HE'E NALU #24 [春の旅、ハルの迷路、パート1]

・春頃に書き始めたので駄洒落したんだけど、もうすぐ夏ね。

ポイント・ブレーカー、デスボード、ダート、そういったモデル名なんかを与えられているディスプレイスメント・ハルはつまり、たいていは典型的なレイアウトを持ったハルである。
それらはマリブやリンコンなどを根城にする一部のハル・マッドネスたちによってキープされ続けて、長い間あまり外の世界に出回ることのないデザインだったといえる。



近年、ハルはバラエティの進化によって世界中に広まりつつあるが、そのムーブメントに伴ってそれら純血種のハルも外界のサーファーの手に渡り、日本でもいろいろな波でのサーフィンがリポートされたりしてる。
現在シーンで見ることができるハルをすべて捉えることはかなり困難だから、何かの縁で手にしたハルがたまたまそういった純血種系ハルであった場合、それらに初めて乗ったサーファーの感想の多くが"乗りにくい""難しい"などというものになりがちなのは無理もないのだ、実は。

ピンチーなレールにコンベックス・ボトム(丸く膨らんだような形状のボトムと思ってもらっていいが、それこそが基本的なハルボトムである)に代表されるライド感覚は、ほんの少しのリーンだけで深く波に食い込むレール体験に始まり、初めて乗るサーファーにとってはその後その板をどう操作するのかをイメージさせてくれないかもしれない。

そして現代のスラスター系ショートボードやそれらの仲間系デザインのサーフボードにしか乗ったことのないサーファーの多くが信じて疑わないテールコントロールは、おおよそこれらのハルには通じない。
じゃあ一体どう乗ればいいのか?

似ている操作感覚を一つ思い出した。それは同じく昔から独特なライディング・スタイルで細く長くファンを惹き付け続けている、G&Sのファイバーフレックス・スケートボード。
おおざっぱに説明すると、ファイバーフレックスは板の中心部への加重がターン前半を、そしてその後ターンのリリース&回転方向へライダーが抜重することでドライブするという動作の繰り返しが、ちょうどハル・ライドのターンに割りと近い動きをシミュレーションできる。

その一連の動きというのは、板全体がフレキシブルなファイバーフレックスでは加重でたわみ込み、抜重すればたわんで沈み込んだ板中央部が反発で勢いよく戻ることでターンのドライブを生み出すというメカニズム。
もちろんここではスケートボードのターンの基本である、トラックのブッシュのたわみとその反発を利用するドライブとセットの動きである事は言うまでもありません。
これでお分かりのようにファイバーフレックスのライドは板の中央部にライダーがスタンスするイメージである。

ここにヒントがありますな。
極端に説明すれば、ベーシックなハル・ライドは板の真ん中らへんにちょいと狭めのスタンスで乗っちゃう感じなのである。
さらにターンの始動は普段よりノーズ寄りのレールが波に入るのを恐れずに、板の真ん中に体重を載せてまるで板全体をたわませるような気分(実際にはグニャっとサーフボードはたわまないので、ご心配なく)でプレッシャーを加える。



ファイバーフレックスのようにサーフボードがど真ん中からモロにたわんじゃ、これは大変な事になるから、ハルに置き換えればターンのピークに達しようとする時、実は主にテール寄りの4分の1ほどがフレックスとツイストをしてさらに同時にフレックスフィンがたわむというのが実際のサーフボードの動的なイメージ。
これがターン前半。

つまり例えばこのようにボトムターンを始動して、ターンのピークを過ぎると同時に膝と足首に加えたタメをリリースしながら、ライダーは上半身から先に波のトップに身体をリフトさせるような気分でしなやかに伸び上がる。

するってえと、うまく行けばだが、板はフェイスに切り込んだレールが自然と描こうとするラインを、レールをリリースしながら吸い上げられるようにトップに向かうはずである。
これで(あえて言えば)純血種系ハルの、上がるターンが一丁上がり、のはずである。

