武田アセス意見書集



2008年3月17日提出期限の意見書集・見出し


 意見書その1 / 意見書その2 / 意見書その3 / 意見書その4 

 意見書その5 / 意見書その6 / 意見書その7 
/ 意見書その8




意見書その1

2008312

 

(仮称)武田薬品工業株式会社新研究所建設事業

環境影響評価予測評価書案についての意見書

 

バイオハザード予防市民センター

  幹事 川本 幸立

 連絡先:〒267-0065

千葉市緑区大椎町1188-78

電話&fax043-294-2138

 

目次

 

1.未然防止、予防原則、説明責任の徹底について

2.WHO規定などの遵守について

3.立地及び配置条件、住民合意について

4.評価項目の「安全」の中の「危険物等」について

5.地震・火災時など非常時の対応と危険物漏洩・拡散の影響評価の実施について

6. 供用開始後のモニタリングの実施について

7.社内規定類の公表について

8.安全情報の公開とリスクコミュニケーションについて

9.その他、概要説明書における不明事項について

 

概要説明書(武田薬品工業)株式会社、H202月)内容を踏まえて、以下の意見を提出する。

 

1.未然防止、予防原則、説明責任の徹底について

 

 研究所はABC公害(*)の発生源となる環境リスクを伴う施設である。

         *A:放射性物質、B:生物、C:化学

 とりわけ、バイオハザード(生物災害)の特性として、@病原体等が漏出しても直ぐには検出は困難、A条件が整えば増殖する、B不顕性感染がある、C病原体の分離・同定が技術的に困難なため原因不明とされたまま経過することがある、などが挙げられる。

 そこで、「地域社会への貢献」のために、事業者の使命として、

 ・施設を発生源とする公害の未然防止と予防原則の尊重

 ・立地選定や安全管理の実態も含めた住民への説明責任の徹底

  (住民との安全情報の共有とリスクコミュニケーション) 

 を銘記すべきである。

 

2.WHO規定などの遵守について

 

 「周辺環境に十分配慮しながら本事業を進める」のであれば、以下の法令、規則類を遵守する必要があると考える。遵守の有無、遵守しない場合その理由を明確にしていただきたい。

 @世界保健機関(WHO)「病原体等実験施設安全対策必携」第3版

 A世界保健機関(WHO)「保健関係施設における安全性」

 BWHOバイオセーフティプログラム

 C第58回世界保健会議決議

 D生物多様性条約とカルタヘナ議定書

 E建設大臣官房官庁監修「官庁施設の総合耐震計画基準・平成8年版」

 F日本建築学会編「実験動物施設の設計」(彰国社)

 G日本建築学会編「平成8年度ガイドライン実験動物施設の建築および設備」(アドズリー)

 HJIS K3800-2000「バイオハザード対策用クラスUキャビネット」

 

3.立地及び配置条件、住民合意について

 

 上記の法令・規則等に基づき、遺伝子組換え実験施設、病原体実験施設、動物実験施設について、以下の項目を満足しているかチェックすべきである。

 

(1) 遺伝子組換え実験施設

 

@  実験施設は人のいるすべての地域に害を与えないように、その立地に配慮されているか。(2AWHO「保健関係施設における安全性」)

A  可燃物を使用する火災危険の大きい施設は、火災の影響と類焼を最低にするために患者や公衆が近くにいる地域並びに可燃物保管施設から離れて立地しているか。(2A同上)

B  汚染された空気は、実験施設内に再び入ったり再還流しないように、また隣接する建物や公共施設に入らないように排気されるか。(2A同上)

C  災害対策要綱の作成にあたっては、危険に曝される職員と住民の範囲を確定しているか。災害対策要綱は一定の間隔をおいて見直し、また当局と周辺住民団体に提供しているか。(2A同上)

D  周辺の気流状況、接地逆転層、いぶし現象の場合の施設排気の状況を検討しているか。                  (『感染研の国際査察』技術と人間)

E  建設について周辺住民の同意を得ているか。(EU理事会指令、カナダCDC)              


(2) 病原体実験施設


@〜E  1.1に同じ
F  レベル3実験室からの排気は直接建物の外に排出し、人のいる建物とその空気取入  

れ口から遠く離れて拡散されているか。(2@WHO「病原体実験施設安全対策必携」)

G  病原菌類・放射性物質を貯蔵又は使用、研究する施設については、特に周辺へ危険が及ばないような配置になっているか。(2E「官庁施設の総合耐震計画基準」)

H  過去の災害記録・地盤調査などをもとに地震、洪水、津波などの災害危険度の大きい箇所への立地は避けられているか。(2E同上)

 

(3)  動物実験施設

 

@  感染微生物、寄生虫を媒介する昆虫などの棲息地域ではないか。(2F「実験動物施設の設計」)

A  飼育対象の動物種が羅患し易い病気が潜在又は流行している地域ではないか。(同上)

B  悪臭、騒音等、動物飼育にともなって発生する多岐に渡る問題で周辺住民に迷惑を及ぼさないよう、住宅隣接地を避けて立地しているか。(同上)

C  明確な将来計画に基づき、増設・拡張が容易な構成配置か。(同上)

D  動物の飼育舎は独立の離れた単位施設か。(2@「「病原体等実験施設安全対策必携」」

E  建設について周辺住民の同意は得ているか。(2F)

 

4.評価項目の「安全」の中の「危険物等」について

 

@ 病原体、実験動物、DNA廃棄物も「危険物等」に含まれると思われるが、その記載がない。その理由はなにか。

A 病原体を将来とも扱わないのであればその旨を明記すべきである。(関係法令である感染症法の記載もない)

 B 取り扱い、保管する主要な危険物の種類と量を明記すること。

  実験動物の種類と年間使用頭(匹)数、放射性物質、特定化学物質、有機溶剤、病原体類など

 

5.地震・火災時など非常時の対応と危険物漏洩・拡散の影響評価の実施について

 

研究業務に伴う危険物漏洩・拡散の周辺への影響評価が行われていない。

 平常時、非常時などにおいて以下の予測・評価を行うべきである。

 

(1)平常時の排出・漏洩量の予測

@ 実験に伴う排水や排気中や廃棄物に含まれる一次側の病原体等の種類、量、サイズ(排気の場合)はどの程度か。

A HEPAフィルタ、排水処理設備、高圧滅菌機などの実際の除菌・滅菌性能を把握しているか。

B 実験排気量と拡散範囲、環境中に漏出する病原体等の種類と量はどの程度か。

 

(2) 非常時の対応と排出・漏洩量の予測

@ 大地震動時(震度7)の対応と被害、環境中に漏出する病原体等の種類と量の予測の最大はどの程度か。

A 火災発生時の場合。とりわけP3施設やRI施設の消火設備及び排煙設備の実際。

B 停電時の場合。

C 機器(システム)故障時の場合。

 

(3) 人為的ミス・過誤の予測

@ 人為的ミス・過誤にはどのようなものが想定されるか。

A 人為的ミス・過誤の発生確率はどの程度か。

B その場合の対応、環境中に漏出する病原体等の種類と量の予測の最大はどの程度か。

 

(4) 被害予測

@ 周辺環境(居住者、生活行動、施設、自然環境など)を把握しているか。

A 平常時、非常時において漏出する病原体等の拡散範囲と量はどの程度か。

B 実験感染者の行動範囲とその影響はどの程度か。

C ABにより想定される被害はどの程度か。

 

6. 供用開始後のモニタリングの実施について

 

供用開始後に病原体等による環境影響等のモニタリングを行うべきである。

@ 病原体等の流出や被害の有無、程度を確認するためにモニタリングを実施(水質、排気、大気測定など)する計画があるか。

A 疫学調査を定期的に実施する計画があるか。

 

7.社内規定類の公表について

 

評価書案に記載されている「社内規定」の概要について教示いただきたい。

 少なくとも以下の「規則類」「対策書」については開示されるべきと考えるがいかがか。

 ・研究所安全管理規程

 ・自主管理マニュアル

 ・組換えDNA実験安全規則

 ・病原微生物取扱い実験安全規則

 ・実験動物取扱い安全規則

 ・放射性物質取扱い安全規則

 ・感染性廃棄物処理計画、管理規程

 ・混触危険物取扱い要領

 ・環境保全管理方針

 ・緊急時対応規程

 ・環境保全対策書

 

8.安全情報の公開とリスクコミュニケーションについて

 

供用開始後の日常の業務に伴う安全管理の実態について一般に開示すべきと考えるがいかがか。住民とのリスクコミュニケーションについてどのように考えているのか。

 

9.その他、概要説明書における不明事項について

 

 以下の内容について明らかにしていただきたい。

・廃棄物焼却施設のダイオキシン対策の詳細とモニタリング方法について

・実験器具類の洗浄水の処理について

・実験排水の処理内容について、及び放流基準遵守の確認方法

・バイオハザード対策キャビネットのHEPAフィルター及び排気ダクトのHEPAフィルターの現場試験方法

・固液分離処理を一般動物排水及びRI動物排水が生活排水・一般汚水排水と同様とみなせる根拠

・既存施設のアスベスト建材の実態と解体時の対応について

・風害の予測方法の詳細について(周辺の既存の構築物や障害物、地形の詳細な考慮の有無など)

・施設の液状化対策について

以上




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意見書その2    3/14提出


(仮称)武田薬品工業株式会社新研究所建設事業

環境影響予測評価書案についての環境保全上からの意見

  

A 湘南の地に大規模バイオ施設は似合わない

 武田薬品の新研究所のうち、特にそのP3レベル・バイオ実験施設の抱える危険性に対する懸念を中心に当方の意見を記述する。まず、縦覧に供された環境影響予測評価書案には近隣住民の健康や安全に重大な関わりのある事実が明記されていない。また、本年2月初旬、武田薬品が近隣住民に配布した評価書案要旨(リーフレット)には事業内容の肝心な点が何も書かれていないこと、住民への説明会においても肝心な点を自ら説明しなかったこと、しつこく質問した挙句にしぶしぶ認めたことが多かったこと等々、その姿勢は「事業者、住民、行政が意見を出し合って大事な環境を守っていくため」という神奈川県の環境アセスメントの趣旨に全く反するということを指摘しておく。

 武田薬品は、研究所内に病原菌を持ち込んで実験することを何回目かの説明会において初めて認めた。猿や犬などの大型動物実験を行うことを初めて認めたのも説明会の場である。このように、重要なことを進んで明らかにせずに隠蔽しようとする企業の評価書案を住民はどの程度信頼してよいのか? 現在我々が知り得たこと以上に重大なことを隠しているのではないか、という疑念を持たざるを得ないのである。

