かかりつけ医通信     第23号   2002年3月6日発行より抜粋です。
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    健康・医療のお役立ち情報・・・医療の現場から
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▼目次▼
1) 花粉症について

今回は花粉症について、群馬県の川島医院(耳鼻咽喉科)川島 理先生に執筆していただきました。
 http://med.gunmanet.or.jp/kawasima/
次号では、花粉症について、眼科医と内科医からの情報を掲載する予定です。
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1) 花粉症について

○花粉症とは?

 花粉症という病名は、正確ではありません。花粉症は、花粉が原因で起こるアレルギー性炎症ですから、「花粉によるアレルギー性鼻炎」「花粉によるアレルギー性結膜炎」というのが、正式な病名となります。その他、咽頭炎、喉頭炎、皮膚炎、花粉喘息などが出る場合もあります。
 花粉症というと「スギ花粉症」と思われがちですが、実は、日本では今までに50種類を越える花粉症が報告されています。主要なものとして、スギ(3月から4月)、ヒノキ(4月下旬から5月上旬)、イネ科(カモガヤ、ハルガヤ、5月から6月)、キク科(ブタクサ、9月から10月)などがあります。
 ヒノキ花粉とスギ花粉は、アレルギーを起こす成分に共通性があり、スギ花粉症患者さんの約7割がヒノキ花粉に対するアレルギーを持っています。ですから、スギ花粉飛散の少なくなる4月下旬頃に症状が悪化する場合はこのヒノキ花粉症を疑う必要があります。
 また北アメリカではブタクサ花粉症、欧州ではイネ科花粉症がもっとも重要な花粉症と考えられています。
 花粉症の予後についての研究は少ないのですが、約2%から5%しか自然に治らないと報告されています。
 この花粉症が増えた原因は、以下のことが言われています。
 第一は、原因物質であるスギ花粉そのものの爆発的な増加です。スギ造林面積は、1960年代から70年代にかけて飛躍的に拡大し、この時期のスギが いま成熟し、大量の花粉をまき散らし始めたからです。さらに林業の衰退で、枝切り、間伐などの手入れがされなくなったことも関係しています。
 第二は人々の体質の変化です。様々な薬品や化学物質、大気汚染、食品添加物や高タンパク・高脂肪の食生活など、生活環境の変化がおこり、精神的なストレス、不規則な生活が多くなったことによります。
 第三は大気汚染との関係です。花粉症は、地方よりも都会の方が罹患率が高いのです。ディーゼルエンジンの排気ガス・コンクリートとアスファルトに覆われた都会では、花粉はいつまでも土などに吸収されず、何度も舞い上がる再飛散が問題を深刻にしています。
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○花粉症の診断について

 花粉症の症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ)が花粉の吸入に応じて起こることが第一です。カゼとの違いは、花粉症は発熱、のどの痛みや消化器症状などの全身症状が少なく、鼻症状と眼症状が主体で、症状が毎年同じ時期にあらわれるのが特徴です(しかし、頭痛・頭が重い・のどの違和感・のどのかゆみ・顔がほてる・食欲低下・胃がもたれる・身体がだるい・イライラする などの症状もあらわれますので、注意が必要です)。また遺伝することが多く、家族にアルルギー疾患を持つものが多く見られます。最終的な原因物質の確認にはアレルゲンの皮膚試験、アレルゲンの鼻粘膜誘発試験、血液検査でIgE 抗体を測定することなどが行われます。
 しかし、花粉症だと言ってくる患者さんが別のアレルギー性鼻炎だったり、別の病気(慢性副鼻腔炎、鼻中隔弯曲症、副鼻腔腫瘍など)であることが少なくありません。
おかしいなと思ったら、自己診断せず、きちんと耳鼻咽喉科専門医の診断を受けてください。
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○花粉症の治療

