岩波書店「ホビットの冒険」各版翻訳比較
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ここでは、2000年8月に岩波書店より刊行された少年文庫版「ホビットの冒険」新版とそれ以前の版との訳の相違について記述している。
新版では翻訳の一部改定が行なわれているとの情報に基づき、当会会員が以前の版(少年文庫の旧版)との比較を行なった。さらに愛蔵版(ハードカバーの一冊本)とも食い違いがあり、愛蔵版との比較もあわせて行なった。
見たところ、今回の改定の主な特徴は以下の通りである。
  1. いわゆる禁止用語の類をすべて言い換えている。
  2. ひらがな表記でかえってわかりにくくなるような語句を、漢字にしているものが多い。(むろん漢字→かな化されたものもある)
    この改定は「2.漢字の改定」にまとめた。
  3. 少年文庫旧版から愛蔵版になる際、訳の改定をだいぶ実施したが、さらに今回新版になるにあたって、そのうちの一部がもとに戻ってしまっている。 つまり、愛蔵版で改定された訳がそのまま少年文庫新版でも使われている場合(愛蔵版での改定が引き継がれたもの)と、使われていない場合(愛蔵版の改定が採用されなかったもの)とある。 この改定は「3.愛蔵版との比較」にまとめた。 なお、少年文庫旧版と愛蔵版との訳の相違についての考察は、当会正会誌「the White Rider Vol2」に掲載されている。(復刻版に収録) この他、一部訳の改定も行なわれている。

    それにしても何故、愛蔵版で改訳したものの中で今回採用されたものとされなかったものがあるのか。単なる表現だけではなく、文章の意味が変わってしまう訳もその中に含まれている。

    なお今回の比較に使用した版は次の通り。
    ・少年文庫新版上下2巻(新上または下と記述)2000年8月発行、第一刷
    ・少年文庫旧版上下2巻(旧上または下と記述)1980年10月発行、第三刷
    ・愛蔵版(愛と記述)1983年9月発行、第10刷改版

    比較は各項目毎に、初出ページの順に並べた。
    最初に新版の訳をおき、そのあとに旧版および愛蔵版の訳を並べた。同じ訳文の場合は重複せずにまとめた。
    文章の意味が変わった改定については、参考までに原書の英語をあわせて掲げた。
    なお英語テキストにはAllen&Unwin社1977年3刷(1975年改版)を用いた。

    1.訳の改定
      むこうみずな冒険(新上20)
      きちがいじみた冒険(旧上17、愛16)

      蹄鉄鍛冶屋にもなったし、つらくてきつい石炭掘りまでしたことがある。(新上57)
      つまらぬ蹄鉄鍛冶屋や、それどころか石炭掘りにまで、身をおとしたこともある。(旧上52、愛47)

      すこしやすんで、(新上104)
      すこしわたしたちの家へとまって、(旧上95、愛85)

      一刻も早く晩ごはんにありつきたくて、やすまずに、(新上105)
      晩ごはんだけを、できるだけさっさとごちそうになって、(旧上96、愛86)
      But the dwarves were all for supper as soon as possible just then,…

      みんなわけがわからないまま(新上133)
      みんなきちがいになったように(旧122、愛108)

      眼がみえなくなった(新上144)
      めくらのくせに(旧上132、愛118)

      魚をねらい(新上145)
      めくらの魚をねらい(旧上133、愛118)

      眼のみえない(新上144)
      眼のない(旧上132)
      めくらの(愛118)

      かりたてているのかが(新上168)
      きちがいじみさせているのかが(旧上155、愛136)

      やみくもに(新上168)
      めくらめっぽうに(旧上155、愛137)

      ああ、そうか!(新上193)
      なるほど、そうか!(旧上178、愛158)

      足をひきずりながらも(新上197)
      びっこをひきひき(旧上182、愛161)

      アクマイヌ(新上201,203,204,207,209,257,258,259,260,265,下218,225)
      きちがい犬(旧上186,187,188,189,192,193,239,240,241,247,下201,206、愛164,165,166,167,168,171,211,212,213,217,436,441)

      気がくるったように(新上244)
      きちがいのように(旧上227、愛200)

      ひた走る牡ジカ(新上284)
      ひた走るシカ(旧上263、愛233)

      牝ジカも、子ジカたちも(新上286)
      牡ジカも、牝ジカたちも(旧上265、愛234)

      そのことしか話せぬなら、(新上294)
      あることについてしっかり話せぬ時は(旧上272、愛241)
      In fact if you can't talk about something else,…

      ひどいことは(新上299)
      ばかげたことは(旧上277、愛245)