 P3レベルの病原菌とは、炭疽菌、結核菌、Q熱リケッチア、腸チフス菌、パラチフス菌、HIVエイズウィルス、高病原性鳥インフルエンザ、新型肺炎(SARSなど、極めて危険性の高い病原体である。大変危険で大規模なバイオ実験を湘南の人口密集地で行うことに反対する。以下の理由から大規模なバイオ実験のための関連施設の建設計画を中止するよう要請する。

 (理由)

1        国レベルでのバイオ実験施設の意義と重要性は理解している。しかし、P3レベルのバイオ施設は、隔離された場所または人家から相当距離の離れた場所に設置すべきである。

2        高槻市JTP3施設に対する住民訴訟で、大阪高等裁判所は「当該事業活動により人の生命、身体又は健康を害する現実的可能性があると認められる」と認定している(2002年)。武田薬品はこの司法判断を尊重すべきである。同時に、行政サイド(県、藤沢市鎌倉市横浜市等)はこの司法判断の趣旨に沿うべく行政指導すべきである。

3        武田薬品は第1回説明会で“絶対安全である”と強調した(但し、第3回説明会で“努力目標である”と訂正した)が、世の中に“100%の安全”はあり得ない。バイオハザード(生物災害)の可能性をゼロには出来ない。欧米及び日本でも過去の事故例は沢山ある。人間は神様ではない。

4        武田側は説明会において、猿や犬などの大型動物を研究所内で実験に用いること、しかし、P3施設では実験しないことを明言した。また、これら実験動物は薬殺した後死体を焼却処分し、その煙や排出汚染物質を15m、45mの煙突から外に出すが、排出されたものは拡散するので隣接する病院やマンション群(高さは50m程度)には何ら問題ない、と説明した。しかし、その根拠が曖昧である。住宅密集地に対する病原菌によるバイオハザードの危険性に加えて、旧式の火葬場そのものと言える動物死体焼却場を設置・運用することは、近隣住民に多大の健康被害と苦痛を与える。

5        研究所の隣接地には多くの一般住居、特別養護老人ホーム、湘南鎌倉病院(540程度の病床数)及び集合住宅群がある。特に老人や病人は免疫力が弱いのでP3実験室からの排気ガスに含まれるウィルス・病原体に感染する確率が高い。従って、近隣住民にとっては第2次感染の危険性が非常に高い。

(背景)人が病原菌に感染する割合について。第1次感染率は人口に比例し、第2次感染率は人口の2乗に比例する。(人口1の場所に対して、人口が10倍の場所では第2次感染率は100倍になる。)人の数が多ければ多いほど感染する確率と伝播力は大きくなる。

 

B 環境影響予測評価書案及び近隣住民説明会に対する意見

6        標記評価書案の要旨(リーフレット)が2月上旬、近隣住民各戸に配布された。ところがその内容には当研究所において行う事業内容の肝心なポイント、とりわけ住民の安全と健康に深刻な影響があると考えられる毒性化学物質や遺伝子操作の有無・内容についての具体的記述が一切含まれていない。P3のことも実験動物についても書かれていない。説明会では毎回のように、多くの住民から、「重要な業務内容のポイント(扱う化学物質、P3、動物、病原体など)を示した説明書を再配布して貰いたい」との要望が表明されたにも拘わらず、武田薬品は拒否し続けた。その理由は、県の条例に基づいて県の承認を得て配布したもの故、追加(再配布)することは出来ない、とのこと。武田薬品は“官”に対する手続き上の形式を優先し、“民”の生命・健康・苦痛を全く考慮していない。

7        上記のリーフレットは当該研究所から半径3kmに配布されたとのことであるが、万一の場合、バイオハザードはもっと広い範囲に及ぶので、少なくとも半径10km位までの住民を対象に配布すべきである。

8        武田薬品にはP3レベルのバイオ実験の経験・実績が全くない、とのこと(説明会)。専門家によれば、実験室内での操作を少しでも間違えると、病原菌がエアロゾルとなって空中に漏出して危険であり、安全運営のためには研究者の経験や熟練度が必須である。現在の計画は、運転免許証を持たない未経験者が満員バスの運転をするようなものだ。未経験企業が大規模のバイオ実験をいきなり行うのは極めて危険であろう。

9        病原体などがエアコン排気や排水などから外の漏れ出た場合、隣接する病院、養護老人ホーム、個別住宅、及びマンション群の人々に対する第1次及び第2次感染被害が甚大になる。HEPAフィルターの公称性能は0.3ミクロン以上の大きさの微生物を捕捉するが、その補足率はWHO(世界保健機関)ガイドラインで99.997%であり、100%ではない。さらに深刻な問題は、HEPAフィルターではウィルスそのものを捕捉することは出来ないことである。何故なら、殆どのウィルスは、その大きさ(粒径)が0.020.3ミクロンであるから、HEPAフィルターを通り抜けて外に排出される。従って、相当数の病原体とウィルスが研究所の外に常時排出されることになる。

10    病原菌の実験過程において、また、実験動物の分泌物・あせ・糞尿などからも、病原菌がエアロゾル状になって発生するが、HEPAフィルターはこの病原体エアロゾルを完全に捕捉することは出来ない。また、運転時間の経過とともにHEPAフィルターは劣化して性能が落ちるのは当たり前のことであり、時には故障も起きる。これも相当数の病原体が外に漏れ出る要因になる。

11    実験者の健康を守るため実験室のエアコン排気は実験室内には再循環しない、とのことであるが、その同じエアコン排気ガスを外に強制排気するという。研究員の健康は守られるが、その排気ガスを吸わされる隣接住民・老人・病人の健康はどうなるのか? 季節風が強いときなど、その排気ガスは屏風のような近隣マンション群に直接吹き付けることもある。説明会では、環境基準を超えないので安全であると強調した。それほど安全であるなら、それを実験室に再循環させるべきである。

12    HEPAフィルターを通り抜けたウィルスや病原菌エアロゾルは、長期間空中に浮遊して遠くまで飛んで行くと考えられるが、それはどこまで広がるのか、その拡散範囲はどの程度なのか? 近隣の3次元地形・建物モデル、地上から高空に至る、各月毎の最も強い風のデータ等を用いて数値シミュレーションすることにより、ウィルスや病原菌エアロゾルなどの運動とその拡散分布、飛来する範囲等を示すべきである。その際、科学的・定量的妥当性を確保するため、シミュレーションの基礎式及び各種係数・乱流モデルを明示しなければならない。評価書の計算は13 m/s程度の穏やかな地上風を用いて行われているが、それでは武田薬品が説明会で主張した“最悪条件下でも安全である”という状態にはほど遠い。(背景。エアロゾルの拡散は気象条件に大きく左右される。)

13    煙突から排出される汚染物質(煙・灰・煤、ダイオキシン、浮遊粒子状物質など)は風速や風向により遠いところまで飛散する。また、季節により、海風・陸風により、近くの地形・建物の配置・高さ等により、相当に複雑な流れを形成する。気象条件によっては高いマンション群や病院を直撃する。夏は藤沢市付近では光化学スモッグが発生するので、複合汚染の可能性も否定できない。従って、上記12と全く同様な手法により数値シミュレーションを行って、これらの汚染物質の拡散分布や飛来する範囲を示すべきである。即ち、住民が最悪どの程度の被害を受けるのか、どの程度の我慢をすれば済むのか、を定量的に明らかにすべきである。

14    評価書案別添5-2「環境影響予測評価」では、研究所周辺の何点かの地点を選び、研究所の地上観測風(13m/s)を基に大気汚染を推定計算しているが、科学的妥当性に欠ける。風速・風向は研究所内ではなく住居のある地点で高度0100m程度の高度範囲で測定すべきである。今回の風の評価では、測定点は地上20mの一点とし、また、1年間(52週間)の風の変化を(穏やかな日を選んで)4週間のデータで代表させているが、余りに非科学的である。つい先日(本年2月下旬)の風速25 m/s程度の“春一番”は計算に入れるべきであり、風向・風速データは、上空風も含め、観測データの3シグマ上限まで考慮に入れるべきである。(シグマは標準偏差のこと。)

15    研究室で使われた液体は公共下水道に排水する計画であると言うが、その排水にも多くのウィルスや病原体が含まれている、と考えられる。上記の排気ガスと同じように、定量的な数値シミュレーションを行うべきである。

16    評価書案p.141。表5-1-2-21)「影響評価項目に選定しなかった理由」において、水質汚濁を選定していないのは誤りであり、責任逃れになる。公共水路、公共下水道とも理論上の計算だけで安心するわけには行かない。想定外のこと、人間のミス、計算条件の誤り等があるのは世の常であり、実証することが必要である。また、バイオ実験に使用した水を処理して公共下水道に放流する方式は危険である。何故なら、実験室からの排気ガスと同様、病原菌やウィルスをゼロにすることはできないから。現在の計画の通りでは、かなりの数の病原菌やウィルスが日々公共下水道に流出することになる。

17    本事業の開始後、実験室の強制排気ガス、煙突からの排出物、及び研究所からの排水等について、定常的にモニターすべきである。疫学調査も定常的に行うべきである。さらに、行政サイドの査察も実施すべきである。これは、万一の場合(例えば、何らかの伝染病が近隣地域で発生した場合)、その因果関係を明確にすることが出来るので、住民側だけでなく企業側にとってもメリットがある。

18    故・芝田進午博士は、「WHOは病原体実験施設を住宅地や公共施設から出来るだけ離して立地すべきである、と指示している。また、アメリカやカナダでは住宅地に設置することは出来ない。イギリスやドイツでも、法律による届出義務・認可・査察の制度が確立している」(1999525日付朝日新聞)と指摘している。バイオ施設に対する法的規制の遅れているわが国において、その立地条件などは欧米先進国に準じた運用をすべきである。

19    (評価書案には書かれていないが)武田薬品は説明会において「猿や犬などの大型動物の実験をP3施設では行わないが当研究所内では行う」と言明した。計画ではP3レベルの実験室は2層構造で3室あり、動物実験を行う研究室(図4-3-2-6及び表4-3-3-1)も2層構造で3室ある。ということは、P3レベルの拡散防止措置のとられていない実験室内で、P3レベルの病原菌や遺伝子組替え微生物を猿や犬に接種して動物の薬物動態試験を行うのか? もしそうであるなら、それは極めて危険であるだけでなく、「研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当って執るべき拡散防止措置等を定める省令」(平成16年文部科学省・環境省令第1号)の第四条(第二、第三項)及び第五条(第二、第三項)に違反する、と思料される。そもそも、どのような実験動物を用いて、どのような実験を行うのか、評価書に明記すべきである。