「生活指導」、「薬物療法」、「減感作療法」および「手術療法」の4種類に分けられます。

1.「生活指導」
 体調の悪化によっても症状を起こします。仕事が忙しい、寝不足、ストレス、感冒、過度の飲酒などは注意が必要です。
2.「薬物療法」
 内服薬・点鼻薬を使用します。
3.「減感作療法」
 感作された(過敏になった)体質を減らす治療法です。一般的には花粉などの原因物質を週に1ー2回皮内注射を行いますが、注射量は少ない量から徐々に増加させ、ある程度の量になったら維持量として継続します。少なくとも2年間は続けることが必要で、スギ花粉症の有効率は約60-70%と言われています。過敏反応やショックなどの副作用もありますので、専門の施設でおこなわれます。
4.「手術療法」
 花粉が鼻の粘膜に貼りついて症状を起こすわけですから、その粘膜の表面積を減らしたり、粘膜の反応を鈍らせる手術がおこなわれます。粘膜切除術、レーザー照射術、高周波電気凝固術、化学薬剤手術などがあります。
 特に、最近は、レーザー照射術が広くおこなわれるようになってきました。手術中の痛みも少なく、術後の出血もほとんどありませんので、外来で可能です。鼻の粘膜は再生能力がありますので、一回だけではなく何回かにわたっておこなう必要があります。秋口に一度・花粉シーズンの前に一度、翌年からは、粘膜の反応や症状の具合を見ながら、1〜2回/年と、何年かにわたって照射するのが効果的です。今年は、もう間に合いませんので、いまから来年以降のことを考えることも必要です。
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○花粉症の薬物療法について

 最近は、抗アレルギー薬という予防的効果のある薬が数多く開発されています。この薬は、化学伝達物質遊離抑制薬とも呼ばれ、花粉症の発症の際に働く肥満細胞などからのヒスタミンなどの化学伝達物質の遊離を抑制します。そのために予防的な働きがあり、花粉が飛び始める2〜4週間前より内服することや花粉飛散の初期から用いることで、重症化を防止する事が可能になります。抗アレルギー薬は予防効果を期待していますし副作用も少ないので、途中で中断せずに花粉飛散が少なくなる時期まで継続することが望ましいと考えられます。花粉の飛散量が少ない時は、この薬だけでもかなり症状を抑えることが可能です。
 症状が始まった場合、抗ヒスタミン薬が有効です。ヒスタミンという化学伝達物質が働き、花粉症の症状が出るのを拮抗的に阻害することで薬の効果が出ます。この薬は即効性があり、症状を押さえる薬といえます。ただし、眠気やのどの乾きが起こりやすいので注意しましょう(個人差が大きく、まったく感じない人もいます)。この成分は、ほとんどの市販薬(風邪薬・鼻炎薬)に含まれています。
 さらに症状がひどく他の薬ではコントロールが難しい場合に使われるのが、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)です。この薬は、作用が強く効果もすぐ現われる極めて有用な薬です。その分、副作用も強く、乱用すると糖尿病・消化性潰瘍・白内障・脱毛・月経異常・皮膚炎、さらに骨が弱くなったり、副腎の機能そのものを低下させてしまうことすらあります。症状がひどくやむをえない場合に少量を短期間内服することはありますが、主として点鼻薬として直接鼻の中に作用させることで使用量を減らし、また副作用を少なくするようにしています。副作用が少ないと言っても乱用すると危険ですので必ず医師の指導で使用することが原則です。
 最近一部の患者さんのなかに‘一発で効く’ということで、このステロイド剤を注射してアレルギーを抑える方法を受けている人がいるようです。雑誌にも「画期的な治療」として紹介されており、同じ治療を希望して来院される方がいらっしゃいます。
 しかし、実際にこの治療を受けた患者さんの話を聞くと、ステロイドを投与してはいけない疾患がないかどうかの問診も十分受けず、考えられる副作用についての説明も受けていないで、ただ「よく効く薬」として注射されているようです。このステロイド剤は、長期間体内にとどまって効果を発揮します(注射後月単位で効果が持続)。 ですから、一回打つとしばらく調子が良くなりますが、効果が持続するということは、逆にいえば体内で薬が分解や排泄されにくいということです。これでは副作用が出現した際に、その原因薬剤を取り除くような対応は難しいと考えられます。良く効くことは確かですが、ホルモン剤が長期間体に作用することになりますので、副作用を考えると非常に危険です。アレルギーの専門家が、このような治療法を花粉症に対して行うことはまず無いと思います。その理由は副腎皮質ホルモンの副作用の問題と、他に地道で安全な治療法があるからです。
 また、一般の薬局で売られている点鼻薬に、血管収縮性薬剤が含まれているものがあります。これは最初は鼻づまりが解消されるのですが、リバウンド現象として鼻づまりが前より悪化し、そのために点鼻薬の使用が大量・長期間となりやすいという副作用があります。
 スギ花粉症の治療は、副作用の少ない抗アレルギー剤を基本とし、症状により抗ヒスタミン剤の内服・ステロイド剤の点鼻もしくは内服を適切に使い分けるのが最も良い方法と言えます。
 その他、漢方薬も最近好まれています。ただし、アレルギーに使われる漢方薬は、10種類ぐらいありますが患者さんの体質により使い分けが必要ですので、まず、専門医と相談してみてください。
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○花粉症の一般的注意

