一診療所における漢方の使用経験

  漢方との出会い

   漢方の考え方にはいくつかの流れがありそうです。

偶然の出会いでそのどれかに触れていたのかも知れません。

私は四国、愛媛県の出身ですので、幼い頃からお灸には親しんで参りました。

私の両親は外科と内科の医者ですが、鍼治療を応用していました。

当時は仕事のストレスも大きかったらしく、夜お互いに鍼を打ったりしていたのを

覚えています。私が中学・高校の時のことです。患者さんにも好評でした。

私も受験勉強のストレス等で肩が凝ったときや、歯が痛いときなどに鍼を打って貰いました。

一晩寝るととても軽くなったものでした。

友人であった、歯科医の福嶋先生(胃癌で亡くなられました)も鍼を応用されていました。

以前、吉倉 範光先生の所で神経内科を勉強していたときのことです。

やはり同じように学んでおりました、千葉大学の寺澤先生にお目にかかりました。

彼は第一回目の神経内科の認定医試験に合格しています。その時に試験のコツや

勉強法を教わりました。今、富山医科大学の東洋医学科の教授をされております。

その後のことですが、四国松山の清和病院に赴任していたときのことです。

単科の精神病院で、150床くらいでしたか、外来が1日15人ほどでした。

知的刺激が少なかったのかも知れません。暇をもてあましていました。

なにかないかと考えていたとき、
愛媛県立東洋医学研究所の話を聞きました。


その頃、愛媛県知事をしていた白石さんの肝いりで出来たそうですが、


愛媛県立病院の敷地の一角に2階建ての建物がありました。

そこの所長さんが光藤先生でした。愛媛県出身、愛光学園の一期生で、


東大卒、一時期東京で開業されていましたが、縁あって県立病院に

東洋医学研究所を創設した2年目のことです。


何となく惹かれて、面会に行きました。その時に、光藤先生は

東洋医学の良いところは、ランニングコストが安いことです。

と、20年以上前にその事を重視しておられました。


 君は何で漢方を学びたいのですか?

私は、目の前の患者さんにしてあげられることが、一つでも増えることは


医者にとって良いことと考えるからです。漢方は大きな力になりうると考えています。


と、そのようなことを答えました。


それから、基本的な考え方としては、青龍、朱雀、白虎、玄武の四方向の考え方、


陰陽、虚実などの見方、処方の当てはめ、傷寒論から始まって、金匱要略、十四経発揮、

時に黄帝内経、
勿誤薬室方函口訣、等の古典の解釈など、輪読会をしながら御教示いただきました。


同時に患者さんを多く見せていただいて、特に鍼灸にも関心が強かったので、


多くの鍼灸師さんからも学ぶことが出来ました。特記すべきは吸角を使用した瀉血療法です。

これは東洋医学研究所の十八番でもありました。


その後、実際に患者さんに触れながら取捨選択、研鑽して参りました。

私のレベルでは、まだ方剤を証に当てはめるのが精一杯で、とても各生薬、個々の性質まで考えて

使用するのは無理な段階です。ですので、加減法はあまり用いていません。

また、東洋医学研究所の山岡先生と奥さんとともに、長春の白求恩医科大学に2ヶ月弱でしたが、

鍼灸の勉強に行ってきました。楽しい思い出です。太くて長い中国鍼の使い勝手を学んできました。


鍼灸は今ではカミサンがカウンセリングとともに開業しております。

私は鍼灸はやめまして(時間的に無理です。)、漢方薬の処方を受け持っています。

今年の4月から14日分以上の処方が出来ることになりましたので、患者さんには好評のようです。


今回は突然のことですが、つたない私どもの東洋医学診療内容をお話しします。


この二年間の統計を出してみました。(電子カルテ「ダイナミックス」ですと簡単に出来ます。)


精神科領域ですと、加味逍遥散(1人)や半夏厚朴湯(5人)、


柴胡加竜骨牡蠣湯、桂枝加竜骨牡蠣湯(1人)


等がすぐに思い浮かぶと思いますが、これらについては使ってみましたが、


やはり西洋医学的な薬の方が良く効きます。特にスルピリドがとても良く効きますので、


殆どはこれに置き換えられます。最近ではパキシルも良いように思われます。

特に、自ら努力して頑張っている方には良い効果があるように感じています。


では、いまだに勝れている漢方製剤としては、何があるか。


甘麦大棗湯(12人)、酸棗仁湯(13人)があります。


以上は精神科的なものですが、一般開業医としましては、風邪の人も来られますし、


アレルギーの人や様々な方がお見えになります。


風邪の方には、葛根湯(29)、桂枝湯(8人)、寒いときには麻黄附子細辛湯(13人)