20    猿や犬などの大型動物の死体を大量に焼却する施設(焼却炉)は、住民にとって人の火葬場と同じ類のものである。人家の隣で焼却し、かつ旧式の火葬場のように煙突から大量の煙・灰・煤、ダイオキシン、浮遊粒子など排出することは、近隣住民に多大の苦痛を与える。また、これらの汚染物質の周辺地域への拡散・降下により住民には健康障害が発生する可能性がある。何よりも、動物死体を研究所敷地内で焼却すること及びその燃焼生成物を煙突から排出することは、評価書案に明示的に書かれていない。説明会でも武田薬品は自ら進んで説明しなかった。質問者の追及によりしぶしぶ認めたものである。また、煙突から排出される灰・煤、浮遊粒子、ダイオキシン類などの汚染物質については、濃度だけの問題ではない。住民の健康被害は、濃度だけではなく、その総量大きく影響される。従って、1日に排出される総量を示すべきである。また、汚染物質について、事業開始後モニターすべきであることは言うまでもない。さらに、人間の火葬場でも今は再燃焼などの技術により、煙突は殆ど使われていない上、その建設には住民との合意が必要である。本研究所の焼却施設はどのような法・規制の下に認可されたのか? 住民の合意は必要ないと考えているのか?(現在は、学校や企業などの施設では、紙類の焼却さえ禁じられている)。

21    今回の環境アセスメントでは、住民の安全についての考察と対策が欠けている。リスク評価がいい加減である。リスク評価の項目としては、「平常運用時の実験に伴う排気からの漏洩病原体やウィルスの種類・量・サイズの予測」「地震、火災、洪水、停電、フィルターを含む機器の故障など、非常時の漏洩の予測」「人為的ミスの発生確率の予測と対応」「平常運用時及び非常時における病原体及びウィルスの拡散や自然環境及び住民の被害予測」などが必須項目である。つまり、バイオハザードの定量的・確率統計学的評価を行うべきである。そのためには、生物、医学、気象、流体化学、機械、電気、安全工学を含む広い分野の専門家に指導して貰う必要がある。

22    バイオテロの対策は考えていない、とのことであるが、これは大問題である。国際テログループはP3P4施設に対してのバイオテロに興味を持っているとの情報がある。危機管理の専門家の指導を受けて、対策を立てるべきである。

23    事故・緊急時・災害時における市や消防・警察・住民を含めた防災体制が全く検討されていない。防災体制を事業者、住民、行政の合意により前もって決めておくことが必須である。このためには、情報公開が必要である。例えば、P3バイオ施設が火事になったとき、消防や住民が駆けつけて“水”で消火するとどうなるか、武田薬品の関係者はご存知であろうか? 専門家が指摘するように、バイオ施設に水を散布することは、病原菌を外にばら撒く行為であり、周囲の人間の受ける災害(ハザード)が一気に拡大するのである。そのようなことを住民は知らない。何よりも、近隣の消防にはP3施設とそこで扱う病原体のことを説明してあるのか?

24    防災対策の一環としては、近隣住民が定期的に予防注射やワクチン接種を受けることが大変有効である、とイギリスのある専門家が推奨している。何故なら、病原菌に対する免疫を持つ人が感染する危険性は低くなるためである。なお、実験研究者は、日常作業により病原菌に対する免疫が出来ているので感染の危険性は低い。

25    アメリカのCDC(疫病管理センター)ガイドラインは、P3レベルの実験室から病原体の漏洩があり得ることを前提にしている。そこで、もう一つの防災対策として、危機管理の専門家が指摘するように、病原菌などが多量漏出してしまったことを想定して、近隣住民の被害を最小限に抑えるための防災訓練を、事業者、警察、消防、住民共同で行うべきである。これは地震に対する防災訓練よりも緊急度が高い。

26    事業開始後、P3実験室、動物実験室及び煙突から排出される汚染物質の点検・モニターを毎日行うべきである。また、研究所から排出される水質についても毎日モニターすべきである。一週間程度の間隔をおいたモニターでは、最悪の場合、近隣住民の受ける被害は甚大になる。また、フィルターなどの機器についてもその点検は毎日行うべきである。

27    災害対策及びバイオテロ対策のため、武田薬品は施設の厳重なセキュリティ体制を確立すべきである。そのため、武田薬品は行政(県、藤沢市鎌倉市横浜市)及び近隣警察にバイオ施設の内容と危険性を十分説明すべきである。

28    今回の環境アセスメントは、その内容が杜撰で検討内容が極めて不十分であり、科学的・定量的評価が出来ていない、などの深刻な欠陥に満ちている。評価書案に示された内容は、WHOや欧米先進国バイオ施設の安全指針には遠く及ばない。また、武田薬品は、この評価書案が県の環境影響評価審査委員会の専門家により十分に審査される(された)ので十分である、と説明した。しかし、県の審査会委員には、分子生物学、バイオ実験技術、(感染病を含めた)医学・医療、気象学、流体科学、安全工学、危機管理などの専門が入っていない。従って当該評価書案に対する審査は不十分である、と思料される。

29    今回の説明会の実態からみて、武田薬品は住民の生命や健康に対する安全性を真剣に考慮していない。また、不慮の事態の際に絶対に必要になる情報公開に対して極めて否定的であることも大問題である。不慮の事態が発生したときの住民被害が甚大になるからである。ここに、本バイオ施設建設の中止を要請する。どうしても建設を強行する意思を持つのであれば、環境アセスメントを一からやり直すとともに、住民への情報公開を最優先すべきである。

30    評価書案の別添5-2「環境影響予測評価」について。植物や動物の生息状況については詳細に調べてあるが、人間のことが全く考慮されていない。一番大事なことは、新研究所が稼動することにより環境がどのように変化して近隣住民の健康被害や罹病率などがどのように変化するか、ということである。そのためには、現在の人口密度・年齢構成・病人の実態・健康度などの調査、即ち疫学調査を行うべきである。それも、20年程度は定期的・継続的に行うべきである。

31    評価書案p.47。表3-2-1-20(神奈川県の)「産業廃棄物の発生及び処理状況」には、「動物の死体」という項目区分があるが、p.317の表5-2-6-4(武田研究所からの)「廃棄物の種類、量、処理・処分方法」の中には、動物の死体の項目がない。言葉だけ飾って「廃棄物焼却施設焼却灰」としてごまかしてはいけない。県の区分に従って、真実を書くべきである。一年間に焼却される動物死体の量はどの位なのか? また、この表で、医療系廃棄物とは何を指しているのか、具体的に示すべきである。

32    評価書案p.361-7「環境保全に留意を要する施設」には、学校や文化施設などが含まれているが、住居や集合住宅が入っていない。人間の住む住宅は環境保全に留意を要しないのか?

33    評価書案に、略語や専門用語の説明一覧を示すべきである。SPMSO2など。例えば、ダウンウォッシュは専門分野によって意味が異なる。

34    評価書案p.631-11「関係法令等の指定・規制等」の中に「感染症法」(平成114月施行)を入れるべき。バイオ関係の法令・規制も入れるべき。また、日本はバイオ関係法規制の整備が遅れていることに鑑み、国際的な常識であるWHOガイドラインなども入れるべきである。

35    評価書案p.913-3「地域景観の特性」には、「実施区域周辺は、工業地域であり工業・商業系の景観を呈している。また、鎌倉市域の丘陵部には緑地が多く点在している」と、のどかな田園風景を強調しているが、それは明治時代の風景ではないのか? 歩いてみれば分かるとおり、現実は全く逆で、特に鎌倉側の隣接地(例えば、武田研究所境界から400500m以内の地帯)には住居やマンションが多く立ち並び、人口密集地となっている。大型病院も建設中である。また、年間を通しての風速・風向から考えて、このバイオ施設及び煙突から排出される汚染物質(ダイオキシンや浮遊粒子など)を最も多く吸うのはこの鎌倉側の住民である。

36    評価書案p.119。表4-3-3-1「施設等の概要」には、エネルギー棟、焼却炉、煙突、ゴミ置場等が入っていない。これは当該研究所にとって生命線とも言える重要な施設の筈。この表には厚生施設や便所まで入っているのだから、このような大型で重要な施設を省略してはいけない。その内容を明記すべきである。

37    評価書案p.105。図4-3-1-1。「土地利用計画」によれば、危険物倉庫が鎌倉側の特別擁護老人ホームや病院との境界付近に置かれている。病人や老人のいる隣家から遠くに離れた地点に設置すべきである。

38    動物死体の焼却炉の処理能力はどの位あるのか? 燃焼温度はどの位か? 住民感情から言えば、再燃焼の技術など(人間の)火葬場の技術を取り入れて煙突を用いない方法を採用すべきである。また、この焼却炉の建設には住民の合意が必要であろう。

39    評価書案p.1318. 「廃棄物処理計画」は、極めて曖昧で具体性を欠く。動物の死体処理の量や処理方法も含め、もっと具体的な計画を示すべきである。また、事業者に委託処理をする、という事項が多すぎる。最後まで透明性を保ち安全を確保するのは武田薬品の責任であり、その計画の全貌を示さなければならない。

40    危険度の高いバイオ実験、RI実験の実施については、本研究所の安全管理規則等を制定して公表すべきである。欧米では実験動物の取り扱いを含めた詳細な規則・ガイドラインを公表している。わが国でも、小規模の遺伝子組み換え実験であっても、その実施機関は安全管理規定を公表している。

41    本事業計画の実施を真剣に考えるのであれば、まず、本事業の内容を包み隠さず住民に公開した上、上述したような防災対策・防災訓練の措置をとることにより住民の理解を得る以外に道はないと思料される。

42    評価書案の資料編の資3-1-13-1「遺伝子組み換え実験時の拡散防止措置のレベルについて」の項。資料編に掲載した省令(平成161月文部科学省・環境省令第1号)のうち、「大量培養実験」及び「動物実験」に係る部分が全て省略されている。しかし、この研究所は大量培養実験も動物実験も行うと想定されるのであるから、第四条(第三項、第四項)及び第五条(第三項、第四項)は最も重要な適用条項ではないのか? 何故その部分を意図的に省略したか?

 

C 県知事への要望

43    武田薬品はその説明会において、肝心な内容を伏せたまま「法に従い適切に実施するので安全である」と繰り返し言明した。しかし、日本はバイオ施設に対する立法処置の点で欧米に比べて著しく遅れているため、殆ど規制のないのが現状である。従って、「法に従い適切に処置するから大丈夫」と武田薬品が強調することは、逆に非常に危険であるということを示している。この際、県民の「生命、身体又は健康を害する現実的可能性があると認められる」(大阪高裁、上述)バイオ施設に対するヨーロッパ、アメリカ、カナダなどの法的規制を早急に調査して頂きたい。それには、立地条件、住民参加の問題などが含まれよう。また、その際、P2以上の代表的バイオ施設の実態を十分に視察してくることが望ましい。それをベースに県民保護の立場に立って、特にバイオ関係の実験については、欧米並みの“運用”を基本にした行政指導を実施して頂きたい。

44    県の環境影響評価審査委員会委員に、分子生物学、バイオ実験技術、医学・医療、気象学、流体科学、生物安全工学、危機管理などの専門家が入っていない。加えて頂きたい。

45    実施企業が環境アセスメントを行うのは、公平でないと考えられる。真の第3者機関が評価をするシステムにするのが、県民の利益になるのではないか?