 花粉症予防の第一歩は、花粉を吸いこまないことです。花粉症の症状は、花粉の量が多いほどひどくなりますので、できる限り花粉を吸いこまないようにすることが重要です。
 外出するときは、マスク・眼鏡(ゴーグルタイプ)・帽子などで顔全体を覆うようにします。さらに花粉を家の中へ持ち込まないように、家に入る前に服をよくはたくだけでなく、外へ干したフトンや洗濯物も良くはらってから室内へ持ち込むようにしましょう。掃除もこまめに心がけましょう。
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○花粉症の予防対策

 スギ花粉症予防のポイントをまとめると以下のようになります。
(1) スギ花粉シーズン前に予防対策をとる。
 スギの花粉飛散が始まる前に抗アレルギ−剤等を服用することによってシーズン中の症状をかなり軽減できます。
(2) 花粉の大量飛散日は外出を避ける。
 3月上旬から4月中旬までの間はスギの開花最盛期にあたり、この間の晴れた日や風の強い日に大量の花粉が飛散します。このような時に外出し、大量の花粉を吸うと症状は著しく悪化します。やむを得ず外出をする際には、マスクやめがねなどの着用を心がけて下さい。
(3) 室内への花粉の侵入を防ぐ。
 スギ花粉シーズン中に、窓などを開放すると、室内に花粉が侵入し、花粉症を悪化させる原因となります。屋外で長時間作業をした場合には、着衣にも花粉が付着していますので、ブラシなどで花粉を払い落として、屋内に入るようにして下さい。さらに、ふとんや洗濯物を外に干すことも避けて下さい。
(4)日常生活で注意することは……
 (1) 急激な温度の変化をさける
 (2) かぜをひかない
 (3) 過労や睡眠不足に注意する
 (4) 鼻の粘膜を刺激しない(排ガス・タバコ・香辛料・殺虫剤などをさける)
 (5) 皮膚をきたえ、薄着を心がける
 (6) 適度な運動をする
 (7)ストレスをうまくコントロールする
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○花粉はいつ飛散するか
(1) 暖かく乾燥した日はよく飛ぶ。
(2) 最高気温が10度に達しない日はあまり飛ばない。
(3) 風の強い日はよく飛ぶ。
(4) 雨の日は少ない。特に10mm以上の雨が降った日はほとんど飛ばない。
(5) それでも朝までに雨が上がり急速に天気が回復すると飛ぶ。
(6) 前日にまとまった雨が降ると2日分に相当するような飛散がある。

 毎日の花粉情報・飛散予測は、いろいろなHPで紹介されています。
 出かける前には、チェックしましょう
 *NTT生活環境研究所
    http://www.env-unet.ocn.ne.jp/web/pollen/
    iモード用;http://www.env-unet.ocn.ne.jp/pollen/
 *Yahoo! JAPAN
    http://event.yahoo.co.jp/docs/event/kafun2001/
 *エーザイ
    http://www.eisai.co.jp/sugi/index.html
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○ 参考ホームページ
患者さん向けの、冊子の提供などがあるHPを紹介します。参考にしてください。
 *日本アレルギー協会
   http://www.vkn.co.jp/jaf/index.html
     花粉症なんて恐くない
     監修/奥田 稔日本臨床アレルギー研究所顧問
 *慈恵医大耳鼻科の花粉症のページ
   http://www.tky.3web.ne.jp/~imaitoru/
 *参天製薬
   http://www.santen.co.jp/health/kafun.html
     花粉症と上手につきあうためのQ&A
     花粉症のはなし
        監修:獨協医科大学眼科教授 小暮文雄
 * 環境省環境保健部
     花粉症保健指導マニュアル
   http://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/
 *鼻アレルギー情報センター
   http://www.nasal-allergy.net/index2.html
     花粉飛散情報
     患者さん向け冊子

 現在の医学では、「スギ花粉症」を根本的に治すことは不可能です。
 まず、自分にあった治療法を見つけ、シーズンを乗り切るようにしましょう。
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