      バギンズどのなら連中もこわがるまい(新上299)
      バギンズどのならこわがるまい(旧上277、愛245)

      足をひきずったり(新上320)
      びっこをひいたり(旧上297、愛262)

      この種族は、西のくにへいったことはありません。西のくにでは、(新上326)
      この種族からは、西のくにの妖精族になったものはありません。この種族は、(旧上302、愛267)
      …were descended from the ancient tribes that never went to Faerie in the West. There…

      むかしからずっと森エルフたちは、(新上326)
      むかし森エルフたちは、(旧上302、愛267)

      ひどいことを知って(新下47)
      わからないことをきいて(旧下41、愛299)

      遠くにいたガンダルフは、(新下47)
      遠くにいたガンダルフが、(旧下41、愛299)

      結びめだらけの細いつなでは、(新下78)
      結びめだらけのつなでは、(旧下71、愛325)

      そのうれしがりようと同じくらい、たまげてもいました。(新下96)
      そのうれしがりようは、ビルボがたまげたくらいでした。(旧下87、愛339)
      …and as delighted as he was surprised.

      川の水が蒸気となってはげしくたちのぼりました。(新下99)
      川ははげしく波立ってうちあいました。(旧下89、愛342)
      …the waters rose in fierce whistling steam,…

      いつ何時、上から(新下100)
      いつ何時上から(旧下90、愛342)

      あなだったのです。ビルボはそれをとりあげていってやりたい気がしました。やがて、まったくとほうにくれた人のつねとして、(新下103)
      あなになっていて、ビルボもそれをとりあげていいました。こうなると、まったくとほうにくれた人のつねとして、(旧下93、愛344)
      which had always been a weak point in their plans,as Bilbo felt inclined to point out.Then as is the nature of folk that are thoroughly perplexed,…

      竜の眼もとどかず、(新下102)
      竜もとどかず、(旧下92、愛344)

      竜が眠っているすきをねらおうなどという気はおこさなかったでしょう(新下106)
      そんなやつの寝ているところへいく気はおこらなかったでしょう(旧下95、愛346)
      …and less hopeful of catching this one napping.

      おくりものをいただきにきた(新下108)
      みつぎものを持ってきた(旧下97、愛348)
      I did not come for presents.

      大きな穴がある(新下116)
      大きなつぎがあててある(旧下105、愛355)
      …there is a large patch in the hollow…

      蒸気(新下117)
      湯気(旧下106、愛355)

      腹がけ(新下120)
      腹巻(旧下108、愛358)

      ひかれて(新下136)
      ひかされて(旧下123、愛370)

      さいげんもなく(新下139)
      きちがいのように(旧下126、愛373)

      大きな入口(新下143)
      さきの入口(旧下130、愛376)

      戦うべしと命じてほしいと(新下157)
      戦うべしと、統領から命じてほしいと(旧下142、愛387)

      人々の鼓膜をやぶり、(新下162)
      人々をつんぼにし、(旧下146、愛390)

      進むしたくをしました。(新下171)
      進んでいきました。(旧下156、愛398)

      眼がみえず頭のまんなかがはげていて、(新下175)
      めくらで、頭のまんなかがはげていて、(旧下160)
      頭のまんなかがはげていて、めくらになりかけて、(愛401)

      大きなしらせがはいってきております。(新下176)
      しらせがたくさんはいります。(旧下161、愛402)
      …there are great tidings…

      さて、およろこびはこれまでですぞ(新下177)
      これは、まことにうれしききわみでございます(旧下162、愛403)
      So much for joy,

      (これはたいへんなまちがいでした。)そして、この問題を平和のうちにおさめるためなら、自分のわけまえをそっくり投げだしてもいいとさえ思いました。(新下179)
      これはたいへんなまちがいでした。かれはこの問題を平和のうちにおさめるために、自分のわけまえをそっくり投げだすことになるのです。(旧下164、愛405)
      - in which he was much mistaken - and he would have given most of his share of the profits for the peaceful winding up of these affairs.

      トーリンの気分を(新下183)
      気分を(旧下168、愛408)

      ところかまわずつき出される槍(新下223)
      めくらめっぽうにつき出す槍(旧下204、愛440)

      (みなさんは、おぼえておいででしょうが)あのけわしい(新下256)
      おぼえておいででしょうが、あのけわしい(旧下236、愛467)

      統領はやはりあの竜の(新下266)
      このしんせつがあだになって、統領はあの竜の(旧下245、愛475)
      but being of the kind that easily catches such disease he fell under the dragon-sickness,…

    2.漢字の改定 3.愛蔵版との比較

    (a)愛蔵版での改定が引き継がれたもの
    (b)愛蔵版の改定が採用されなかったもの

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