さて今度は、上がったらどうする?、なんだが、それはまた後で。
しかしまあ、上がったんだからダウンだ。つまり波が許せばダウンザラインに突入である。

そんなわけで、純血種ハル・ライドというのは、多くのサーファーにとってはあまり身に覚えのない乗り方を要求されるように思えるかもしれません。
ところが実は、ここで説明した感じのライディング・アプローチは立ち位置と多少の前後バランスの違いはあっても、実はあらゆるサーフボードのベーシックでナチュラルなターンの超基本形と言ってもいいものなんである。
まあそれもちょっと置いておきましょう。

これらのナチュラルなターンの繰り返しを受け入れてくれる波を想像してみてください。
そうすると今度はそれに合わせて見えてくる波は、しなやかなターンを繰り返す先にどんどん現れてくる美しいフェィスという、なんとも理想的なピーラーじゃないの。

そこで気がつく訳ですな。その波、何処?
それがマリブやリンコンだってことですな。それらのブレイクが長い間、ハルという固有種の生息環境だった訳です。
そういうブレイクだからこそ発想され、熟してきたフィーリング。

これが純血種ハルが外の世界に出れなかった(出なかった、)理由です。
カリフォルニアでも日本でも普通のサーファーにとってカジュアルなブレイクっていうのは、程度の違いはあれ、比較的ショートライドでどうしてもフェイスのシェイプの乏しい波ってことになる。

そんな波でも気持ちいいターンを1回か、まあ2回、それでもそれが最高。なんていう選択はあまり無いというか、普通はしないもんね。

こんなふうに言ってくると、こういったハルはどこにトピックがあるの?、ってことになってきます。
そう、どこまで行ってもハルの興奮ポイントはその独特な感触、ライディング・フィールとライダーの少しの動きとはおよそ釣り合わないほどの速さです。

さて、これら純血種とでもいうハルにもいろんな血縁があります。
今や誰でも聞いたことくらいあるはずのオリジン、グレッグ・リドルがある。そして70年代から続くハルの中心地、リドル・リーグなんても云われるムーブメント(にしては小さいが)から分家してきたブライアン・ヒルバーツ、クラウス・ジョーンズらのハルもある。




ここでひとつ余計な話なんですが、実はきっとみなさん聞いた事のないはずの空白期があって、70年代から長く続く好き者小集団って云ったって、いくらなんでもたーだひたすら30年もそれだけで食ってきたワケは無いんであって、やはりそれぞれが時代の要求するデザインの何れかを模索したりする必要があったから、ずーっとハルだけに同じ熱を注ぎ続けるのは稼ぎの点からいっても難しい。

この状況は70年代に入り80年代の後半まで、そうロングボード時代に礎を築いたシェイパー達の多くがロングボードから足を洗ってた時代があったのと似ているのね。

そのリドルリーグの火がもっとも小さくなっていた時期に、あえてその隙を狙ったモデルがあったのね。
ロングボード・ライダーの中には名前に覚えがある人もいると思うけど、スコット・アンダーソン。そのアンダーソン・サーフボードに一時、ボホルケス・モデルっていうのがありました。

これはつまりまさに純血種系デザインのハルを追求した板で、そのモデル名はハルのアイコン、ダート、またの名をエステバン・ボホルケスと呼ばれたスティーブ・クラウスキーの名前を冠した板が存在したのである。

自慢じゃないけど、いやちょっと自慢だけど、エムズはその頃、ちょうどそれら純血種ハル復興夜明け前の2000年前後にそのボホルケス・モデルを、コレいいよーいいよーと言って売っていたのを覚えてくれている人もいるでしょ。
まあ、いいや。

私は古いハルなんかにもたまに乗って、その一つ二つのターンだけでも喜んでいたクチなので、ワケの分からないタイミングで登場したそのボホルケス・モデルを歓迎して店に置いておくんだがたいていは、何ですかコレ?、になるわけだ。
そうです、つまりアンダーソンも私も狙いすぎちゃったのね、きっと。


さて、ここからいよいよパート1で扱ういくつかの板が登場するよ。

現在のハルシーンをたくさんのサーファーの関心事に引き上げた立役者は間違いなくマニー・カロのマンダラだ。
マニーは自身がハルに目覚めた直後からその類い稀れな研究心でハル・デザインを追求して、驚いた事にそれほどの時間を要さずにそのシックス・センスでとんでもないハル・デザインに到達した。

