三浦市三戸地区
発生土処分場建設事業アセス

  京浜急行電鉄株式会社による三浦市三戸地区発生土処分場建設事業は、武田薬品新研究所建設事業と並んで神奈川県環境影響評価条例で手続き中です。

 この京急三戸処分場問題をこの場でとりあげるのは、ここが武田薬品新研究所建設の過程で生じる残土=「発生土」の受け入れ先と推定されるからです。初声町三戸地区には谷戸(低湿地のこと)が残されています。ここにはここにしか棲息していない生物や絶滅に瀕した生物が頑張って生命の営みを維持しています。こんな貴重な谷戸を、薬品製造工場跡地から掘り出され、どんな有毒物質で汚染されているか判らない未調査「発生土」よにって埋め立ててしまおうという案が、水面下で進行していると推定されるのです。

 事実として当たっているなら、乱暴この上ない話ですが、鎌倉〜藤沢の住宅密集地にP3レベルの遺伝子組換実験室を設置する計画を立てるような武田薬品のことだから、大いにありうることだと思います。湘南の西では埋蔵文化財を破壊しつつ近隣住民を苦しめ、東ではけなげに生きる小動物を絶滅に追いやって、自分たちだけは快適な研究所内で成果を競い合うというのが、武田薬品の基本姿勢のようです。

 7月17日現在、アセスの手続きにおいて三戸処分場問題は、京急が提出した「予測評価書案」に対して住民が「意見書」を出す期間が終了したところです。「意見書」が10通を超えたことは確実です。今後は、「意見書」に対する「見解書」を京急側が用意することとなります。

 アセスの手続き上、「意見書」が1通でも出たことで、「公聴会」の設定は確実になりました。今後は「公聴会」の場での「公述人」の確保が急務です。半径1qの関係地域住民の中から一人でも多くの「公述人」がでることを期待します。

 武田の例にあるように、どんなにやっつけ仕事であっても「見解書」の作成には2カ月はかかるでしょう。その提出から1カ月の縦覧期間を経て後に「公聴会」が設定されるのがアセスの手続きですから、「公聴会」は11月頃になるかと予想されます。
 それまでの間はじっくりと調査や学習を重ねて、「公聴会」に臨むことが肝要です。現地視察ツアーを組んでもいいかもしれませんし、絶滅危惧動物に関するシンポジュウムを現地で企画することも考えられます。講師には豊富な陣容がそろっています。

 専門家によると、最大の争点は、県の絶滅危惧IB類にランクされているサラサヤンマの生息地としての当該地域の重要性を認めるか否かということになりそうだそうです。この争点は、日本全国のサラサヤンマファン〜マニアから大いに注目を集めることでしょう。

 また、私見によれば、当該地域は、神奈川県も活断層として注目している引橋断層帯の延長線上に位置しており、そのことを京急側は隠したがっている模様が読み取れるのです。当該地域は将来的には「宅地開発区域」と位置づけられているだけに、この点も、後々重要な争点になっていく可能性があります。

 いずれにしても、武田薬品新研究所に係わるアセスを経験したばかりの者として、記憶に新しいそのアセス経験を活かす形で、この三戸地区発生土処分場建設事業に係わるアセスについて、側面からの助力を惜しまないことにしたいと思います。


〔 三戸地区発生土処分場建設事業に係わるアセスの基礎資料 〕

瀬能 宏「初声町三戸地区の谷戸の重要性」(自然科学のとびら、第13巻、第4号、26-27頁、神奈川県立生命の星・地球博物館、2007年12月15日発行)

*神奈川県レッドデータブック 絶滅危惧IB類 昆虫




意見書その1  神奈川県立生命の星・地球博物館の瀬能 宏さんが提出した意見書の内容をご本人の許可を得てここに紹介します。なお、この意見書は武田薬品の件とは係わらない、純粋に学術的な立場からのものです。


(仮称)三浦市三戸地区発生土処分場建設事業

          環境影響予測評価書案についての環境保全上の見地からの意見


 当該建設予定地における自然環境の重要性については、拙文「初声町三戸地区の谷戸の重要性」(自然科学のとびら、第13巻、第4号、26-27頁、神奈川県立生命の星・地球博物館、2007年12月15日発行)にて解説しましたが、今回の評価案を拝見したところ、当該地の重要性を過小評価しているだけでなく、評価根拠に重大な疑義があることがわかりましたので、ここに当該地がどうあるべきかという保全の方向性とともに意見を述べさせていただきます。

