汚染排出物処理からみる

武田薬品(バイオ・遺伝子組換え)研究所建設の危険性

 

2008年4月

藤沢市亀井野1371-5 小林 麻須男

TEL  0466-44-0375

 

武田薬品は、大阪市とつくば市にある研究所を統合してより高度な研究所を作るため、藤沢市村岡地域に(バイオ、遺伝子組み換え)研究所建設を進めようとしている。しかし、藤沢・鎌倉にまたがる人口密集地に、こうした危険物を取り扱う研究所建設が妥当かどうか、同研究室からの汚染排物は再利用方式ではなく場外放出型となっており、外部に与える影響はきわめて大きい。今回、武田薬品から提供された環境影響予測評価書で示された汚染排出物処理対策を中心に、その適否を検証してみた。

 

@、       はじめに

ー同研究所建設の是非を論議するにあたっての観点―

まず第1に、本研究所が、バイオ遺伝子組み換え等に関する我が国最大級の研究所であり、世界的にバイオハザードが問題視されている中で、放射能同様、同研究所で取り扱う病原体やバイオ菌は、絶対に外部に流失させることがあってはならない危険物の研究施設であるという認識にたって、この施設の建設問題が論じられねばならない。

第2に、同研究所建設予定の旧武田薬品工業工場跡地は、工業地域とはいえ、周辺に民家が密集し、隣接して病院や福祉施設の建設が予定されている市街地地域であり、こうした地域に危険な施設を建設することよって住民の安全が守られるかどうか検証されねばならない。

第3に、同研究所から排出される危険な汚染物質が、外部にどのように影響を与えるか、又流出防止対策が十分取られているかどうかも検証されねばならない。

第4に、こうしたバイオ、遺伝子組み換え施設の安全性に対する法的監視・規制が適切に講じられているかどうかが検証されなければならない。

以下、同研究所で発生し、外部に流出する恐れのある汚染物について、建設計画では、必要な防止対策が立てられているというが、果たしてそうか、検証してみたい。

 

A    、実験棟で発生する汚染空気の排出対策について

同研究所では、実験棟から発生する空気汚染対策として、室内を常に新鮮な空気で満たすために、空調装置は外気を直接導入し、再循環せず強制排出するシステムを取っている。しかも実験棟は3000〜5500u×39m高さの建物を15棟作り、それぞれの棟で違った病原体の研究をしようというものである。そして、大量に送り込まれた空調空気は、それぞれの棟の異なった研究媒体に接触しながら、外部に強制排出される事になる。空調用に実験棟内の空気を循環使用しないということは、万一、施設内実験室で発生した病原菌から研究員の健康を守るための措置とも考えられるが、一方、地域住民にとっては排出された汚染空気を吸わされる危険性にさらされることになる。武田薬品の文書で計算すると、毎時695万m3の大量の排気を施設内から外部に放出することになっていおり(表5−2−5−3参照、これは東京ドーム(124万m3)の5.6個分に当たる放出量である。(これだけの大量の排気を外部に放出するとなると、周囲3キロメートルの住民が影響を被り、説明会対象の住民となるのもむべなるかな、ということがわかる))武田薬品は、自社の大阪工場の実績を基に、スクラバー洗浄、フィルター等の設置で安全確保を主張する表4−3−3−2参照が、スクラバー洗浄は浮遊物除去が主目的であり、フィルターについても全ての病原体を100%補足することが出来るものではなく、また劣化による性能低下、故障も皆無ではない。こうした浄化装置の設置によって安全性が確保されるなら、施設内で循環使用すれば効率が良いものを、そうはせず、強制排気して外に出そうというのは、そこに何らかの危険性をはらんでいるからであり、市民としては、実験室から発生する大量の汚染空気の排出問題は、軽視出来ない問題である。研究所内の汚染空気は、絶対に外に排出しないという循環型空気清浄施設を設置すべきではないか。

 

B    、研究所から排出される汚染廃水の処理について、

同研究所の給排水のフロー図4−3−4−2参照を見てみると、4500m3/dの取水に対し、排水は2200m3/dとなってるいるが、消えた2300m3/は何処に行ったのか文書ではなんら明記されていなかった。空調設備等に1日3300m3もの大量の水を使用するとはどういう事なのか、研究所内の空調設備で、室内空気を循環使用せず強制排気するために、スクラバー用にこのような大量の水が必要なのか、この点を、武田薬品の設計者に問い合わせたところ、約2000m3が水が、空調関係の蒸気、スクラバー飛散水等で、外気に放出されるとの事であった。

