ファミリア世界名作劇場・1



 昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
 おじいさんはいい年してへれへれ緑のワカメ頭、おばあさんに至っては、蛇だかムカデだかの胴体に人間の上半身がくっついているという、わけのわかんない代物でしたが、気にしちゃあいけません。あ、ちなみに分身のほうですんで。

 ある日、おばあさんが川へ洗濯に行くと、川上から大きな桃が流れてきました。その桃を何とか抱え上げると、おばあさんは家まで持って帰りました。拾い食いするつもりです。洗濯物はどうするんでしょうね。
 そして柴刈りから帰ったおじいさんと一緒に、包丁を入れたところ、中からなんと、玉のような男の子が出てきました。
 ……勢いあまって包丁が胸に刺さっていたりするんですけど、何とか命は取り留めたみたいです。まして、おばあさんがそのまんま気にしないで食べようとしてたなんてただの噂です。信じちゃダメですよ!
 子供のいなかったおじいさんとおばあさんは、「桃から生まれたから桃太郎」と、どっかの方向音痴みたいに安直な名前を付けて、喜んでこの子を育てることにしました。
 そんでまあ、めんどうくさいんで端折りますけど、桃太郎はすくすく育ち、やがて美形で超天才で運動神経もあって魔力もプラーナもめちゃくちゃ高いという、なんか反則っぽい設定の若者へと成長しました。
「当然です」
 可愛げは全然ないですけどね。
「おや、今何か言いましたか?」
 いえなんでもないです。
「まあ、いいでしょう。では、そろそろ鬼退治に出かけましょうか」
 いきなり無茶を言い出した桃太郎でしたが、おじいさんもおばあさんも理由を聞かず、止めようとしませんでした。きっといつものことなんですね。
「ほぅ……それはどういう意味です?」
 えっえっ、あの、キビ団子と旗の用意が出来たみたいですよっ! もらってさっさと出かけましょうよっ!
「旗は必要ありません。欲しいならあなたが持って行きなさい」
 イヤですよあたしだって。でかでかと『日本一』なんて大書きしてるよーな悪趣味なの担いでくのは。
「でしたら黙って付いて来るのですね」
 えーっ、ホントに行くんです……わかりました、わかりましたよっ! 行けばいいんでしょ。ぶちぶち。

 結局旗は置いてきました。まあどーでもいいですけど。
 さて、鬼が住んでる鬼ヶ島へ向かう途中、桃太郎は一匹の犬に会いました。小柄で茶色の毛がふわふわしてて、たしかに見るからに人懐っこそうですが、それにしても何がそんなに気に入ったのか、こともあろうに桃太郎に、やたらとつきまといます。
「桃太郎様、わたくしもお供なさらせてくださいませ」
 犬が喋りましたよ……世の中一体どうなってるんでしょうねぇ。
 しかもちょっと文法が変です。
「構いませんよ、お好きなように」
 これから危険な鬼ヶ島へ行くってゆーのに、桃太郎はあっさり承諾しました。
 連れてくんですか? なんかボケっとした感じで、大して役に立ちそうもないですよ。
 あ、わかりました、どっかで売り飛ばすんですね。キビ団子で手懐けといて。さすがです。
 ……なんですか、なんなんですか、その目は……
「自分の胸にお聞きなさい」
 どれどれ……? 何にも聞こえないんですけど…。って、こんなところで置いてかないで下さいよぅ。

 さてさて、犬を連れた桃太郎がまたしばらく歩いていると、いかにもやる気のなさそうな、サルが道端で寝てました。昼寝にしても、せめて木の上でしたらどうなんでしょうサルらしく。
「ずいぶんと退屈そうですね。なんなら私と来てみますか?」
 下手なナンパみたいです。
「……なんで君と行かなきゃいけないわけ?」
「少々、手をお借りしたいのでね。黍団子もあげますよ。
 もちろん強制はしませんが」
 そうですよね。そこはかとなく、笑顔で威圧してますけど。
「……別にいいけど……
 はあ、かったるい……」
「お猿さん、きちんと桃太郎様のお役にお立ちになって差し上げなくては、わたくしがご承知なさいませんわよ」
 相変わらず、犬の喋り方は文法が変です。
 それにしてもこんなのに、どうやって手を借りるというんでしょう。本当に、桃太郎の考えることってわかりません。

