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SPRING
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TREE |
HAIKU |
POET |
紅梅 |
紅梅や枝枝は空奪ひあい |
鷹羽狩行 |
紅梅の紅の通へる幹ならん |
高浜虚子 |
黄梅 |
石庭の石やはらげて迎春花 |
岡本尚枝 |
梅 |
一本の梅の遅速を愛すなり |
撫村 |
散る梅や風に翼を得し如く |
石塚友二 |
梅一輪一輪ほどの暖かさ |
嵐雪 |
東より春は来ると植えし梅 |
高浜虚子 |
わが家の庭も東側に梅の木があり、寒い冬の合間に暖かさが少し感じられるようになる頃、梅が風に乗って運ばれてきたように枝にちらほら花をつける。まだ遠くにあるが、確実に春が来ることを実感する。 |
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椿 |
赤い椿白い椿と落ちにけり |
河東碧梧桐 |
仰向きに椿の下を通りけり |
池内たけし |
炎えるかも知れぬ椿を見ていたり |
蝶丸 |
椿落つたびの波紋を見てをりぬ |
結城昌治 |
連ぎょう |
連ぎょうの一枝づつの花ざかり |
星野立子 |
連ぎょうに挨拶ほどの軽き風 |
遠藤梧逸 |
連ぎょうに空のはきはきしてきたる |
後藤比奈夫 |
さんしゅゆ |
うらうらとさんしゅゆの咲く枯木中 |
中村嵐石 |
さんしゅゆに明るき言葉こぼし合う |
鍵和田柚子 |
連翹やミモザやさんしゅゆなどは、周りの殆どが枯れ木であるときに、明るい黄色が目に
入ってくる。桜などの華やかさとは異なり、寂しい空気に黄色がにじみ出るように咲く。 |
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しだれ桜 |
まさをなる空より枝垂桜かな |
富安風生 |
桜 |
まだ醒めぬ山を幾重に遠桜 |
角川照子 |
花びらの山を動かすさくらかな |
酒井抱一 |
夕桜後ろ姿の木もありて |
長谷川櫂 |
ゆさゆさと大枝ゆるる桜かな |
村上鬼城 |
咲き満ちて風にさくらのこゑきこゆ |
森 |
花 |
雪山のどこも動かず花にほう |
飯田龍太 |
道に敷く花吹雪とはなりにけり |
阿波野青畝 |
咲き満ちてこぼるる花もなかりけり |
高浜虚子 |
中空にとまらんとする落花かな |
中村汀女 |
声なくて花のこずえの高わらい |
野々口立圃 |
この句は桜を読んだものであろうが、むしろ泰山木や朴木が高い枝に大きな花を咲かせている姿を見ると、この詩がぴったりする。
樹木は、花を人間のためなどではなく、 はるか天上を向いて咲かせている。
世界は人間が中心ではないという樹木の主張を感じる。
根が地下に張り、枝が天空に伸びるために、樹木を地と天をつなぐ宇宙軸とみ なす考えが古くからあるが、無限に拡がる大空を背景に、色とりどりの花を咲かせることを許された樹木の存在は、人間にとって憧れでさえある。 |
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山桜 |
耕人に傾き咲けり山桜 |
大串 章 |
落花 |
しきりなる落花の中に幹はあり |
長谷川素逝 |
一山のこらへきれざる花ふぶき |
野沢節子 |
落花枝にかへると見れば胡蝶かな |
守 武 |
はなすおう |
むらさきの他は許さずはなすおう |
佐塚半三 |
沈丁花 |
沈丁の香の石段にたたずみぬ |
高浜虚子 |
満天星 |
満天星の花がみな鳴る夢の中 |
平井照敏 |
木蓮 |
木蓮の風うけてものいふごとし |
正木不如丘 |
白木蓮空に鼓動のあるごとし |
朝倉和江 |
ひらくよりはや傷つけり木蘭(もくれん)は |
堀 葦男 |
辛夷 |
かの家の辛夷今年も魁けて |
原コウ子 |
梅が終わるころ、辛夷や白木蘭があちらこちらの家の庭や公園で咲き始める。面白いことに、この句のように真先に咲く木は、毎年決まって同じである。また、美しい大きな花びらをつけるやいなや、春の突風で傷つけられ痛々しい姿になる。 |
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わが山河まだ見尽さず花辛夷 |
相馬遷子 |
桃の花 |
野に出れば人みなやさし桃の花 |
高野素十 |
海女とても陸こそよけれ桃の花 |
高浜虚子 |
梨の花 |
青天や白き五弁の梨の花 |
原 石鼎 |
杏の花 |
一村は杏の花に眠るなり |
星野立子 |
ともしびを得しごと杏家づとに |
宮津昭彦 |
木の芽 |
がうがうと欅芽ぶけり風の中 |
石田波郷 |
木の芽して今おもしろき雑木かな |
高浜虚子 |
木々おのおの名乗り出でたる木の芽哉 |
小林一茶 |
一雫こぼして延びる木の芽かな |
有井諸九 |
木(こ)の芽してあはれ此世にかへる木よ |
村上鬼城 |
毎春に樹木から木(こ)の芽が出るが、それをこの世へ「かへる」といい、それを「あわれ」と謳っている。
再生することの喜びととともに、他方で、この世に何度も生れ変わる樹木のけなげな姿への同情とが入り交じった句であるが、そこに「一回の生」を自覚している人間の「私」の哀しみを一層感ずる。 |
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牡丹の芽 |
折鶴のごとくにたためる牡丹の芽 |
山口青そん |
満つる力は破るる力牡丹の芽 |
加藤秋そん |
黒文字 |
雪中の折ればくろもじ匂ひたつ |
青柳志解樹 |
柳 |
卒然と風湧き出でし柳かな |
松本たかし |
松の花 |
松の花何せんと手をひらきたる |
佐藤鬼房 |
みつばつつじ |
山つつじ照る只中に田を墾く |
飯田龍太 |
猫柳 |
ときをりの水のささやき猫柳 |
中村汀女 |
水にまだ何も泳がず猫柳 |
橋本花風 |
猫柳湖畔の春はととのはず |
五十嵐播水 |
猫柳そのいぶし銀風が研ぐ |
徳永山冬子 |
ユズリハ |
ユズリハや亡夫の時計子の腕に |
石田あき子 |
木苺 |
木苺の種噛む音を愉しみて |
飯島晴子 |
小手鞠 |
こでまりや谷戸の細径また曲る |
正木千冬 |
夏蜜柑 |
夏蜜柑月のごとくにぶらさがり |
上野泰 |
夏みかんむきをる顔のすっぱさよ |
唐笠何蝶 |