一方、毎日1000m3/d排出する実験室系の廃水は、一部重金属・有機物溶媒回収、減菌処理されるが、処理後は空調排水、生活排水と共に、公共下水道に放流される事になっている。しかし、実験棟排水は、実験溶剤、実験器具、実験動物の洗浄等危険な病原体が混入する可能性が高いものばかりであり、万一、こうした排水に危険な病原体が混入した場合、社会に大きな被害をあたえるものである。実験室系の排水は、どんな細菌、危険物が含まれているかわからないので、空調系の排水貯留槽とは別槽を設け、管理する必要があるのではないか。 また、空調系の排水においても、汚染空気の洗浄を目的とするスクラバー排水図4−3−2−4参照は、(荏原ダイオキシン流出事故では、このスクラバー排水に含まれてダイオキシンが流出した物)空調系の排水といえども危険性が少ない訳ではない。排水フロー図を見ても、空調系排水3300m3/dの排水、実験室系の排水1000m3/dの排水を、700m3/d程度の排水貯留槽で受け、モニタリング、中和だけで危険物の流出防止が出来るかどうか、問題である。本来こうした危険な排水は、武田薬品自らが、研究所内部で処理・再利用され、外に漏らさない施設を設けなければならないのに、公共下水道に大量に流し込むとはどういうことなのか。

 

C    、研究所排水を公共下水道に流し込むことの問題点

武田薬品は、研究所内から発生する大量の廃水を、藤沢市の公共下水道に放流すると言いい、市の下水道局もそれを認めているというが、何故、武田薬品に自己処理させないのか不可解である。本来工場排水は、発生企業の自己処理が原則であり、公共下水道に放流することは許されていない。

こうした排水を、公共下水道に放流することは絶対に許されるべきではない。なぜなら、放流が予定されている大清水浄化センターは一般生活排水の活性汚泥による浄化が主目的であり、病原体の殺菌処理出来るような施設ではない。万一、病原体が流入した場合は、逆に病原体がここで増殖培養される危険性さえ生まれる。しかもそれが、境川に流され、観光地江の島まで流されて行くとしたら、これは大問題である。本来、病原体処理の機能など持たない公共下水道に実験排水を流し込む等と言うことは、絶対に許されないことである。自己処理もせず公共下水道に流し込むということは、武田薬品の排出者責任の転嫁であると言わなければならない。既存の排水処理装置を廃棄し、700m3/d程度の小規模の排水貯留槽の設置ですまされるような問題ではない。武田薬品は、汚染排水を公共下水道に流し込むのではなく、自ら処理する循環再利用型の排水処理施設を設置すべきである。武田薬品研究所から排出される、バイオ、p3病原菌、遺伝子組み換えの排水は、通常の産業廃棄物よりもっと危険な排出物であるという認識が、武田薬品にも、藤沢市にも欠如しているとしか言いようがない。

 

D    汚染排水に対する行政対応の問題点

今回の環境アセスにおいて、汚染排水に対する神奈川県環境部の対応は、藤沢市の公共下水道に流し込むから環境アセスの対象にならないとして、汚染排水を環境影響調査項目からはずしている。一方、武田薬品の汚水を流し込む予定の藤沢市大清水浄化センターを管轄する下水道課に聞いてみると、バイオ・P遺伝子組み換え関係の排出物については、現在の下水道条例には規制項目がなく、何らチェックできない、県の方で、そこらの辺の問題は考えて貰いたい、という対応であった。

こうした調査でわかったことは、神奈川県も藤沢市も、お互いにそちらの問題だとしてどちらもきちんとした対応をしていないという事であった。

行政は、法律や条例など、法的規制がないと対応出来ないというのもおかしいが、結局、県も市も何ら武田薬品の汚染排水の問題点についてはろくに調べもせず、工場建設を認めたという事であり、これは、あまりにもバイオ、遺伝子組み換え施設に対する行政の対応が甘すぎるのではないかと思われる。これで、住民の健康や安全が確保できるというのだろうか。(法的規制問題については後述します)

 

E    、汚染廃液の処理について

実験室排水の内、一部重金属・有機物溶媒回収、減菌処理された排水は、専門業者に回収させることになっているが、どのようなものが、どの程度回収されるのか定かでない。より危険物が混ざっている可能性が高い排水である。場外に排出されれば武田薬品の責任が免れるわけでは無い。予定している専門業者名、処理方法を明らかにさせる必要がある。また、武田薬品は、汚染廃液等を、もっぱら外部業者に委託することにしているが、こうした病原菌汚染廃液を外部に出さず、自前で処理する施設を開発することも、危険なp3病原菌研究企業の課題ではないか。

 

F    、排煙の汚染防止対策について

実験器具、実験動物には、危険な病原体の付着、ダイオキシンの等の発生が高いものが含まれている。中途半端な焼却で、危険物の放出を発生させてはならない。

何をどの程度焼却するのか、焼却物の種類・量の管理を明確にさせること、適正な焼却温度を管理させることが不可欠である。また、排煙管理についても、どのような集塵装置、バグフィルターの設置、スクラバーの設置を考えているのか明確にされねばならない。更に、排煙の濃度、排煙に含まれる物質管理も必要である。