1 サラサヤンマの評価は適切か?
 トンボを専門とする研究者によれば、当該地は県の絶滅危惧IB類にランクされているサラサヤンマの生息地として重要であり、隣接する小網代が遷移によって乾燥化が進む現状においては、最優先で保全されるべき場所であると言えます。ところが、評価案ではサラサヤンマを当該地の代表種欄に掲載していないばかりか、当該地の個体を「多産地の小網代から飛来したもの」と推測し、当該地周辺に「広く生息環境が存在する」ことから建設による影響は少ないと結論しています。小網代では遷移が進んで開けた場所が減少し、サラサヤンマの生息には適さないことは素人目にも明らかです。また、評価案では当該地の1箇所でサラサヤンマを確認したとしていますが、個体数は示されていませんし、実際、トンボを専門としない当方のたった一回の調査においても、谷戸の底部の複数箇所でなわばりを作っている本種の存在を確認しています。評価案の結論は調査不足というよりも、当該地におけるサラサヤンマの重要性を意図的に矮小化しているように感じられますが、いかがでしょうか?もしこのまま建設が進められるようであれば、重要な生息地のひとつが消滅し、絶滅危惧IA類に移行する可能性が非常に高いと思われます。適切な評価を下すためにも、専門家による再調査を強く要望します。

2 シマゲンゴロウの評価は適切か?
 評価案では県の絶滅危惧IB類に指定されているシマゲンゴロウの生息を確認していますが、この種は水生昆虫の専門家の調査によれば近年の三浦半島からの記録は途絶えており、大いに注目すべき記録であると言えます。ところが評価案ではたった一回の記録であるにも関わらず、「当該地の周辺で発生したものであろう」と結論しています。小網代を含む周辺部からの近年の記録がない状況下で、なぜそのような評価を下せるのでしょうか?周辺部における調査が不足しているのであれば、予防原則の観点からも当該地での発生をまず想定するのが普通ではないでしょうか?この事実だけを見ても、評価案の絶滅危惧種に関する評価には問題があることは明白です。

3 ゴミムシ類の調査は十分に行われたか?
 当該地の湿地環境の規模から推定して多様な湿地性のゴミムシ類の生息が予想されますが、評価案によれば林縁付近に4箇所のベイトトラップを設置したのみで、谷戸底部のより湿った環境における設置地点が少ないように見受けられますが、いかがでしょうか?実際、当方はたった一回の調査で湿地性の種であるヒメホソナガゴミムシを記録していますが、評価案では記録されていません。少なくともゴミムシ類においては、湿地性ナガゴミムシ類の調査が不足していることは明白です。湿地性の種には必然的に絶滅危惧種が多く知られていますが、評価案における調査地点はこうした種が記録されるのを意図的に避けているように感じられるのは当方だけでしょうか?そうではないということであれば、適切な評価が得られるよう、専門家による再調査を早急に実施すべきです。

4 メダカの保全上の重要性は十分に理解されているのか?
 近年の分子遺伝学的研究によれば、神奈川県内に生息している南日本集団東日本型のメダカは複数の遺伝的単位に細分されることが分かっていますが、評価案では「南日本集団」としてひとくくりにしています。当該地のメダカからは、当方の分析により小田原産のメダカ(Subclade B-II in Takehana et al., 2003)とは異なるハプロタイプ(Subclade B-I in Takehana et al., 2003)がごく少数ですが検出されています。つまり、当該地は、B-I型ハプロタイプを持つメダカが自然環境下に生息する神奈川県でも希有な場所と言えます。評価案ではホタルとともに蟹田川に移殖する計画が示されていますが、ほとんど唯一とも言えるB-I型ハプロタイプを持つメダカの生息地を永久に失うことは、生物多様性保全の理念に照らして正しい選択と言えるのでしょうか?また、本来、メダカやホタルが生息していない蟹田川をビオトープとして造成する場合、蟹田川の現在の環境を大きく改変することになると思われますが、その影響評価は行われているのでしょうか?メダカやホタルの移殖が新たな生物多様性の破壊をもたらすとすれば、それは本末転倒ではないでしょうか?