マニーのハルが成し遂げた最大のトピックは、乗りやすい!、という事なんである。それじゃあまるで、えーそれでいいの?、みたいにあっけない話なんだけど。
それはつまりさっき説明した"乗りにくい・難しい"からの解放。


そしてもうひとつ。
リッチ・トビー・パベルのチョイス、そのモデル名はモノ、ね。



この板は、もんのすごく事情に明るい人が見ればそのデザイン・コンセプトの一部にボホルケスのデスボードの本当の秘密が盛り込まれ、さらに宇宙からの使者トビーさんならではの大発明が見事に調和されている。
そしてその結果、唯一無二のハルが誕生したんである。


ご長老のオリジナル・シェイパーの歴々も繰り返すそういったトライを飛び越えてしまったかのような、ハルの濃い味満点のままどんな波でもマニューバビリティを備えるという呆れたハル・デザインを発見してしまったマニー。
一方、コンピュータってウインドウズでしょ、と信じ込んでたら、マックやばいよ的な、ウイルスですら怖くて近づけないのがトビーってワケだ。


ホントは"乗りにくい"って云うのが間違いなんで、外界には合わないよあんまり、っていうのを無理矢理連れてきたんだから外界の都合で勝手に、乗りにくいなんて言ってもね、板にとっては迷惑な話。
それはそうだが、やはりサーファー。何かの拍子にハルがツボにハマった時の快感を一度体験すると、コレどうにかできないのかしらと思うわけです。
ウチに連れて帰りたい、と。

で、そのマニーのハルはいくつかのバラエティを発展させて今や不動、というよりもどれも乗りたいと皆に思わせるほどテイスティな王国を築いた。
そこで、そうなるとトラディショナルな純血種ハルの味って、今乗るとどうなんだ?

さっきも書いたように私は古い某定番ハルも好む偏屈でもある。そこで文句無しのイカしたハルをできるだけ同じようなサイズで集め直して味を再確認しようと思ったワケです。

そうすりゃマニーのTPHやトビーのモノが何者なのかホントに分かるでしょう、と。
これ、別にお仕事的な仕込みじゃなくて、単にいつもの自分の遊びです。
タイラー君の真似して、チェンさんズ・えくすぺりめんつ・春の旅、って感じ。

そして実験台に上げてみたのがマニーのTPH(トライプレーン・ハル)、チョイスのモノ、リドルのポイント・ブレーカー、アンドリーニのリアルなハル(前にちょいとリクエストしていじりをいれて作ってもらったもんでね)、ヒルバーツのダート。
サイズはどれも7'(あるいはほぼ7')。

なんで7'かというと、単に私の個人的ハル基準だから。
今は5台を含めてもっと短いサイズがむしろ一般的ですし私も小さいハルにもいろいろ乗りますが、昔はこのくらいが普通だったのと、7'くらいだと味が濃いめですからね。


よしパート1、まずはマニーのTPHと、ブライアン・ヒルバーツの純血系デザイン・ダートの2つを味比べだ。



ヒルバーツのダート、さすがにまずは波のキャッチ・ゴキゲン、スムース。
ちょいと注意点は、もしかするとこういうのに慣れてないと腹這いの時点でロール、あるいはロールしたがりそうな感触に違和感を感じるかもしれません。

最初のターンからビンビンにハル味。トップからのダウンザラインへのつながりもスムースだが、しかしそこの爆発力は割りと淡白である。
感心するのは意外にも、それほどシェイプの無いビーチブレイクの速いセクションや、ちょっと下めのダウンザラインでも抜けていく時の速さとナチュラル具合。

当然ながら抜けた後のカットバックは振る舞いが限られる、つまり難しい。そして、当たり前だがテキトーなレール使いでトップに引っ掛けてやるような動きには、まず向かない。ダサイことになります。それでいいんです、こういうのは。

ヒルバーツのダートは例えばテイクオフ後のボトムターンに入る動作、特に小さい波では習慣的にやっちゃう、ほんの一瞬逆側に振るようなキッカケの動きがやや大げさな動きになってしまう傾向がある。それは軽い力の操作にもレスポンスの良いレールのおかげで、特に高めの姿勢(力が要らないので、膝と足首のタメが小さくなるのね)からの操作では板を水平方向に振るような動きが出がち。