46    今回のアセスメントは、バイオ関係のみならず、排水、水質、土壌、地質等も含めて、極めて杜撰に出来ており、武田薬品があくまでこの事業計画を推進する方向であるのであれば、環境アセスメント及び住民への説明会をやり直すよう指導して頂きたい。

47    県は、大局的見地に立って、本研究所建設事業のうちP3バイオ関係事業を中止するよう行政指導して頂きたい。



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意見書その3     3/14提出
(仮称)武田薬品工業株式会社新研究所建設事業

  環境影響予測評価書案についての環境保全上の見地からの意見


 武田薬品が日本工営に委託して作成した「環境影響予測評価書案」(縦覧用)は、縦覧しようとする者に威圧感さえ与えるほどの分厚いA4版の冊子ですが、中身をのぞくと、核心のことろがぼかされていて、瑣末な事柄の記述がやたらに目につきます。その意味で、外見だけは立派ですが、中身が空っぽうな、虚仮威しの作文と見受けました。一言で言って、ずさんです。以下、そのずさんな諸点を記します。


 その1、「植物・動物・生態系」のうち「動物」について。

 「環境影響予測評価書案」において「動物」について調査・分析する観点としてあるのは、「動物」保護の観点のみです。確かに、この観点からはこと細かな調査や分析がなされています。一般的にはそれで不足はないのかもしれませんが、ことP3レベルの遺伝子組み換え実験室やRI実験室を多数設置する研究所の建設となると話は別で、いくら細かく調査や分析をしたところで、その「動物」保護の観点だけではまったく不十分です。

「動物」は、文字通り、動く物だから、研究所施設の内外に侵入し、徘徊し、人間の活動に対して不都合な行動を行う可能性が常にあります。つまり、保護の対象であるばかりでなく要警戒の対象でもあるのです。P3レベルの遺伝子組み換え実験室やRI実験室をかかえる場合は、この要警戒の面が特に重要です。

 ところが、「環境影響予測評価書案」には「動物」保護の観点があるのみで、「動物」は要警戒の対象でもあるという観点が全くないのです。従来用心されてきたその種の侵入警戒「動物」は、ノミ・シラミ・ダニ・カ・ハエ・クモ・ハチ・ゴキブリ・ネズミ・ノライヌなどで、枚挙に暇がありません。近年ではカラスによるゴミ襲撃は日本全国の都市部ではあまねく知れ渡っています。藤沢駅にはハト除けの設備もあるようにハトの糞害も深刻化し、ハトに餌をやるなという声さえ聞かれます。それらに加えて、ここ湘南地域においては、江ノ島名物のノラネコ数十匹の存在はまだお愛嬌だとしても、飲食物をねらったトビによる人間への襲撃は警戒警報の看板が立つほどにも常態化しつつあり、両手を器用に使って悪さをするアライグマも跋扈し、野生化したサルが出没して、児童や生徒に対して引っ掻かれるからサルに近づかないようにという注意報が学校関係機関から発令されることもあります。

 このような「動物」に対して、「環境影響予測評価書案」は要警戒という観点からはまったく注意を払っていません。だから、周辺地域内に生息しているはずのノミ・シラミ・カなどの微小動物やノライヌ・アライグマ・サルなどの中型動物が調査の眼から洩れるのです。こんな事実に反する出鱈目な話はありません。この点は「環境影響予測評価書案」がいかにずさんに仕上がっているかを如実に物語っています。こんなずさんな「環境影響予測評価書案」を通すわけにはいきません。もう一度やり直させるべきです。

 P3レベルの遺伝子組み換え実験室やRI実験室は、そこへの出入りを、危険な状況とそれへの対処法を熟知した研究者のみに限定しなければならない性質の施設です。そのような実験室を多数設置しようとする研究所建設計画において、以上のような諸「動物」の侵入に対する要警戒の観点がまったく欠落しているとは、空恐ろしい限りです。ことにノミ・シラミ・カ・ダニ・ハエ・ハチ・ゴキブリに対する警戒心の欠如は深刻です。この点、武田薬品にはP3レベルの遺伝子組み換え実験室やRI実験室を設置する上での基本的な心構えができていないといわざるをえません。

 カやゴキブリだからといって、これをあなどるなかれ。カやゴキブリの生命力・行動力は抜群です。ことにある種のカが病原体を媒介する事実はよく知られてもいます。巧みに出入りを繰り返すカやゴキブリのために武田薬品が大失態をしでかし、ために社会的信用を失墜し、その株価を大暴落させ、湘南地方を巻き添えにしながら日本の一流企業から転落しないとも限りません。P3レベルの遺伝子組み換え実験室やRI実験室は、そのような危険性をはらんでいます。千丈の堤(ダム)も蟻穴より崩れるといいます。そう言えば、アリが抜けていました。アリも警戒の要アリです。

 なお、以上の他に、「環境影響予測評価書案」においては、哺乳類の調査がカメラのみであること、また、確認された動物の個体数の記載がないこと等を指摘したいと思いますが、詳細は公聴会での公述に譲ります。

 
 その2、郷土の宝「文化財」について。

 「環境影響予測評価書案」においては、「「神奈川県遺跡分布図」(平成18年 2月現在 神奈川県)によると、実施区域西側の敷地境界付近に埋蔵文化財包蔵地が分布しています」と認めた上で、しかし、「文化財」を「評価項目」として「選定」しない、すなわち、調査の対象外だとしています。その理由は、「埋蔵文化財包蔵地直上では、造成等の改変を行わない」からだというのです。

 この理由はまったくデタラメです。というのも、武田薬品の新研究所建設計画は、まさに「埋蔵文化財包蔵地直上で」立案されているからです。それは、次のような事情によります。

 時期は武田薬品が現在の工場用地を造成した1962年に溯ります。この時は用地のうちの藤沢市側のみの造成で、ここに現工場が建てられました。その後、鎌倉市に属する用地が造成されて付け足され、そこには現野球場・テニスコート等が造られました。

 問題は1962年の最初の造成の時に起こりました。用地の元の地形は西の一角に丘陵があるほかは水田であり、その工場用地としての造成の仕方はこうでした。すなわち、用地内にある西の丘陵を削り、それで生じた土砂を用いて、水田だった他の部分に盛り土を施して、全体を平坦にしたのです。(この事実は、「環境影響予測評価書案」も230頁の凡例で認めています。)

 この時西の丘陵には遺跡が存在したのです。それを無造作にも破壊して掘削と盛り土が行われました。だから、盛り土の中に土器や石器が紛れ込んだまま埋められてしまったのです。

 通勤の途次、東海道本線の車窓から眺めて、某研究者がもしやと思い、現場に駆けつけた時には、時既に遅かったのです。遺跡の大方は壊されてしまったようで、動かされずに残った土器や石器はあまり多くはありませんでした。ただ、遺構の残骸からの推測によってこの遺跡がかなり大規模なものであったらしいことが分かる上に、手つかずに残った出土品の中には藤沢市域では出土するのが珍しい縄文土器が含まれていることから、破壊されてしまったことがまことに残念でなりません。武田薬品によって大方が破壊されたこの遺跡のことを、地域の地名に因んで十二天遺跡といいます。

 「環境影響予測評価書案」が「実施区域西側の敷地境界付近に埋蔵文化財包蔵地が分布しています」というのは、実にこの十二天遺跡のことです。しかし、十二天遺跡にあった土器や石器は、「実施区域西側の敷地境界付近」にはもはや存在しません。実際にはそれらの土器や石器は、最初の用地造成工事の過程において武田薬品自身の手によって掘り出されて運搬され、現在工場建屋が存在するあたり一面の盛り土の中に埋め込まれているのです。武田薬品の新研究所は、現在の工場建屋を取り壊して、その跡地に建設される計画だから、その計画は、まさに「埋蔵文化財包蔵地直上で」立案されているといえるわけです。 

 以上の事実は、藤沢市教育委員会発行の『藤沢市文化財調査報告書 第5集』所収の「藤沢市柄沢十二天遺跡調査略報」を一読しながら、武田薬品用地近辺についての1960年以前・1965年頃・現在の、三時期の地形図を見比べれば、自ずと明らかになってくる事態です。(添付資料を参照のこと) 高校生レベルの知識と読解力があれば、判然となる事柄であって、調査に手間取る性質のものではまったくありません。

 なによりも武田薬品は、このような事態をもたらした張本人なのですから、ことの次第を熟知しているはずです。その反省の上に立って、今次の新研究所建設計画に際しては、「環境影響予測評価書案」においてはすすんで「文化財」を「評価項目」として「選定」し、その保護に尽力してしかるべき立場にあります。ところが、実際はその逆で、自己に都合の悪い前掲の諸資料は伏せておき、知らぬ顔の半兵衛をきめこみながら、自己に不都合でない範囲で「神奈川県遺跡分布図」を利用することによって、「文化財」については、「埋蔵文化財包蔵地直上では、造成等の改変を行わないことから、評価項目として選定しません」と武田薬品は言ってのけるのです。白々しい限りです。

 ここにおいて武田薬品が作成した「環境影響予測評価書案」のずさんさは極まれりというべきです。しかも、たちが悪いことに、そのずさんは、決してたまたまそうなったというものではありません。ことの経緯から判断すると、故意に仕組まれたそれという疑いを拭いきれません。武田薬品も堕ちたものです。

 堕ちたのは武田薬品のみではありません。委託を受けた日本工営もまた堕ちました。日本工営は土壌・地質調査を得意とします。土壌・地質調査の分野では近年〔地中レーダー〕という機器が開発され普及して、重宝がられています。これは、空中レーダーや水中レーダーの地中版で、地面をいちいち掘り起こすことなく、相当な深度まで地層や埋設物の有無等の地中の様子を探索できる装置らしいです。この探査装置を用いれば、費用や手数や期間をあまりかけずに精度の高い情報がえられ、考古学分野の遺跡発掘調査にも便宜であるといいます。この情報は、インターネットで検索すれば、多くの企業のサイトがこの機器の宣伝を行っているから、誰でも入手することができます。