5 神奈川県最大級の湿地環境としての評価をなぜ行わないのか?
 評価案では、建設による絶滅危惧種を含む生物種への影響は少なく、影響が大きいと評価されたメダカやホタルの場合でも、代替地の整備(ビオトープの造成)により保全的導入が可能であると結論づけています。しかしながら、神奈川県では湿地環境そのものが壊滅状態にあり、建設予定地の湿地としての規模は県内最大級であることは疑いなく、生物多様性保全の理念に照らせば真っ先に保全されるべき場所であることは明白です。開発計画を見直し、研究者の助言の下に、京急、県、地域住民が一体となって当該地を自然の大切やおもしろさを未来に伝えるための教材として活用されますよう強く要望します。





意見書その2

(仮称)三浦市三戸地区発生土処分場建設事業
環境影響予測評価書案についての環境保全上の見地からの意見
                                  2008年 7月16日
                             
@.土壌汚染を選定項目から除外するとは不可解千万なこと。

 「環境影響予測評価書案」では、発生土処分場を建設する事業についてのアセスメントであるにもかかわらず、土壌汚染の項目を選定していません。選定しない理由としては、「供用時に搬入される土砂には有害物質を含まないこと」(97頁)が誰によっても必ず守られるという見込みが考えられているようです。しかし、この見込みは確実に保障されるものなのでしょうか。大いに疑問です。

 不確かな見込みに基づいて項目として土壌汚染を選定せず現況の調査を行なわないでおくと、次のような問題が生じると考えられます。

 造成が完了して供用が開始された後に土壌汚染の被害が明らかになった場合、それがもともと当地にあった原因によるものなのか、外部から搬入されてきた「発生土」に原因があったのかが、判らなくなります。このような状態で隙を作ってしまうと、汚染があるため本来なら産業廃棄物として処理しなければならない土壌を汚染のない「発生土」と偽って搬入しようとする業者に狙われやすくなります。

  近年の日本はあらゆる面で偽装列島と化しています。一流どころとの誉高かった有名企業や産地銘柄の偽装が次から次に発覚しています。そのような偽装から当地の環境を守るためには、まずもって土壌汚染の項目を選定して調査を実施し、脇を固めておくことが不可欠だと考える次第です。

 警戒すべきは、意図的な偽装「発生土」の搬入だけではありません。調査費用をけちったせこい未調査「発生土」についても、警戒が必要な時世なのです。

 現に次のような例があります。三浦市三戸地区発生土処分場建設事業と並んで武田薬品工業新研究所建設事業が現在アセスメントの手続きの最中ですが、この武田薬品の場合、土壌汚染が大いに懸念される薬品製造工場跡地の再開発であるにもかかわらず、ほんのわずかな面積しか土壌汚染調査を実施しないでおいて、26万m3という膨大な量の「発生土」を外部に持ち出そうという計画を立てていることが、その「環境影響予測評価書案」の中から読み取れるのです。

 武田薬品の場合は、土壌汚染対策法上、自身で公表する義務を負っているように、本拠地大阪に土壌汚染の「実績」例があるのですが、それに懲りてか、薬品製造工場として40年以上にわたって稼働してきた跡地についてろくに土壌汚染調査をすることなく、26万m3もの「発生土」をどこかに運び出してしまおうと、藤沢市の関係部局と相談しながら、計画を立てているのですから、たまげます。日本の医薬品業界最大手のあの武田薬品が、なのです。神奈川県も藤沢市もこれを黙認しています。他は追って知るべしです。そのような薬品製造工場跡地からの未調査「発生土」がこの三戸地区の谷戸に持ち込まれないともかぎらないのです。

 このような未調査「発生土」によって三戸地区の谷戸(低湿地帯)が埋めつくされる光景を想像すると、ぞっとします。それでは他にいくら万全の環境保全策を施したとしても、水泡に帰すでしょう。

  以上、該当地域の環境を保全すべく、外部からの不審な「発生土」の搬入を防止する上での基礎固めとして、アセスメントの項目に土壌汚染が必ず選定されなければならない所以です。