 えーと、雉です。
「ちょっとどういうつもりよ、そのいい加減な説明はっ!」
 だってこれで三回目ですよ? いまさら言う事なんか残ってないじゃないですか。
「だーめ」
 まったくわがままなんですから。だいたい、似たようなパターンなんだから一回で済ませりゃいいものを、いちいち解説させられる、こっちの身にもなってくださいよ。
「つべこべ言わずに、さっさとやるっ!」
 はいはいはい。まったく我儘なんですから。
 えとそんじゃまあ、雉のくせして全身どハデに真っ赤なケバ……い、いたたたたたたっ!
「もういいからあんたは引っ込んでなさいっ!
 桃太郎様v お腰につけた××××、美味しそうだから食べちゃうわv」
 ……キビ団子です。キビ団子のことを言ってるんですからねっ。キビ団子のことに決まってますとも、ええ!
「お下劣ですわよ、雉さんっ」
「あーら、何をひとりでムキになってるのかしら?」
 それまで桃太郎にべったりくっついてた犬が、いきなり雉とケンカを始めました。いやしくも犬だったら普通、喧嘩はサルとするもんなんですけどね。なにせ相手がとことんやる気ないですから。
 あんまりケンカに夢中になって、このあたしが教えてあげなきゃ、もうすこしで桃太郎に置いていかれるところだったんですよ。
「それって余計なお世話だったんじゃないかな」
 ……ちょっとそういう気も……まあ、しないこともないですが……

 どんぶらこ、と海を渡って鬼ヶ島。狭い舟の上でまた犬と雉がケンカを始めて鼓膜がちょっといかれてますけど、何とか無事に着きました。
 しかし鬼の住処の手前には、大きくて頑丈そうな門があります。もちろんぴったり閉まってます。
 さあそれじゃあ手筈どおり、雉が空から偵察して、サルが門をよじ登って中から──
「ブラックホールクラスター、発射!」
 きゅごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。
 ……いきなり大穴開けちゃいましたよ、この人は……
 見かけほどなぜか威力は凄くないんで、ちょうどいい具合に道が出来たんですけど。ほとんどここしか出番のない、雉とサルの立場はどーするつもりなんですか?
「なにか不満でもあるんですか?」
 い、いえいえ滅相もございませんっ! だからこっちに照準向けないでくださいっ!
 ……こほん。
 門を破った桃太郎一行が中に入ると、青鬼たちが待ち構えていました。
 大群……と行きたいところですが、さっき門と一緒に吸い込まれたのか、ずいぶん数が少ないです。おまけに腰が引けてます。そりゃそーでしょーね。
 って、ああッ! 青に混じって何体か、キンキラキンの金の鬼がっ! これを倒せば大もうけっ!
「あれが財宝も兼ねてるという訳ですか。手抜きですね」
 いーじゃないですか。お金になれば♪
 ああ、ひょっとしたらさっき吸い込んじゃった中にも居たかもしれません。もったいない……。後先考えずに暴れるから、こういうことになるんですよ。
「どうやらあなたとは、一度きちんと話をする必要がありそうですね」
 な、なんなんですかいきなり。あたしゃ別に話なんかありませんよ〜〜?
「それよりさ、まずはあいつらなんとかしてよ。どーも苦手なんだよね」
「それもそうですね。では……」
 桃太郎は印を結び、呪文を唱え始めました。
 するとなんと、あちこちの地面から、ぽこぽこぽこぽこぽこっ、とそっくり同じ青鬼が湧いて出てきたじゃあないですか。
「あの程度、直に相手をするまでもありません。片付けておしまいなさい」
 桃太郎に命令されて、新しく出てきた鬼たちは、もともといた連中に一斉に襲い掛かりました。桃太郎と犬サル雉は、横でぼーっと見ています。
「あなたのようなお下品な方が桃太郎様のお側にいらっしゃらるなんて、わたくし許されませんわっ」
「うるっさいわね、キャンキャン騒ぐんじゃないわよ小娘っ!」
 ……もとい。犬と雉のじゃれあいを、桃太郎とサルが眺めています。
 仮にもクライマックスの決戦が、こんなことでいいんですか?
「ほう……この私に指図しようというのですか? いい度胸です。くくく……」
 言いません、もう何も言いませんからっ。せめてその含み笑いだけでもどうにかしてくださいっ!
「わかれば良いのです」
 もうやだ……。鬼はあらかた倒したんですから、金の奴だけ回収して、とっとと帰っちゃいましょうよぅ。
「まだですよ。囚われの姫君を助けなくてはね」
 ……そういう展開の話でしたっけ……?
「版によってはそうなんです」
 はー、そりゃ知りませんでした。
 でももういい加減だれてきてるんで、救出シーンはカットします。じゃあそういうことですんで、ひとつよろしく。
「…………ちょ、ちょっと待て俺かっ!? 俺なのかっ!?」
 きちんと話を聞いてなかったのか、急遽引っ張り出されたお姫様はかなり驚いたようでした。俺かって、あんたの他にいないでしょうが。そりゃちょっと人選に納得いかないですけど。
 いやですねぇ、察しの悪い人はこれだから。
「そーゆー問題じゃねえだろっ!」
 なんと言おうが、もう決まったもんはしょうがありません。あきらめて大人しくるんですね。
「バカ野郎 誰がするかっ! クロ、シロ、やっちまえっ!」
 ね。ネコっ!? ひぃぃぃぃっ、お助けぇっ!
「ようやく自由なれて嬉しいのはわかりますが、下品ですよ」
「てめぇも順応してんじゃねぇっ!」
「……やれやれ、聞き分けの悪い人ですね」
 興奮して暴れていたお姫様でしたが、桃太郎が呪文を唱えると、ペットの二匹の猫ともども、たちまち寝息を立て始めました。そのまま縄でぐるぐる巻いて、猿轡をかませておいて、もののついでのふりしてちゃっかりパクッたお宝と一緒に、車に積んで凱旋です。
 ネオ・ドライブを使いましたから、帰りはあっという間でした。
 途中ではぐれたお姫様が、迷子になったりもしましたが、
「だぁぁぁぁぁぁっ! なんでこんなとこまで追って来やがるっ! しつっこいぞてめえっ!」
「……あなたが勝手に戻ってきたんですよ」
 しばらくして無事に見つかりました。

