嘱託医の自己紹介


 私の名前は「高岸 泰」と書き、「たかぎし とおる」と読みます。

 平成8年8月より井上先生の後を受けて藤沢市役所の精神科の嘱託医を拝命しました。内科学全般は山ノ内病院の松澤先生が以前より担当されています。私は毎月第3木曜日の午後2時から4時まで医務室に来ています。担当職務は職場におけるメンタルヘルスケアー、要するに精神保健に関する、よろず相談であります。

 精神保健相談といいますが、何も精神病に関する相談のみと狭く考えないで下さい。精神的な悩み事から、人間関係における困難、仕事内容との不適合・不適応、職場環境の問題点から家庭内の問題まで、何でも心の悩み事は対象になります。具体的な症状としては、不眠、不安、抑鬱感情、仕事や生活に対しての自信の喪失や意欲の低下、などから始まって自殺願望、被害念慮、果ては鬱病、躁病から幻覚妄想状態に至るまで、また摂食障害から強迫症状、アルコールや薬物などへの依存から家族内人間関係における共依存まで、また出社拒否症・帰宅拒否症、燃え尽き症候群、等現代的ストレス症候群などなど・・・・でお悩みの方、どうぞ御相談下さい。ただし全ての問題がたちどころに解決・解消するわけではありません。あくまでも精神医学の専門家として相談にあずかる訳で、役に立てるか否かは聞いてみなければ解りません。そこの所をお含みいただいた上で、どうぞ御利用下さい。

 普段は鵠沼桜が岡一丁目で鶴井医院を開設しています。精神科全般、一般内科、東洋医学科(漢方・鍼灸)を診ています。なかでも特に専門の研究分野は神経症と森田療法です。ポスト成熟社会における神経症と森田療法の応用をライフワークのテーマにしています。

 以上簡単ですが自己紹介を終わります。


 こんにちは、鎌倉市役所の精神科産業医をしていました高岸です。
詳しくは http://www.cityfujisawa.ne.jp/~tsurui01/ を御覧下さい。

私は藤沢市の精神科開業医ですが、5年前にはまだ精神科の産業医が少なくて、藤沢市役所の精神科産業医と兼任しました。この度、鎌倉市の野村先生に後をお引き受けいただきましたので自分なりの定年退職を致します。
就任してから約5年間の鎌倉市役所で実践してきたことを踏まえて一言書いてみます。その間一緒に歩んで下さいました石丸さんには多大の感謝をしています。また今後のこと野村先生よろしくお願いいたします。

今の時代、公務員の置かれた立場は厳しいものがあります。

日本の社会構造は大きな変動の中にいます。古から変革の時には大きな社会不安が起きるようです。そして不安は不信に繋がります。今までは信頼に基づき権威を与えられて機能していたシステムが不信感の下に崩壊の危機に瀕し、その為に機能不全と莫大な時間的、金銭的コストがかかるようになります。
こう云うときには現場で働く人々に大きなしわ寄せが来るようです。特に責任を持って何事かをなさねばならないとき、大きな抵抗になることもあるようです。学校の先生も、我々医療者も、政治家も公務員も大きな逆風を受けているように感じられてなりません。
その様なときにどう対処してゆくか?これには知恵がいりそうです。私の考えですが、プラス思考が大切と思います。これは前向きに生きられそうです。私は精神科医の中では「森田療法」を実践している者ですが、森田療法に云う「あるがまま」もプラス思考でして、現状肯定、すべてをあるがままに受け入れてゆく治療姿勢をとります。自己受容、自己信頼も 人を受け入れ、信頼するためには大切なキーワードのようです。

私はよく患者さんにお話しするのですが、世の中に自分以外に10人の人がいるとすれば、2人は完全な味方です。そして自分に害を為す人が1人はいます。これはその人が悪いということだけではなく、たまたま相性が悪かったり、悪い縁であったり、タイミングや、職責上の問題であったりします。あとの7人は中立です。どちらにもなりうる。その人たちを味方に出来るか?敵に回してしまうか? これはその人の考え方、やり方で決まってくる部分が大きいように思います。時の運や、時代の空気、流れによることもありそうです。

日本には単一の宗教的なバックボーンがありません。法律至上主義でもありません。論理的と言うよりは情緒的、もともととっても曖昧なのです。今、その曖昧さが仇になって出てきているようにも見えます。
それが日本人の良さでもありました。以前は村というコミュニティーがありましたがそれが崩壊しています。家族すら崩壊しているようなケースをよく見かけるようになりました。人が生活してゆくための最小単位であった家族の絆が失われたとき人は何を基準にして生きて行けばよいのか?インターネットの時代に入り、人は多くの情報を瞬時に得られるようになりましたが、逆に密な人間関係がややもすれば希薄化して、判断基準が多様化し、個人が何を一本の筋にして生きて行けばよいかの基本線を失って、危うくなっているようにも見えます。何となく世の中がギスギスしてきて、ここ何年かの間にダサイ、ウザイと拒否されてきた日本人らしさの良い部分、素晴らしさ(人や物を大切に、思いやり、恐れ入りますの心、勿体ないの心、人情、大人しく、長幼の序、遠慮の美徳、謙譲の美徳、好い加減、等々)が逆に作用しているように感じられてなりません。そして、今何が起きているのか?と云いますと、うつ状態の増加があります。これには様々な原因が考えられますが、上述したように環境がストレスフルになっていることがひとつの大きな原因になっていると考えています。その結果自殺件数は明らかに増えています。これをどうするか?今大問題になっています。

職場においても職場のメンタルヘルスケアーにどう取り組むのか?これが問われています。では、この5年間、私たちは何をやってきたのか?
まず私どもが取り組んだのは、リハビリ出勤を導入し定着させてゆくことでした。少し先に藤沢市で導入し、成功していたのでこれを行いました。これは精神的な問題を抱えて、長期に休んでいた方の職場復帰には欠かせないものと考えています。
そして、多くの御相談のケースに関して個々の事例の見極めと対処のしかたをスタッフとともに考えて参りました。
その上で職場内の風通しを良くする。内部の専門家の育成。ラインによる管理態勢の整備。そして外部の専門家の利用を計って参りました。

では出来なかったことは何なのか? 職場巡視と作業環境管理。これは職場の状況と時間の関係で困難でしたが、必要なことと思っています。職場によっては長時間労働が続く職場、対外的なストレスの強い職場、職員が次々参ってしまう職場、まだまだいろいろあると思います。これから将に団塊の世代が退官して行きます。時代の変化がぶつかってきています。人員は削減され、仕事は増えてゆき、責任は重くなってくると考えます。その中で仕事をして行くためには個々人が前向きに、;連繋を強めて、助け合い、もしも不調を来したら専門家につなぐこと。職場内、組織全体の風通しを良くして行くこと。ラインによる管理。これらをもっと充実して行くことだと考えています。

皆様、周囲の人にもっと関心を持ってください。もっと積極的に関わりましょう。引くな。逃げるな。独断的になるな。判らなかったら、疑問があれば、上手く行かなかったら、専門性のあるスタッフに是非御相談下さい。或いは専門家に繋げて下さい。職場の精神的な健康管理はこれからもっともっと重要になってくるものと考えています。

皆さんの力で精神的にも良い職場環境を造ってゆくことが重要と思います。
以上、任期を終了するに当たっての雑感を述べさせていただきました。
長い間有り難う御座いました。