 日本工営も土壌・地質調査会社としてもちろん、この〔地中レーダー〕を使った調査をウリの一つにしています。だから、日本工営にとって武田薬品の敷地内に埋蔵文化物が埋まっているかどうかを調べることは至極簡単な作業でした。だが、その作業を日本工営は避けました。なぜか。うっかり埋蔵文化財を探索しあてて、そのために工期が大幅に遅れる事態を招き、余計なことをしやがってと依頼主の武田薬品から恨みを買うことを恐れたからでしょう。こういう私企業が実際には「環境影響予測評価書案」を作成する作業を請け負うのです。そんな請け負い仕事の「環境影響予測評価書案」などはあてにならないというべきです。

 堕ちたのは武田薬品や日本工営の私企業のみではありません。藤沢市教育委員会もまたしかりです。同委員会は「藤沢市柄沢十二天遺跡調査略報」を発行しているからには、十二天遺跡が破壊された顛末を熟知する立場にあります。なのに、「文化財」については、「埋蔵文化財包蔵地直上では、造成等の改変を行わないことから、評価項目として選定しません」という武田薬品の言い分に内諾を与えているのです。このまま工事が進めば、十二天遺跡は二度踏みにじられます。文化財保護行政を司る同委員会が武田薬品の蛮行に手を貸して、文化財破壊行政機関へと転落しつつあるのです。まったく呆れ返った話というほかありません。

 管轄の行政機関がこのようなていたらくでは事態は絶望的ですが、望みがまったくないというわけでもありません。2008年2月実施の藤沢市市長選挙の結果、海老根新市長が誕生しました。新市長は「藤沢市環境方針」を掲げ、その「基本理念」の冒頭において「藤沢市は、歴史と文化と自然のネットワークするまち「湘南の海にひらかれた生涯都市」を将来像とし」とうたっています。海老根新市長が「歴史と文化と自然のネットワークするまち」を目指す姿勢に嘘偽りがないならば、藤沢市教育委員会が武田薬品による二度目の十二天遺跡蹂躙に手を貸す行為を黙認できないはずです。武田薬品によって二度も蹂躙されようとしている十二天遺跡こそは、藤沢市域には出土するのが珍しい縄文土器を含む埋蔵文化財として、「歴史と文化と自然のネットワーク」を象徴するものにほかならないと考えるからです。

 神奈川県環境影響評価条例の手続きにおいては、武田薬品作成の「環境影響予測評価書案」に対して、公聴会を経たのちに「関係市町村長の意見」が提出されます。その時、海老根新市長が「歴史と文化と自然のネットワーク」を象徴するこの十二天遺跡を蹂躙するような動きにどのような反応を示すのか、これを追認するのか、これに待ったをかけるのか、注視していこうと思います。


 その3、「水質汚濁」について。

 日本の公害事件の原点といわれる足尾鉱毒事件も、また、全世界にその名が轟いた水俣病も、ともに水質汚濁が原因で発生しています。それだけに環境汚染を未然に防ごうという環境影響評価法制にあって、水質汚濁の項目は重要な柱を形作っています。ところが、武田薬品の「環境影響予測評価書案」においては、この重要な柱である「水質汚濁」については、あらゆる「評価細目」にわたって「評価項目として選定しません」となっているのです。これは、唖然・呆然・愕然とさせる記述です。これでよくも恥ずかしげもなく「環境影響予測評価書案」と名乗れたものです。事態はずさんをはるかに通り越しています。

 「水質汚濁」を「評価項目として選定しません」という姿勢には次のような経緯があります。

 この姿勢は当初の「実施計画書」段階からのものですが、これには流石に県知事から「実験室系排水及びエネルギー棟排水は公共下水道へ放流することとしているが、自ら処理して河川へ放流することになった場合は、これに伴って変更される事業計画の内容について明らかにするとともに、影響が想定される放流河川の水質汚濁や水生生物を評価項目として選定すること」という注文がついたのです。これに対して、武田薬品は、「関係機関と協議した結果、当初、実施計画書に記載したとおり、実験室系排水及びエネルギー棟排水は、重金属・有機溶媒系廃液の分離等、必要な処理を行った上で公共下水道へ放流することとなりました。/従って、排水を河川へ放流しないことになったことから、放流河川の水質汚濁や水生生物を評価項目として選定するには至りませんでした」(/は段落を示す)というのです。(「環境影響予測評価書案」569頁、同「概要説明書」65頁)

 問題は、「実験室系排水及びエネルギー棟排水」の放流先を河川とするのか公共下水道とするのかの違いです。いずれの場合も、「重金属・有機溶媒系廃液の分離等、必要な処理を行った上で」の浄化後のことであるのはいうまでもありません。

 では、「必要な処理」後の放流先を河川とするのか公共下水道とするのかで、どのような違いが生ずるのでしょうか。引用文から推測されるように、放流先を河川とする場合には、きれいな河川をどの程度汚すことになるかという形で、環境影響評価を義務づけられるのに対して、放流先を公共下水道とする場合には、元々汚れきった下水ではどの程度汚すかを調べても現実的には無意味であるという意味で、環境影響評価を逃れることができる、という違いです。武田薬品が県知事の注文をはねつけてまで放流先を公共下水道とすることに終始こだわったのは、この環境影響評価逃れを意図してのことです。

 しかし、それだけではありません。実際に研究所が稼働してからの方が意図は活きます。万一排水系統に故障や事故が生じて排水中に有毒物質や有害微生物が洩れ出てしまったことを想定すると、放流先を河川とする場合には排水口からの影響関係=因果関係がたどりやすい。だから、責任逃れがしにくいのです。他方、放流先を公共下水道とする場合には多数の家庭からでる生活排水と混合されてしまうから、影響が出たときにその因果関係をたどることが大変難しい。だから、責任逃れがしやすいのです。これは企業にとってはたまらない魅力です。武田薬品はこの魅力に魅せられたのでしょう。

 こんな狡賢いことは、いくらなんでも近年には許されなかったことです。現に武田薬品を管轄区域にもつ藤沢市の下水道行政は、工場排水には厳しい姿勢で臨み、公共下水道への放流を認めてきませんでした。藤沢市では工場排水は事業者自身が浄化して河川へ放流するのが原則でした。

 しかし、この原則が破られたのです。武田薬品は「関係機関と協議した結果」と記しています。この「関係機関」は藤沢市です。藤沢市は武田薬品に対しては姿勢を変えたのです。武田薬品を特別待遇したといえます。

 この点、藤沢市下水道課に問い合わせたところ、公共下水道への放流を認めないのは生産系の工場排水であって、研究開発系の排水ならば家庭から出る生活排水と同様に扱える、従って、武田薬品だけを特別待遇したわけではなく、研究開発系の事業所の排水ならば受けいれる方針であるという答えが返ってきました。これには呆れました。

 製薬会社の新薬研究開発施設であるからには様々な化学物質を使用した実験が行われるのは自明のことです。P3レベルの遺伝子組換実験やRI実験(放射線を使った実験)も予定されています。これら三者は組み合わされもします。従って、毒性化学物質や毒性微生物や放射線による水質汚濁が生じる可能性は常に存在します。それなのに、このような性質の排水を生活排水と同じものとして扱うとは、開いた口がふさがりません。

 しかも、武田薬品の場合は、いったいどのような物質・材料・装置を使ってどのような新薬を開発しようとするのか、具体的には明らかにしていません。だから、どんな得体の知れない異変が起こるのか、はなはだ不気味なのでもあります。

 まだあります。武田薬品にはいわゆるケミカルハザード(化学物質による汚染や災害)に対する認識に根本的な欠陥があるのです。薬品を扱い慣れて感覚が麻痺してしまったのか、化学化合物からなる大方の医薬品は毒物としての面をももつという警戒心に欠けているのです。

 この点は「環境影響予測評価書案」の125頁にある「図4−3−4−2 給排水フロー」に如実に現れています。そこにおいては「実験系」の排水のうち「一般実験排水」をみると、そこから分離・回収されるのは法的規制のある「重金属・有機溶媒系廃液」のみです。「一般実験排水」には「重金属・有機溶媒系廃液」以外に、薬品の素材となる様々な化学化合物が混ざっているはずなのに、法的規制のないそれらについては分離・回収の対象にしていません。つまり、垂れ流しです。このようなものが公共下水道に放流されるとどうなるでしょうか。汚水処理場にはこれを除去する能力がないから、そこを素通りする形で河川にでることになります。たまったものではありません。汚水処理場の放流口のある大鋸から下流の境川では棲む魚に異変が生ずるのではないかと心配です。しかも、境川は江ノ島の真ん前に注ぎます。事態は風光明媚な江ノ島を水俣化する恐れがあるのです。水俣もまた風光明媚な海辺でした。

 問題はそれだけではありません。回収対象の「重金属・有機溶媒系廃液」は本当に回収しきれるのでしょうか。「重金属・有機溶媒系廃液」は「一般実験排水」以外の「P3排水」や「RI排水」からも回収することになっています。それらはポリタンク等の容器で一時的に保管した後に処理事業者に委託するそうですが、量が多くて費用がかさみすぎ、試算すると私企業が負担しそうな額ではありません。一時保管中の漏出事故も懸念されます。また、最終処分地としてそれをどこに持ち運ぶのか定かではなく、少なくとも神奈川県内にはその受け入れ先がないのが実情です。従って、回収の量は最大限の努力を払うよりは抑えた方が得策だという強い誘因が働きます。その誘因に対して「モニタリング」装置はほとんど無力です。「モニタリング」の合間をぬってやればいいだけのことですから。そう言えば、武田薬品が固執してやまない実験室系排水の公共下水道への放流計画は、最大限回収すべき「重金属・有機溶媒系廃液」の部分的垂れ流しを容易にしてくれます。河川への放流ではばれやすいので、そうはいきません。しかも、その河川はほとんど眼の前を流れる柏尾川なので、余計眼につきやすい。公共下水道ならば藤沢市の汚水処理場は武田薬品からずいぶん離れた所にあるので、その面からも眼につきにくい。実に武田薬品の狙いはそこにあったのかもしれません。

 このことに思い当たってみると、相当処理能力のありそうな既設の排水浄化施設を保有しているのに、武田薬品がこれを使おうとせずに解体してしまうという、いかにももったいない計画を立てている理由が分かったように思います。その理由とは、実験室系排水の公共下水道への放流にこだわり続ける理由とまさに同一のものと推測されます。環境保全上このような武田薬品の姿勢は危険です。武田薬品が危ない! を合言葉に、監視の眼を強めていく必要があります。神奈川県も藤沢市もともにこの監視の環に加わるべきです。