 さて。手下を引き連れ無事に帰った桃太郎を、おじいさんもおばあさんも大喜びで出迎え……って、ちょっと何する気なんですっ!?
「只今戻りました。さっそく、これまでのお礼をさせていただきますよ。
 よくも毎晩毎晩人の耳元で、余計なことを吹き込んでくれましたね」
 あのひょっとして……そんなのが原因で行く気になったんですか鬼胎児……?
「どんな理由があろうとも、この私を利用しようとしたことは許せません。
 ──縮退砲、発射!」
 しゅよしゅよしゅよしゅよしゅよしゅよしゅょしゅよ。ずごごごごごごごごごごごぐちゃ。
「……お前って奴は……」
 ミもフタもない桃太郎の一撃で、いいわけする暇もないまま、おじいさんとおばあさんは事象の地平に消えました。お姫様もびっくりです。
 ところであのお姫様、島からずっと犬と雉につつかれ通しで、なんだか血まみれなんですけど……
「構いませんから放っておきなさい。これぐらいの試練には耐えていただきませんとね。くくくくく」
 ……だから含み笑いはやめてくださいってば。
 ともあれ桃太郎は、さっきの攻撃で壊した家を建てかえて、お姫様と一緒に、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
「俺は不幸だっ!」
 やですねぇ。『桃太郎が』あなたと一緒に『幸せに暮らした』んであって、あなたが幸せだなんで誰も言ってませんよ。ちゃんと人の話聞いてました?
「やかましいっ! とにかく終るなこんなところでっ!」
 やです。べつにあたしが不幸になった訳じゃないし。こっちにとばっちりが来る前に、さっさと終らせちゃいます。
「冗談じゃねぇっ! このまま黙って……
 ……って……
 ちょっと待て何する気だお前っ!?」
「なに、大したことではありませんよ」
 おや、いつのまにか桃太郎が、お姫様ににじり寄ってきてますね。なんだかやけに楽しそうです。
「ややややややめろ寄るな来るな近づく……うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ぶん取ってきたお宝に物を言わせた立派な御殿の中からは、お姫様の声が、いつまでもいつまでも響いていましたとさ。
 めでたしめでたし。

チカの日本昔話・完


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 すいません悪気はないんです許してください。
ただちょっと、『あのジャケットの肩の線って裃っぽいよな〜』と思った瞬間、なぜか愉快な仲間たちと、某「メガネド○ッグ」のCMキャラとが融合進化してしまったんです。
それで一気に書き上げて以前とある掲示板に投稿したものを、今回また引っ張り出してきた訳です。ちょっと修正もしてますが。
しかも勢いに任せて、裏Ver.までこっそり作っていたりします。
いや『裏』って言ってもキャスティングを取っ替えただけです。まかり間違っても、お姫様(笑)があのあと、具体的にどう不幸になったとかいう内容じゃあないですよ?
あでも、キャラの壊れ方は表以上にひどいです多分。それとにゃーにゃー煩いのは不可抗力です。
この下にリンク張ってありますので、どうにかここまでたどり着かれた方ならば、挑戦してみてもまあ通信費とか時間とか、取り返しのつく程度の損害しか蒙らないかもしれません。


今の内にモドル

やってやるぜ!