ここが上手くするとクラシック、下手するとイカさない動きになりがちだから気をつけなくちゃいけない。
そのキッカケ直後の後ろ足の押し込みをジワッと起こすようにすれば、たぶんもっと滑らかな動きになるんだと思う。

ハイラインからダウンザラインへの切り替わりはとてもメロー滑らか。
パンチやスナップの類いは無いのだけれど、板のレールが入る(というか、吸われる)感じに合わせて膝を通して体重をシンクロするように乗せていくだけ。

それだけで十分に速いのである。
慣れないと、動きに大袈裟っ気がまるで無いので物足りない感じがするのだけど一連のラインの流れはとても速い。
その後は(波がクローズアウトじゃなければ)、波のブレイクスピードに限りなく近い速さで、つまり仮にブレイクが速くてもラインがよろしければ波そのままの速さでおおよそ走り抜ける。

要するにトップでの今風マニューバーめいた仕業は禁止とまでは言わないまでも、普通のサーファーじゃたいていはダサイ絵柄のリスク有り。
そして正直、カットバックは難しい。というより波のポジション・ライン・操作の正しさ、これのどれが欠けてもキマらないということになるでしょうか。


同じように小さめのビーチブレイクでテイクオフからすぐのボトムターン、同じように操作しようとしてマニーのTPHではどうなるか。

まずは一瞬の逆キッカケに板は横振りの動きにはならずに、そのまま前足のレールからフェイスに入るキッカケになり、それがボトムに降りきるための勢いのちょいブーストに化ける。
したがって前足の前から入り始めたレールはそのまま狭めのスタンスを通して、後足レールで踏み込んでやる動きに1本つながりでターンのピークをドライブできるんである。

そのターンのピークを滑らかにリリースすれば、その後に起きるのはまさにハルの無重力リフト。一瞬後にはトップにワープである、ここが恐ろしく速い。
マニーのTPHのナイスは、そこからさらに起きる。

それほど的外れじゃない程度(普通のサーファーですからね)の精度でトップ、というかハイラインに達したTPHは前足の足裏前半分ほどの気分をキッカケにしてレールでフェイスを捉えてやや落とす感じの操作で、体重中心を膝の気持ち横移動に載せてダウンザラインに乗ってやれば、つなぎ目の段すら無しにいきなりすばらしいスピードにて走り出す。



マニーのTPHは味が濃いだけじゃなくてトーンが豊富だってこと。音で言えば音色ね。
ちょっと浅はかに思い込めば、ハル味の最初の決め手はピンチーなレールだと思いがちだけど、どうやらそれだけを仕立てても違う。
前々から薄々気づいてはいたが、やはりレールとボトムのトランジションに秘密があるとみた。

ピンチーでよく出来たレールが持つ、そのフォイルだからこそのターンのキャラクターがあるのだけれど、ハルを感じさせているあの無重力なリフトはボトムとの連係のたまものなの。
そのレールとボトムを一つに解け合わせる働きを、イメージ以上のものに仕立ててしまったのがマニーのTPH。



ところで、ひとつ思い出した話があって、このネタでパート1を締めくくりましょうね。

世界のナンバー1・サーフィンメディアと私が信じて疑わないのがサーファーズ・ジャーナルなんだけど、ずいぶん前にハルについての特集があって、その中にはいろいろなサーファーやシェイパーへのインタビューもいっぱい語られているんだが、その中で私がとても気に入っているハル・ライダーの語り。

その話はビーチでよく見かける光景。
そのサーファーが波乗りを終えてビーチに上がると、ちょうどラインナップで見かけたサーファーの一人も上がるところで、声をかけてきた。

"そのファンボード、すごく調子良さそうじゃん!"
時々同じようなことを言われるもんでその語り手のコメントがいいよ、もちろんその相手にそう返事したわけじゃない、心の声。
"だーれがファンじゃない板でサーフィンしたいっての?"

笑っちゃうけど、そういえば良くある話。
しかし、ファンボードってねえ、いい加減にしとかないとね。








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