 ここに到って、武田薬品が実験室系排水の公共下水道への放流に執着することによって、「環境影響予測評価書案」から水質汚濁についての調査をまったく除外してしまったことの問題性が再び浮上してきました。このようなやり方は神奈川県環境影響評価条例を骨抜きにするものです。このような策を許せば将来に禍根を残します。ことは神奈川県環境影響評価条例の根幹にかかわり、制度自体の存続を左右しかねません。こうした観点からも、武田薬品の「環境影響予測評価書案」は差し戻して、もう一度根底からのやり直しを要請すべきです。


 その4、P3レベルの実験室及びその機器類の点検・修理・廃棄について。

 P3レベルの遺伝子組換実験については、毒性微生物の「物理的封じ込め」は本当に可能かをはじめ、人間が誤りをおかす存在であることや意図した攻撃(テロ)の問題、地震・雷・火事・洪水等の災害時の問題等々、様々な角度から論じられています。しかし、意外に見落とされている論点があります。それは、P3実験室自体および実験室内の機器類について、その点検や修理のみならず 廃棄に到るまでの維持管理に関して、です。

 この点に関して、「環境影響予測評価書案」ではまったくふれていません。これは問題です。

 P3レベルの遺伝子組換実験室で通常仕事に携わるのは研究者です。研究者はP3レベルの遺伝子組換実験の危険性については熟知し、いわゆる「実験室事故」に合ってわが身を損なわないように、また、迂闊に病原体・新生物を室外に持ち出さないように、訓練を受けることに一応はなっています。

 ですが、研究者は万能ではありません。実験室内の機器は操作できても、その点検となると難しいでしょう。故障が生じた場合の修理となったら、お手上げの研究者が圧倒的でしょう。もちろん廃棄なんかできるわけがありません。

 実験室自体についても同様です。実験室には電気・ガス・水道などの配管や空調等の付帯設備があるはずですが、これらの点検・修理・交換などは、研究者の仕事ではありません。実験室にも天井・床・壁・窓・ドアがあるから、雨漏りしたり、ひび割れしたり、ガラスが割れたり、把手が取れたりすることが起きます。そういった場合に研究者が修繕できるはずもないでしょう。また、日常の清掃はどうでしょうか。研究者自身が行うとはとても考えられません。

 上にあげた点検・修理・修繕・交換・廃棄といった維持管理の業務は、研究者以外の、各々その道の技術者や職人でなければできない相談です。

 そこで、それらの技術者や職人に対しては、P3レベルの遺伝子組換実験室での点検・修理・修繕・交換・廃棄等の諸作業を行う上での特別の心得・要領を教育し訓練しなければなりません。なぜならば、P3レベルの遺伝子組換実験室は、普段の実験活動によってもあらゆる機器や部屋自体が毒性微生物に汚染される危険性があるからですが、特に故障が生じて修理・修繕・交換・廃棄等の諸作業をしなければならない時こそが一段と汚染が進む危険性がたかまるからです。。

 この点を見逃して、通常の場所と同じような意識で点検・修理・修繕・交換・廃棄等の諸作業が行われてしまうと、「物理的封じ込め」が破られることになります。ことに交換・廃棄などで通常のものと同じ感覚で持ち帰ったりしたら、一気に拡散の危険性が高まるでしょう。

 「環境影響予測評価書案」はこのようなことへの配慮をまったく怠っています。これではいくら研究者に教育訓練を施したところで、肝心なところで漏出が起きます。ザルから水が洩れるようなものです。P3レベルの遺伝子組換実験室での点検・修理・修繕・交換・廃棄等の諸作業への配慮を欠いた「環境影響予測評価書案」では毒性微生物の「物理的封じ込め」はおぼつかないというほかないでしょう。

 このような状態では、P3レベルの遺伝子組換実験室の設置を断念するのが最善の道ですが、それが決断できないのなら、「環境影響予測評価書案」をもう一度作り直すしかないでしょう。


 以上、4点にわたって「環境影響予測評価書案」のずさんなところを見てきましたが、もっと入念に叩けば埃はさらに出るでしょう。しかし、もはや時間がありません。以上の4点からだけでも、「環境影響予測評価書案」の差し戻し・再提出の線は揺るぎないものと考えます。




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意見書その4    3/14提出   
(仮称)武田薬品工業株式会社新研究所建設事業

  環境影響予測評価書案についての環境保全上の見地からの意見


@説明会への案内のチラシが2月上旬に各家庭に配布されたが、チラシに危険度の高いP3レベルの遺伝子組み換え実験等の記載がないのは、まるで隠してことをなす姿勢で、まったく誠実さを欠く。また、チラシの配布の範囲も十分とはいいがたい。なお、説明会自体は、藤沢市と鎌倉市で各々2回、計4回開催されたが、神奈川県環境影響評価条例上、周知すべき範囲に入る横浜市の一部(栄区や戸塚区の一部)では開催されなかった。横浜の住民には説明しないという姿勢と受け取った。

A説明会の冒頭に上映される「神奈川県環境影響評価条例の手続きの流れ」のスライド画面において、条例の重要項目をなす「公聴会」の項目が欠落しているのには、武田薬品の作為が感じられる。とにかく、神奈川県議会の権限を無視して武田薬品が神奈川県環境影響評価条例の条文を勝手に変更している格好で、呆れる。

B4回におよぶ説明会の運営において質疑応答の時間が十分には保障されず、批判的意見への制限が感じられる場面もあった。また、説明会を取り仕切ったのは、武田薬品自身ではなく、武田薬品から委託を受けた日本工営という、この手の仕事を請け負う専門会社の人間で、手慣れたものだった。それは、まるで株主総会において総会屋に運営がまかされるのと同じような光景だった。このような光景は、事業者が自身の声で直接住民に語りかけるところに意味があるはずの説明会の趣旨にそぐわない。

C上の3点をまとめると、武田薬品には自己に不利な発言や不都合な情報は抑えたり隠したりするという体質があると懸念される。神奈川県知事が武田薬品に対して示した「実施計画審査意見書」には、「完成後の研究施設において多種類の薬品類や、遺伝子組換え生物を扱うことから、事業者は環境影響評価手続を通じて近隣住民へ十分な説明を行うことが求められている」と明記されている。しかし、ここにある「近隣住民へ十分な説明」という注文はまったく果たされなかった。むしろ、逆に説明会を通じて武田薬品は自己に不利な発言や不都合な情報を抑えたり隠したりしてきた。このような隠蔽体質が見て取れる企業が危険度の高いP3レベルの遺伝子組み換え実験を行なうことに対しては、強い危機感を覚えずにはいられない。万一事故が起こった時、これをすすんで公表しようとはせずに隠蔽しようとするに違いないからである。

DP3レベルの遺伝子組み換え実験で扱う病原体には、炭疽菌、結核菌、Q熱リケッチア、腸チフス菌、パラチフス菌、HIV(エイズ)、高病原性鳥インフルエンザウイルス等があるという。いずれも感染力があって人体に重篤な疾患をもたらすので、「物理的封じ込め」には万全を期す必要があるものばかりである。
 他方、新研究所建設計画と並行してJR東海道本線大船・藤沢間に村岡新駅を誘致しようという構想があり、これが実現すると、村岡新駅の間近に新研究所が聳え立つという配置になる。これは、交通要所・人口密集地での危険度の高いP3レベル実験室の設置ということにほかならず、「東京の都心に原発を」というブラックユーモアを地で行くものではないか。立地計画上、乱暴すぎる。

E計画ではP3レベルの実験室は3部屋あり、各々100u(約33坪)ある上に、天井までの高さが4m強もある設計だから、立体空間的には6部屋もある勘定となる。それほど多数の大規模立体空間のP3レベルの実験室においてどのような遺伝子組み換え実験が計画されているのか、一切明らかにされておらず、大変不安である。

F実験室の入口には必須とされる「P3レベル実験中」の注意喚起表示を連動装置で地域住民にもわかるように工夫できないかと着想したが、ふと不安になり、知り合いの危機管理専門家に問い合わせしたところ、一笑に付された。そもそも、これほど本格的なP3レベルの実験施設については、人口密集地では安全性を確保する対策を立てようがない。その理由は、費用対効果の効率が抜群によいことから外部からの意図した攻撃(いわゆるバイオテロ)の格好の標的に選ばれやすいからで、そのため欧米では該当施設の周囲数q以内を無人地帯とするという立地規制があり、また、施設自体が自衛的な武装警備態勢を整えるのが常識となっているということだった。(添付資料参照)  思わずぞっとした。武田新研究所が計画通り建設されたら、この住み慣れた湘南地方から引っ越して行く他ないと直感した。事態はそれほど深刻である。もちろん、いったん事業が開始された後、環境アセスメントで予測した項目をきちんとモニターする必要があることはいうまでもない。

G建設予定地は、もと水田地帯だったところに埋蔵文化財(土器や石器)含みの土砂で盛り土を施した造成地であり、大規模震災時には液状化が懸念される軟弱な地盤である。そのような因縁のあるところにP3レベルの実験室を設置して、本当に災いは生じないのか。祟りを恐れて厄払いしても、払いきれないのではないか。

H研究所建設計画の中に千世帯規模の職員が転住するための住宅の確保の項目が欠落しているのは不自然ではないか。殊に千世帯規模の職員の転住に伴う義務教育環境への影響について、どう考え、どう対処しようとしているか。また、P3レベルの大規模実験室の安全性をいうなら、幹部職員用住宅を研究所敷地内に造り、地域住民の一員となって態度で示してはどうか。

I様々な危険が懸念されるので、建設時〜開設後も住民と協定を結んで環境安全のための協議の場を設ける意思はないか。

J第1回説明会では本事業全体で考えられるリスクの一覧(及びその対策案)を武田側が作成して住民側に示すことが約束されたはずだが、その約束をいつどのような形で果たすのか。このままだと空手形の発行となり、優良企業の誉高い武田薬品の信用が地に落ちる。それは、昨秋新薬開発が一時的に頓挫したことから発した株価の大暴落(いわゆる「武田ショック」)に匹敵する事態に発展するのではないか。

K環境影響予測評価書案には、まともなリスク評価をした形跡がない。安全工学に基づいた「総合的且つ定量的なリスク評価」をして再提出すべきであると思うが、どうか。

L情報公開を要請する。施設の詳細図面、取り扱う具体的な化学物質名、微生物名、実験動物名等。その理由は住民の懸念・不安を和らげ、緊急時の救急活動のために役立つから。

M事故・緊急・災害時の市や消防・警察・住民を含めた防災体制(或いは被害を最小限に抑える対策)を行政及び住民側と共同で決めるべきだと考えるが、どうか。(実例は阪神・淡路大地震の際の高槻市・JT施設。)特にP3レベル実験関連施設からの出火を想定した地域合同避難訓練は必要不可欠ではないか。

