレ」、即興できなかったが後で献呈した「6声のリチェルカーレ」など話題も面白く、曲集としても堪能できる。
主題の旋律を一本の樹にたとえるならば、次々とさまざまな樹木が展開されて、やがて、大きな森となって響き始める。この多様なバリエーションの魅力に心を奪われる。
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バッハ  「フーガの技法」BWV1080

バッハ(独1685-1750)の「フーガの技法」は、一つの主題を複数の&