A.該当地域の生態系を保全するため、専門家による調査を求めます。

 神奈川県立生命の星・地球博物館の瀬能 宏さんが、その論文「初声町三戸地区の谷戸の重要性」(自然科学のとびら、第13巻、第4 号、26-27 頁、神奈川県立生命の星・ 地球博物館、2007年12月15日発行)で訴えようとしている事柄に共感しました。瀬能さんの懸命な訴えに耳を傾け、専門家同士が連携を取り合った生態学的調査が本格的に実施されることを要望します。

 その際、該当地域の現況調査と並んで、「蟹田沢ビオトープ」の整備計画についても、その実効性を検証する調査を実施してほしいと要望します。

 「蟹田沢ビオトープ」は、当該事業における環境保全対策の目玉として位置づけられています。目玉とみなすのは、当該事業実施区域に隣接する「蟹田沢」に「ビオトープ」を整備して、そこに保護すべき小動物を移せば、彼らが生息していた湿地帯=谷戸を埋め立ててしまっても、十分にその代替地としての役割を果たすことができるという見込みとして語られているからです。しかし、この見込みは本当に実現できるものなのでしょうか。実現できる保障はどの程度あるのでしょうか。一度現地に足を踏み入れた者として、素人目にもはなはだ疑わしく映ります。

 もしこの見込みが外れた場合、「蟹田沢ビオトープ」の整備計画はどのような意味をもつことになるのでしょうか。それは、保護すべき小動物を追い立てて、彼らが生息している湿地帯=谷戸から追放してしまう口実と化すのです。環境アセスメントをすり抜けるための作文でしかなかったことになります。これは、あってはならないことです。

 代替地としての見込みを外さない形での「蟹田沢ビオトープ」整備計画はどうあるべきか、専門家による慎重が上にも慎重な検証作業を要望する所以です。

B.活断層隠しの疑惑があります。

 「環境影響予測評価書案」では、「三浦市には、北から南下浦断層帯、引橋断層帯が分布しているが、実施区域内には上記の断層は存在しない」(55頁)と断定しています。これは、本当でしょうか。とても信じがたい断定です。

 「断層は存在しない」と断定する論拠になっているのが、56頁の「図3−2−22 実施区域周辺等の地質図」です。この図に拠る限り、引橋断層帯が油壷に抜ける形になっているので、「実施区域内には上記の断層は存在しない」ことは確かですが、図自体が信憑性に欠けます。図の出典は「「三浦半島地質図」(1991)横須賀市自然博物館」です。この出典の作成者に問い合わせたところ、引橋断層帯については引橋〜油壷間の現地調査を済ませたわけではなく、いわば試作的なものという返事でした。発表の年も1991年であって、1995年の阪神淡路大震災以前のものです。阪神淡路大震災の教訓からこれ以降活断層についての研究調査が格段に進み、その成果を反映させる形で神奈川県も「神奈川県の活断層」を発行しています。それによると、引橋断層帯は三浦半島を東側から西北西方向に向かって横断すること3割程の引橋付近で止められています。そこから西側の相模湾側に抜ける線は未記入です。未記入なのは、活断層の不在を意味するのではなく、未だ確定した証拠をつかんでいないためと推測されます。このあたり一帯は谷戸が多く入り組んでいるため、現地調査がなかなか進まないのでしょう。

 引橋断層帯が北側に位置する他の断層帯と同様に西側の相模湾側に抜けるものならば、それは実施区域を通過する可能性が大であることは、「神奈川県の活断層」から容易に読み取れます。阪神淡路大震災以前のものでもあり、実地調査に基づくものでもない試作的資料を拠り所にして「実施区域内には上記の断層は存在しない」と断定することは、早計にすぎるのです。

 実施区域は完成の暁には「宅地開発区域」と位置づけられています。その意味では、埋め立て地であることに加えて、活断層の真上に位置するかどうかは、重大な関心事たらざるをえません。それだけに、信憑性に欠ける資料を根拠に「実施区域内には上記の断層は存在しない」と断定することは、活断層隠しを図るものと疑われても仕方がないでしょう。

 このような疑惑は京浜急行電鉄株式会社の社会的信用を失墜させるものです。
 そのような疑惑を招くよりは、この環境アセスメントを好機として捉え、実施区域における活断層の存否を確かめるために徹底した地質調査を追加的に実施すべきでしょう。その結果をもとに、今後の土地利用計画を策定するのが、企業として賢い選択であり、また、その社会的責任を全うする所以かと思います。