N万一P3レベルの実験施設で事故が生じた場合、イメージダウン・風評被害をも含めた損失等の補償を武田薬品はどう考えるのか。

O敷地の一角が属する古都鎌倉は世界遺産に登録申請を計画中だが、世界遺産に遺伝子組み換え実験室はそぐわない。そうした文化的観点からの再考があってもよいのではないか。また、敷地の大半が属する藤沢市には江ノ島という観光名所があり、夏には海水浴客でにぎわう。万一P3レベルの実験施設で事故が生じた場合には客足は途絶えるだろう。経済的損失は計り知れまい。そうした経済的観点からの再考があってもよいのではないか。

P藤沢市教育委員会発行の『藤沢市文化財調査報告書 第5集』所収の「藤沢市柄沢十二天遺跡調査略報」によれば、1962年に現状の敷地を造成した時、武田薬品は、藤沢市域では出土するのが珍しい縄文土器を含む「十二天遺跡」の大半を台無しにした前歴がある。それらの埋蔵文化財は現状の工場建屋の真下の盛り土の中にも埋まっていると推測される。ところが、今回実施の「環境影響評価項目」をみると、「評価項目」としてある「文化財」については「評価項目」としては選定しないとある。冗談ではない。自ら壊してばらまいておきながら、壊してしまったのだからもはや「文化財」には該当しないというのであれば、壊し得の居直り姿勢であり、「文化財保護法」の精神を蹂躙する言語道断の傲慢姿勢というほかない。

Q武田薬品は自ら壊した埋蔵文化財に対して今度の新研究所建設工事においてどのような姿勢で臨もうとするのか。前回につづいて今回もまたこれを踏みにじろうとするのか、はたまた、前非を悔いて今回こそはこれを発掘・収集し、新研究所内に展示室を設ける形で文化財保護の姿勢を示し、もって地域貢献の一助としようとするのか、武田薬品の真価が問われている。この点、態度を明確に表明すべきだと考える。

R新研究所内では動物実験の過程でマウス・犬・猿など、実験対象となった動物がたびたび死ぬ。その死骸は新研究所内の焼却炉で焼却処理され、動物たちは煙突から煙となって成仏していく。ところが、煙突の高さが低すぎて、殊に東の鎌倉側に隣接する高層マンションや病院にその死臭が留まる構図となる。人間の火葬場についてと同じく、動物の火葬場についても、もっと周辺地域への配慮が必要ではないか。

SP3レベルの実験室内の機器類、及び、エアコン埋め込みの実験室自体について、その点検や修理のみならず廃棄に到るまでの維持管理に関して、全く目が向けられていない。これでは毒性微生物の「物理的封じ込め」はおぼつかない。この点、環境影響評価をやり直すべきである。

(21)「環境影響評価項目」において土壌汚染が工事中の時期についてしか「評価項目」として選定されておらず、研究所開設後の時期が「評価項目」から除かれているのは、腑に落ちない。また、水質汚濁に到っては、まったく「評価項目」から除かれている。これなどは不可解を通り越して、ただただ呆れるばかりである。そもそも製薬会社の新薬開発研究施設であるからには様々な化学物質を使用した実験が行われるのは自明のことで、その上、P3レベルの遺伝子組換実験やRI実験(放射線を使った実験)も予定されている。これら三者は組み合わされもする。従って、毒性化学物質や毒性微生物や放射線による環境汚染が生じる可能性は常に存在する。その汚染経路は大気への飛散もあるが、廃水を通じての水質汚濁・土壌汚染という形がもっとも懸念される。その懸念が大である水質汚濁と土壌汚染を最初から除外した形の今次の武田薬品による「環境影響予測評価書案」などというものは、「環境影響評価」の名に値しないといわざるをえない。

(22)このように「環境影響評価」の名に値しないものが万が一にも罷り通るとしたら、どうなるか。神奈川県環境影響評価条例を骨抜きにすることになり、将来に禍根を残すことになろう。ことは神奈川県環境影響評価条例の根幹にかかわり、制度自体の存続を左右しかねない。こうした観点からも、武田薬品の「環境影響予測評価書案」は差し戻して、もう一度根底からのやり直しを命じるべきである。

(23)武田薬品が水質汚濁を「評価項目」からまったく除いて平然としているのは、実験室系統の排水(廃水)を公共下水道へ放流する計画を立てていることに基づく。つまり、実験室系統の排水(廃水)を河川(公共水路)へ放流しないのだから、河川への影響はなく調査する必要も生じないという理屈である。この理屈が責任逃れを図ったものであることは、ここではふれない。それは、公聴会の場での公述人としての発言の折に譲る。

 ここでは、藤沢市の環境行政という点に論点を絞って意見を述べておく。従来藤沢市は武田薬品が意図するような公共下水道の利用を認めてこなかった。藤沢市では公共下水道はいわゆる生活排水のみを受けいれてきた。製薬会社の実験室系統の排水(廃水)を家庭からでる生活排水とみなすわけにはいかない。それはれっきとした工場排水であり、得体の知れない様々な生化学物質や放射線などが入り交じる可能性があることからいえば、一般の工場排水よりもより質の悪いものとみなすのが至当だろう。にもかかわらず、武田薬品が実験室系統の排水(廃水)を公共下水道へ放流する計画を立てた上で「環境影響予測評価書案」を作成したことは、何を意味するか。それは藤沢市の担当部署が内諾を与えたことを意味する。このような事態は、公平であるべき自治体の姿勢として問題だろう。なぜ武田薬品だけを特別扱いするのか、まったく筋が通らない。事態はまさに藤沢市の環境行政の姿勢にまで飛び火しかねない問題をはらんでいる。

 今後この問題は、藤沢市の環境行政の問題として厳しく検討していかなければならない。



〔添付資料  人口密集地でのP3設置について〕

○○様

ご質問の件に対し、個人的な見解としてお答えします。
なお、本回答は一般的な回答として受け取りください。
どこかの施設等を念頭においてお答えはしておりませんので
この点をご了承ください。
なお、本回答を使用される場合にはこの前文も一緒に
付けて使用して下さい。

> 一、人口密集地においてP3レベルの遺伝子組み換え実験設備をそなえた研究所を設置しようとした場合、安全性はどのように確保されるか。

P3レベルの実験施設は炭疽菌、Q熱リケッチアなど危険な感染病原菌を扱える施設であるためにその安全確保には何重もの配慮が必要になります。
危機管理の観点で言えばこの手の施設の安全についてはヒューマンエラー、複合災害、悪意のある攻撃に対する対策が特に求められます。この3つの問題に関してはその対策において予防措置によることの完璧な安全はありえません。そのためこの手の施設が人口密集地にあることは望ましくなく、原子力発電所同様、最悪な事態になった場合に被害が最低限で抑えられる場所にあるべきだと考えます。
もし、人口密集地にあるのであれば周辺地域との共同で非常事態対応の体制が必要となるでしょう。

> 二、P3レベルの遺伝子組み換え実験設備への外部からの悪意ある攻撃(バイオテロ)は懸念されるか。

十分考えられる問題です。P3施設の存在はテロリストをはじめとする犯罪者及び犯罪組織にとっては攻撃の対象となりえます。これはその施設からP3レベルで扱っている危険物資の奪取を目的に攻撃がありえると考えるためで、現在世界的にもこのレベルの施設があるところは
セキュリティーを厳重にすることが求められています。これは内部犯行についても同様です。

> 三、P3レベルの遺伝子組み換え実験設備の危機管理はどのような形で考えられるか。
>

まずはヒューマンエラー対策です。この手の施設における最大の脅威はヒューマンエラーの連鎖による外部への危険物質の流失です。このような事態を引き起こさないための物理的な対策と職員への教育が充実しているかを確認すべきです。
次に災害対策で、施設の躯体そのものが大きく破損するような事態になれば流失の危険性は高まります。ですので立地場所については特に配慮が求められます。また、災害発生後の対処について初期対応だけでなく、流失してしまったことを想定したダメージコントロール訓練なども行なっているかを確認すべきです。
最後に悪意ある攻撃に対する対策ですがこれは国際的なテロ組織を念頭にセキュリティー体制を構築することが求められます。現在、アルカイダを始めとした国際テロ組織はP3、P4といった施設で扱うような危険物資に対して高い関心を示しています。そのためこのような物資がテロリストに渡らないように国際的な取り組みが始まっており、施設側に高度なセキュリティーが求められます。

以上、ご回答になってますでしょうか。
あくまでも個人的な見解ですが危機管理専門家としての見解として
お聞きいただければ幸いです。

浅利 眞



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意見書その5


環境影響予測評価書案についての環境保全上の見地からの意見

 

神奈川県環境影響評価条例第17条第1項の規定に基づき、次のとおり意見を提出します。

対象事業の名称 (仮称)武田薬品工業株式会社新研究所建設事業

 

3、施設計画について

 

3−1−4)廃棄物償却施設における排出対策

本計画の廃棄物償却施設は、150kg/h焼却炉2基、各6h/d稼動、煙突高さ15m、排ガス量約20000?(n)/hとなっております。

しかし、本焼却施設は、実験用器材、実験用動物死体など、有害細菌などが含まれている危険性の高い物質の焼却施設です。

施設概要の説明は概括的に過ぎるので、次の点を明らかにしてほしいと思います

@、焼却物の種類と量

例えば、実験器材   s/d 実験用動物死体   s/d、その他  s/

などというように焼却物の種類、量を明記した資料の提出

A、焼却炉についての詳しい説明

@、サイクロン気流によって、どの程度の固形物が炉下に落ちるのか

A、エグゼクターによって800℃の気流がどうして瞬時に300℃に急冷されるのか

B、また、300℃くらいの温度がダイオキシン再合成に適温と言われているのにどうして再合成できにくいと言われるのか。

C、集塵装置はどういう形式のものか、スクラバーなどを取り付けなくてよいのか

D、焼却炉の焼却温度はどの位か、1300℃まで上げずに800℃程度の温度でダイオキシンの発生防止ができるのか。(焼却残渣を含め)

 

E、毎日800℃の温度に立ち上げるのに、どのくらいの時間を見込んでいるか。

  また焼却温度の維持管理はどのようにするのか。

 

4、給排水計画

@、実験室系の排水について、

  一般動物排水は固液分離後公共下水道へ、その他の実験室系も固体、重金属・勇気溶媒体系廃液以外は空調系排水貯留層に合流させ、公共下水道へ放流するフローになっているが、実験室系の排水は、どんな細菌、危険物が含まれているかわからないので、空調系の排水貯留槽とは別槽を設け、管理する必要があるのではないか。