焼却炉図4−3−3−2参照についての問題点として

@、サイクロン気流によって、どの程度の固形物が炉下に落ちるのか

A、エグゼクターによって800℃の気流がどうして瞬時に300℃に急冷されるのか。また、300℃くらいの温度がダイオキシン再合成に適温と言われているのにどうして再合成できにくいと言われるのか。

B、集塵装置はどういう形式のものか、スクラバーなどを取り付けなくてよいのか

C、焼却炉の焼却温度はどの位か、毎日800℃の温度に立ち上げるのに、どのくらいの時間を見込んでいるか。また焼却温度の維持管理はどのようにするのか。

等々がもっと解明されねばならない。

しかし、相当程度の排煙処理を施しても、排煙に危険物の混入は避けられない。密集した民家、マンション、病院、福祉施設の隣接した地域に、排煙の危険物が落下することはさけられない。藤沢市では荏原製作所の焼却炉からのダイオキシン発生という苦い経験をしている。焼却炉の適切な温度管理、焼却物管理、排煙管理、排水管理が行われなければ、あのようなダイオキシン放出という大事故が発生するのである。今回の武田製薬の焼却炉は、危険な病原菌を植え付けられた実験動物の焼却、実験器機の焼却まで含まれており、荏原以上の汚染防止対策が講じられねばならない。

 

G    、焼却残渣の処理について

実験器具、実験動物の焼却残渣には、大量の不純物、危険物の残留が予測されるものである。こうした焼却残渣の処理については、焼却灰として専門業者に回収させるだけで良いのだろうか。処理業者の追跡調査と合わせて、処理業者の処理能力が問われる問題である。今回の様な危険物の扱いは外部業者に委託するのではなく、同研究所の施設内で完全に処理され外部に漏らさないようにする事が必要ではないか。具体的には、焼却設備に、溶融設備を併設し、1300℃の温度管理によって溶融し、ガラス状にして、危険物を密封させる方式も検討されてしかるべきである。

 

H    、汚染雨水の処理について

雨水対策については、PH調整後、公共水路に放流となっているが、構内雨水には、敷地、建物屋根等から焼却灰、室内排気からの降下物が混入する危険性があり、貯水地にためる前に別途貯留槽を設け、管理する必要があるのではないか。

 

I、バイオ・遺伝子組み換え施設に対する法的規制

 先にD項で見たように、神奈川県には、県にも藤沢市にもバイオ、遺伝子組み換え施設に対する法的規制がないため、武田薬品の研究所建設にあたっては、環境アセス程度のチェックしかしていない。武田薬品は、大阪府との誘致合戦で、200億円の助成金を予定していた大阪府を止めて、それより少ない80億円助成金の神奈川県を建設地に選んだのは、神奈川県にこうした規制がほとんどないことが理由の一つだったのかもしれないが、住民の健康と安全を守ってゆく為には、バイオ・遺伝子組み換え施設に対する法的規制が求められていると言わなければならない。

別添資料の「吹田市遺伝子組み換え施設に係わる環境安全確保に関する条例」は、藤沢市民とっても、大いに参考になる条例である。同条例では、施設建設に当たって「給排気、給排水の系統お呼び種類、排気物の種類および処理方法などを届け出させ、業者との協定、記録の保管、立ち入り検査」などを取り決めている。吹田市生活環境課に問い合わせしたところ、同市には、大阪大学バイオサイエンス研究所、住友製薬工場、国立循環器研究所などがあり、バイオ、遺伝子組み換えの研究をしている事から、住民からの要望もあり、平成6年にこうした条例を制定したとの事であった。

 

J    、まとめ

―人工密集地に、バイオ、P3病原体研究所を建設することの是非―

以上、何点か汚染排出物の問題点を検討してきたが、排気、排煙、排水等を含め、研究所近隣にまで密集した市街化地域に、P3病原菌、バイオ研究所を設けるには万全な廃棄物処理対策が必要であり、欧米の様に密集地との間に一定の安全地域を設けることも必要になってくる。現代において、高度なバイオ研究・病原菌研究が必要であることを否定するものではないが、現在予定している人口密集地域に汚染物場外放出型の研究所を設けることは、前記で検証したように、あまりにも危険度が高く、また市民の安全を確保出来る汚染排出物処理機能を備えた研究所と言うことは出来ない。

また、神奈川県においても、藤沢市においても安全確保の為の法的規制は、なんら整えられていない。

よって、本稿の結論としては、現在予定している人口密集地での武田薬品バイオ・P3病原菌等の研究所建設は、研究所内の汚染廃棄物の場内処理、住民の安全確保を保証出来る法的整備が整わないか限り、取りやめて貰うのが妥当と考えるものである。