 実施区域における徹底した地質調査の追加的実施がないままに「実施区域内には上記の断層は存在しない」という断定にこだわり続けると、京浜急行電鉄株式会社の社会的信用は低下していくばかりです。



意見書その3

(仮称)三浦市三戸地区発生土処分場建設事業
 環境影響予測評価書案についての環境保全上の見地からの意見

                           2008年 7月16日
                                      
1.環境保全対策の目玉としての「蟹田沢ビオトープ」の問題点
 
「環境影響予測評価書案」359〜360頁において、「蟹田沢ビオトープ」の整備がうたわれています。それは、当該事業における環境保全対策の目玉として位置づけられているようです。というのも、当該事業実施区域に隣接する「蟹田沢」に「ビオトープ」を整備して、そこに保護すべき小動物を移せば、彼らが生息していた湿地帯=谷戸を埋め立ててしまっても、十分にその代替地としての役割を果たすことができるという見込みとして語られているからです。しかし、この見込みは本当に実現できるものなのでしょうか。

 「ビオトープ」は一種の流行りのようで、各地で「ビオトープ」を名乗る施設ができていますが、まともに維持管理されているとは思えない面が目立ちます。そうした実例を目の当たりにすると、「蟹田沢ビオトープ」の整備計画が、絵に描いた餅以下の単なる環境アセス向け作文になるのでは、と危惧します。危惧する点を2つあげます。

@.設置時の環境整備について。動植物の種・数量・バランスが保たれるか? 捕食性小動物(例えば、サラサヤンマのヤゴ)の餌となるものもきちんと確保されるのか? また、そのバランスもどうか? 等々。心配なので、少し立ち入っておきます。

 そもそも、「予測評価書案」ではサラサヤンマの移植については述べられていない。これは、サラサヤンマへの影響がないと考えてのことなのか。そうだとすると、専門家の意見と食い違っている。専門家の意見の通りにサラサヤンマへの影響があるとすると、ビオトープへの移植は可能なのか? 可能とすれば、何尾のサラサヤンマが生息可能なのか? 専門家によれば建設予定地には相当数の成虫が生息しているそうだが、それらと比較してどの程度の生息数を見込めるのか?

 「予測評価書案」はメダカやホタルについては移植すると述べている。しかし、ビオトープの規模は建設予定地と比較して著しく縮小することは避けられないので、それに見合って移植の数も少数にならざるをえないが、そのことによる影響(例えば近親交配による遺伝的悪影響)はないのか? ないとすればその根拠、あるとすればその解決策を示していただきたい。また、そもそも「予測評価書案」ではメダカやホタルの生息数が示されておらず、集団の遺伝的構造も明らかにされていない。そのような個体群の一部を小さなビオトープに移植することに問題はないのか? ないとすればその根拠、あるとすればその解決策を示していただきたい。

A.設置後の維持管理について。維持管理に年間どのくらいの人手と予算が必要なのか、「予測評価書案」ではボランティアを活用するとあるが、維持管理できるだけの人員を確保できるあてはあるのか。また、維持管理の最終責任はだれか、どこか? 観察や報告を義務化できるか? 報告先をどこにするか? 等々。
 
 これらの危惧を解消できないと、「蟹田沢ビオトープ」整備計画は、保護すべき小動物を生息地から追い出してそこを埋め立ててしまうための口実にしかすぎないものになります。それは環境保全対策から環境破壊対策へと簡単に変質してしまうものなのです。よほどの熟慮が必要です。


2.受け入れ発生土について

 現在日本の各地に産業廃棄物の山ができています。不法投棄の例は後を断ちません。自治体の監視には限界があるという例が多いのです。監視しない自治体さえありそうです。発生土処分場が転じて産業廃棄物処理場と化さないように、環境アセスメントの段階から注意を喚起しておく必要があります。

@.大気汚染や水質汚濁はもちろんのこと、特に土壌汚染については事前の調査を入念に実施して、現況の把握に務めておくこと。この点、「環境影響予測評価書案」が、「供用時に搬入される土砂には有害物質を含まないこと」(97頁)を希望的・無警戒的に想定して、土壌汚染の項目を選定しないことについての理由としているのは、理解に苦しみます。これでは悪質業者につけ入る隙を与えるだけです。このような甘い想定を改め、警戒心を惹起して、土壌汚染の項目を選定し直し、早急に調査を実施すべきでしょう。