A、雨水も、焼却炉、排水装置、構内雨水については、貯水地にためる前に別途貯留槽を設け、管理するする必要があるのではないか。

B、生活排水。厨房排水についても、そのまま公共下水道に放流するのではなく、貯水槽を設け、危険物の混入を管理した上で放流する必要があるのではないか。

C、空調等設備系排水3300?/d、実験室系排水1100?/dを受ける排水貯留槽が700?/dでは容量がすくなすぎるのではないか。また工場流入上水4500?/dに対し公共下水道放流水は2200?/dと少ないが、バランスがとれていないのはどういう訳か。




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意見書その6

仮称)武田薬品工業株式会社新研究所建設事業環境影響予測評価書案への

意見書

 

1. 市街地の近くに危険な実験棟はつくるべきではない

40万都市の藤沢駅や17万都市鎌倉の大船駅から2〜3kmの近距離で、しかもJR線の至近距離の地に、病原性や伝播性の強い微生物や遺伝子組み換え生物等の高度な拡散防止措置が必要なP3レベルの実験棟3棟、放射性同位元素を扱うRI実験棟3棟など危険度の高い実験棟はつくるべきではない。万一洩れた場合やテロ発生時に計り知れない環境影響を及ぼす恐れがある。

 

2. 焼却炉排出ガス特にダイオキシン発生について

焼却炉2基、内1基は1日6時間稼働で、ダイオキシン発生予測0.4pg-TEQ/3は、許しがたい大気汚染をもたらす恐れがある。現在の大気調査結果0.030pgに比べてひと桁高い値であり、環境基準0.6pgを満たしているとはいえ、ダイオキシンは猛毒であることから、0に限りなく近いことが望ましい。

また、煙突の高さが45mと、近くのマンションと変わらない高さなのは、再検討する必要がある。

 

3. 大気汚染悪化について

浮遊粒子状物質は、現在0.025mg/――>

建設中0.071mg 工事車両走行0.069mg

稼働後0.064mg 関係車両走行0.069mg

  二酸化窒素は現在0.016ppm    0.020ppm (沿道) ――>

建設中0.057ppm工事車両走行0.047ppm

                 稼働後0.043ppm関係車両走行0.047ppm

   と23倍も空気が汚染される予測である。

   神奈川県、藤沢市の二酸化窒素の目標値0.04ppmを超えるのは望ましくない。

年々増えているぜんそく疾患は、平均0.02ppmを超えると増え続けるといわれている。市民の健康を害する恐れがある。

 

4. 交通渋滞について

工事中のみでなく、稼働後も車両1日約900台が出入りするので、周囲の交通渋滞はひどい状況になる。今でもラッシュ時には駅に近いため混雑する状況であるのに、交差点飽和度が

0.9に近い状態となることは、1日中渋滞する恐れがある。

 

 


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意見書その7

(仮称)武田薬品工業株式会社新研究所建設事業

環境影響評価予測評価書案についての環境保全上の見地からの

2008317

 

栄工場のゴミを考える会

                             代表 西岡 政子

   連絡先qqw97vm49@sunny.ocn.ne.jp

 

 

つくば市理化学研究所を見学したことのある筆者は、当該事業の環境影響評価が進行中であり、評価書縦覧の締切日が迫っていることを、数日前に知り驚愕しました。

原発と同等かそれ以上の危険な施設が住宅密集地に建設されることは到底容認できません。

朝日新聞(314日)は、つくば市武蔵村山市の施設が建設後20年たっても地元住民の不安から、レベル4の病原体を扱えないままであることを報じています。

本計画をどうしても強行されるのであれば、まず恒常的および突発的な事故や災害、テロによる危険が及ぶ適正範囲(半径10キロ圏)の住民への周知とそれに伴うアセスのやり直しを求めます。

以下では具体的な疑問点について意見を述べます。

 

 

T.WHOの実験室バイオセーフテイ指針(第3版)の遵守を。

管理体制やリスクコミュニケーションに危惧する点が多々あります。

原則としてWHOの実験室バイオセーフテイ指針(第3版)を遵守すべきです。

供用後に病原体等の流出や被害の有無、程度を確認するためにモニタリングを実施(水質、排気、大気)し、住民の求めに応じて公表するべきであります。

 

U.施設の立地は小児ぜん息が多発している住宅地に近接。

WHOの指針では実験施設の立地は、できる限り患者、住民、公衆のいる地域から離れて立地されなければならないとされている。また、高度封じ込め実験施設あるいは危険な実験施設は、患者や公衆のいる地域とよく使われる道路から離れて立地されなければならないとされています。

ところが年間最多風向である北北東の風下地域には、環境保全に留意すべき施設の学校、幼稚園、老人施設、文化施設が集中している住宅専用地域です。

特に村岡小学校は現在でもぜん息被患率が藤沢市立小学校中でワースト2(H19年度)、ワースト1H18年度)、ワースト3(H17年度)です。

また夏季の南南西風下の地域にも幼稚園や小中学校、病院(計画中)が多数立地しています。

計画地直近の玉縄小学校のぜん息被患率は、鎌倉市立小学校中でワースト1(H19年度)、ワースト4(H18年度)、ワースト1(H17年度)です。

児童が徒歩で通える距離内にある小学校のぜん息被患率は、児童の健康バロメータであり、住環境の指標であると思います。小児ぜん息の発作は、環境が悪化すれば起き、環境が改善されれば起き難くなります。このような専用住宅地であり、小児ぜん息多発地に健康被害が倍加する施設の建設を事業者は慎むべきであり、許可されるべきではありません。

(*一般的に喘息は車の排気ガスが原因と思われていますが、廃棄物焼却場や工場排ガスが要因であることを裏付ける資料を別に添付します。)

 

供用時に施設から排出される有害汚染物質は、気象条件に左右されることが多いだけでなく高台により悪影響がもたらされます。特に15メートルと45メートルの廃棄物とエネルギー棟の煙突からのそれは、事業者が示す最大着地濃度地点をはるかに越えた横浜市内に影響が及ぶことは必至です。実験室の排気と共にシュミレーションは必要不可欠です。

 

V.住宅地に近い位置に汚染施設、ダイオキシン類汚染炉解体の詳細は?

1.廃棄物焼却炉やエネルギー棟、実験棟などが住宅寄りの設計になっていることも問題です。

既存の施設の解体で焼却炉について記述がないが詳細に説明すべきであるし、解体期間は汚染大気の漏洩チェックのためモニタリングを実施すべきです。

既存工場操業時の平成127月に測定されたダイオキシン類の廃ガス数値は、15ng−TEQ/?N0.41ng−TEQ/?Nという高濃度のダイオキシン類で、周辺を汚染していた実績の焼却炉です。

横浜市は栄工場(廃棄物焼却場)の解体に際し、期間中を通して大気のモニタリングを実施し、結果をホームページで公開しました。

 

2.実験用サルや犬などの動物の死骸を焼却する焼却炉には、バグフィルター等の公害除去装置や有害物質の中和や安定化する薬品を使用しない構造で理解に苦しみます。

3.「3Rの原則」とは国際的に普及・定着している動物実験及び実験動物の福祉の基本理念です。当該事業者は1兆数千億円の売上高を誇る世界的な一流企業ですが、本計画での以下の3点は如何でしょうか?

1. 動物の苦痛の軽減(Refinement

2. 使用数の削減(Reduction

 

3. 代替法の活用(Replacement

個人的な心情として、如何に人類の健康や福祉に資するとはいえ、犠牲となって苦しむ実験動物が身近な生活環境に存在することはこの上ない苦痛である。

                                             以上

  





意見書その8
平成20年3月17日
神奈川県知事殿
 神奈川県環境影響評価条例第1項の規定に基づき、次のとおり意見を提出します。
  (仮称)武田薬品工業株式会社新研究所建設事業
環境影響予測評価書案についての環境保全上の見地からの意見
先月2月には残念ながら直接企業からの説明を聞くことができませんでしたが、アセス
案概要説明書(平成20年2月付け、72ページ)を読ませていただきました。
ついては以下のように意見を申述べます。
1 位置及び実施区域、規模
1.1 周辺に丘陵のある土地において建物の配置及び規模についての疑問点
25haの敷地に、8ha近い敷地43m高さの建物をつくるのですから、一時的とはいえ工事
の最中にしても、工事終了後の巨大な建物周辺に及ぼすであろう影響は大きいと思う。
それらについては具体的に記載され、理解されます。
疑問点は、敷地の北側にちょうど実験棟のように高い丘陵地があって、その間の住宅地
が東西方向に谷間になり、15の実験棟からの排気ガスとゴミ焼却施設並びにゴミ置き場
からの臭気の通り道になる心配がある。
行政上は鎌倉市玉縄地区に相当するが、予測について改めて当該地域での追加説明
を要望する。
1.2 対象事業が施設建設とするため、建物の建造にアセス大半が割かれている
建物の建造に関わる工事の遂行上、また巨大建造物による影響と対策にページを割く
のは当然ながら、それがために研究所設備および研究内容にかかわる、近隣住民への
保健衛生上、生命の安全に関わる記述が不十分である。
敷地内外の土地にたいする汚染はさけられないと思う。周辺住民には特に排気、排水、
細菌類の空気中飛散、実験動物を原因とする生物媒介による飛散が心配である。
防災設備について実験室の構造と実験設備の設置について記述があるが、研究分野
研究方法による具体的な安全策が記載されていない。
1.3 地震による研究施設建物の破損及びその他の災害対策
災害時の敷地内研究者らの緊急処置と周辺住民の避難について必要はないか
有害物や細菌類にたいする緊急措置について補足を、また住民の避難が必要となる
様な自体があるかどうか、鎌倉市玉縄地域において追加説明を要望する。
2 対象事業の内容について
2.1 施設計画に記載の実験・研究等の安全対策についての記載に不安感
表4-3-2「施設等の概要」として施設名の欄に「RI実験施設」または「R3実験施設」が
いずれも法に準拠して適切に行う、と注記されているが、これでは住民にわからない。
このような計画にたいして行政の監督はあるのか、どういう状態を行政は適切な、すな
わち住民が安心していられる状態であると認めるのか、説明を事業者及び行政に強く
要望する。
施設の説明が一般的であり、どこにも数値がでてこない。正常と異常はどう判断するの
であろうか、補足説明を要望する。
2.2 廃棄物処理計画、保安計画にも不安な点が存在
放射線物質をはじめ発生する動物由来の廃棄物について焼却または専門業者による
引き取りが記載されているが、地域周辺へ飛散する危険は本当に無いか不安である。
3 まとめ
企業においては、安全と宣言しないことには商売にならないが、どう安全を証明するか、
ただ宣言するだけでなく数値を明確に記載し専門家の監査が保証されなくては安心し
て近隣に居住できないので、保全方針を引き続き説明されることを要望する。
                                             以上
 鎌倉市植木
氏 名  平倉  誠

                                
                                先頭に戻る
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