咳がひどい方には五虎湯(22人)、麦門冬湯(5人)


アレルギー性鼻炎の方には小青龍湯(10人)を使っています。


ここらあたりは患者さんの好みで、どちらにしますか、と言うことで使用しています。


鼻炎には葛根湯加川キュウ辛夷(11人)、辛夷清肺湯(4人)なども使います。


抗生剤よりはよく効くように見えます。桔梗石膏など加えるとより良さそうです。

抗生剤や、消炎剤を長期に服薬するのはどうもお勧めしたくありません。


夏ばてには清暑益気湯(15人)これはファンがおりまして、毎年その季節になるとお見えになります。


眩暈の薬としては、苓桂朮甘湯(2人)ですね。セファドールや、イソメニールの方が

やや成績はよいように思われます。 


虚症の眩暈や下痢、腰から下が水に浸かっているように冷える方には真武湯(5人)


女性のオ血には当帰芍薬散(16人)、桂枝茯苓丸(12人)、桃核承気湯(1人)、


大黄牡丹皮湯(3人) 時には加味逍遥散(1人)などを使用します。


男性のお年寄りには午車腎気丸(1人)や六味丸(1人)、八味地黄丸(5人)


体力低下には補中益気湯(4人)、十全大補湯(8人)


女性の変形性膝関節症、いわゆるぽっちゃり型の色白の方には防夷黄己湯(3人)です。 


六君子湯(2人)はあまり使いません。脾虚というのが今一よく判りません。


膀胱炎のような症状には細菌性でなければ竜胆寫甘湯(17人)


筋肉の痙攣には芍薬甘草湯(15人)です。これはよく効きます。

あとはランダムですが、黄連解毒湯 5人 眼底出血、脳出血後の方です。

乙字湯 3人
 痔疾用としても使いますが、緩下剤、柴胡剤としても使用しています。


温経湯 1人  帰脾湯 1人 桂枝加朮附湯 4人 関節痛です。冷えのある方です。

最近はリウマチの薬はよいのができていますし、リウマチ専門の先生もできましたので、

私の所では診なくなりました。

喘息もそうです。以前は漢方も使いましたが、最近では、シングレアとフルタイドになっています。

五苓散 5人 2日酔いにも良いようですが、利尿剤としてはラシックスがすぐれています。

十味敗毒湯 6人  消風散 1人  


潤腸湯 1人  大黄甘草湯 3人  調胃承気湯 6人  麻子仁丸 9人 


抑肝散加陳皮半夏 1人  苓姜朮甘湯 1人    柴胡桂枝乾姜湯 1人


大建中湯 1人  釣藤散  3人  当帰飲子 4人 


当帰四逆加呉茱萸生姜湯 2人  柿蔕湯 1人  九味檳榔湯 1人  


 等が拾えました。柴胡剤が少ないようですが、これは副作用の問題と、

胸狭苦満が意外に少ないように思います。そして値段が高くなる等がその理由のようです。


そこで考えてみました。なぜ漢方を使うのか? 特徴があるから? どんな?


駆オ血剤がある。補剤、温剤がある。下剤が優しい。患者さんが望む。


感冒に良く効く。咳止めとして良く効く。筋痙攣を押さえる。等ですか。


私どもは、初めは西洋医学から入っていますので、東洋医学の良いところが目立つものから


使用して行くわけです。そして、常に比較しているわけですから、西洋医学的な治療に


メリットがあればそちらに戻ります。


最近では、インフルエンザですが、以前は麻黄湯、葛根湯が良かったのですが、


今は早ければアマンタジンや、タミフルはやはり良く効くようです。


アレルギー性鼻炎にも良く効く薬が出てきています。


ここの所、相次いで新薬が怒濤のごとく開発されています。


確かに良いものも沢山ありますが、中には恐いものもありそうです。


遺伝子解析なども進み、医学・医療も新しい時代に入ってゆこうとしているようです。


そのようなめまぐるしい環境の中で、日常診療を通じて一人一人の患者さんを


大切にし、守ってゆくのは、やはり最終的には我々実地医家のセンスが大切なのでは


ないかと考え、それは、我々実地医家が連携することによって、より磨かれ、

知識も共有して行ける
のではないかと愚考しています。


そのような中で、東洋医学の考え方、昔からのゆったりした流れを、併せ持って


患者さんに接して行けるということは、我々もバランス感覚を失わないためにも良いこと


ではないかと思っています。



今は殆どカミサンがやってくれていますが、鍼灸治療も良く効きます。

これは私どもの所でも応用しています。東洋医学研究所から貰ってきました


三稜針と吸角を使用する方式の瀉血もやっています。 

肩凝り・腰痛・などには著効があるようです。私も時々お世話になっています。