A.供用開始後は、受け入れ発生土の調査をこまめに行って、未調査のものは受け入れないという毅然たる姿勢が必要です。なお、偽装列島日本の現況では、未調査のものを調査済みと偽るような不埒な行為も生じかねない状況ですので、その対策を講じておく必要があります。ワーストワン姉歯物件の傷跡も生々しく、偽装生コン入りマンション建設ラッシュに揺れて、今や偽装の名産地と化しつつある藤沢市から出る発生土については、特に警戒が必要です。

B.念には念を入れて、発生土がどこからのもので、どこへ埋め立てたかを完全に記録し、保存しておく必要があります。例えばアスベスト等のように、その時点では有害性が判っていなくても、後から判るものがあります。それが判った時点で、いつ、どこからのものが、どこに埋められたかを、検索できるような態勢をあらかじめ整えておくことも必要です。むろん、途中でまざらないように受け入れることが前提です。受け入れ状況は三次元画像処理で記録しておくとよいでしょう。そうすれば、途中で混ざってしまったり、責任があいまいになるのを防ぐことができます。発生土処分場を造成するには、これくらいの警戒態勢が欠かせません。


3.活断層隠しの疑惑について

 「環境影響予測評価書案」では、「三浦市には、北から南下浦断層帯、引橋断層帯が分布しているが、実施区域内には上記の断層は存在しない」(55頁)と断定しています。これは、本当でしょうか。とても信じがたい断定です。

「断層は存在しない」と断定する論拠になっているのが、56頁の「図3−2−22 実施区域周辺等の地質図」です。この図に拠る限り、引橋断層帯が油壷に抜ける形になっているので、「実施区域内には上記の断層は存在しない」ことは確かですが、図自体が信憑性に欠けます。図の出典は「「三浦半島地質図」(1991)横須賀市自然博物館」です。この出典の作成者に問い合わせたところ、引橋断層帯については引橋〜油壷間の現地調査を済ませたわけではなく、いわば試作的なものという返事でした。発表の年も1991年であって、1995年の阪神淡路大震災以前のものです。阪神淡路大震災の教訓からこれ以降活断層についての研究調査が格段に進み、その成果を反映させる形で神奈川県も「神奈川県の活断層」を発行しています。それによると、引橋断層帯は三浦半島を東側から西北西方向に向かって横断すること3割程の引橋付近で止められています。そこから西側の相模湾側に抜ける線は未記入です。未記入なのは、活断層の不在を意味するのではなく、未だ確定した証拠をつかんでいないためと推測されます。このあたり一帯は谷戸が多く入り組んでいるため、現地調査がなかなか進まないのでしょう。

 引橋断層帯が北側に位置する他の断層帯と同様に西側の相模湾側に抜けるものならば、それは実施区域を通過する可能性が大であることは、「神奈川県の活断層」から容易に読み取れます。阪神淡路大震災以前のものでもあり、実地調査に基づくものでもない試作的資料を拠り所にして「実施区域内には上記の断層は存在しない」と断定することは、早計にすぎるのです。

 実施区域は完成の暁には「宅地開発区域」と位置づけられています。その意味では、埋め立て地であることに加えて、活断層の真上に位置するかどうかは、重大な関心事たらざるをえません。それだけに、信憑性に欠ける資料を根拠に「実施区域内には上記の断層は存在しない」と断定することは、活断層隠しを図るものと疑われても仕方がないでしょう。

 このような疑惑は京浜急行電鉄株式会社の社会的信用を失墜させるものです。
 そのような疑惑を招くよりは、この環境アセスメントを好機として捉え、実施区域における活断層の存否を確かめるために徹底した地質調査を追加的に実施すべきでしょう。その結果をもとに、今後の土地利用計画を策定するのが、企業として賢い選択であり、また、その社会的責任を全うする所以かと思います。

 実施区域における徹底した地質調査の追加的実施がないままに「実施区域内には上記の断層は存在しない」という断定にこだわり続けると、京浜急行電鉄株式会社の社会的信用は低下していくばかりです。



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