森田神経症
(心気症候群・ヒポコンドリーについて)
(レディオ湘南放送原稿)
 世の中には治そうとしてはいけない病気もあるんです。
これだけ医学が進歩している現代です。私どもが医者になった頃には
脳や身体を輪切りにして目で見るなんて事は大学の解剖学教室の人体
標本を見るぐらいしか方法がありませんでした。
今はいとも簡単に自分の身体を輪切りにして目で見ることができます。
しかもその角度を変えたり、輪切りだけでなく、縦切りにまでできる
んです。一例ですが、そのように発達してきた現代医学でも
検査に引っかからない病気はあります。これから述べようとしている
病気はその中でも特徴的なものと考えます。
 現在ではノイローゼという言葉は殆ど使われなくなりました。
でも自分が病気であると確信していて、様々な症状に苦しめられ
多くの医療機関で検査を受けても何も異常がでてこない。
自覚症状はこんなにも多彩に、しかもひどく自分を苦しめているのに
どこで検査しても原因が解明できない、そんな病気だってあるんです。
その中の代表的な病気が、昔我々が医者になった頃ノイローゼといわ
れていたものです。専門的には神経症というもので、その中に心気症
というものがあります。これは自分が病気であると確信してしまい、
様々な身体の変調をすぐさま病気の症状として病気に直結させて、自
分は重篤な病気に罹っていると考えてしまう状態です。もともと身体
には大きな異常は無いのですから医者にいっても、検査をしても明確
な原因は見つかりません。従って、治療にも結びつかないので、お医
者さんは「気のせいです。」とか、「考えすぎないように。」とかア
ドバイスして下さいますが、御本人はそれを聞くと安心してくれるど
ころか、かえってますます心配になり、私がこんなに苦しんでいるの
に先生はわかってくれない。困ったものだと次々と医療機関を変えて
行きます。
なかには薬を飲むことによって軽快するものもあります。あるいは相
性の良いお医者さんに巡り会って、何となく安心して、良くなって行
く方も多いと思います。
 しかし、その中で、不幸にも普通の体調を症状ととらえて、自分は
病気であるに違いないという考えの悪循環にはまってしまい、どんど
ん不安が不安を呼んで、挙げ句の果てには自分の行動範囲がせばめら
れて、電車に乗れなくなったり、飛行機に乗れなくなったり、デパー
トや人の多いところに行けなくなったり、ついには外に出るのさえ予
期不安で出られなくなったりして、通勤、通学に支障を来している方
々も多く見られます。
 心の罠にとらわれてしまって、がんじがらめになっているんですね。
このような状態を私どもは森田の神経症、ヒポコンドリーと呼んでい
ます。この病気は確かに病気ではあるんですが、身体の病気ではあり
ません。心のとらわれ、則ち、歪み、なんです。
 でも、御当人ははっきりした、多彩な自覚症状を持って、苦しんで
おられるわけで、にわかには自分が健康であるなどとは信じられませ
ん。
 しかし、医学的には病気の所見が出てこないやっかいな奴なんです。
本当は元気で、健康な身体を持っていて、本来は生き生きと活発に生
活しているはずの多くの方がこのような悩みを持つことによって、生
活に大きな支障を来して悩んでおられるのです。
 明治から大正にかけて、森田 正馬というお医者さんがいました。
彼はこのような方々を診察して、これらの人は病気として、病人とし
て扱っていてはかえって良くない。むしろ、きちんと診断した上で、
普通の病気はないことを納得していただいて、病人として生活するの
ではなく、健康な人間として、生活することによって逆に完治する。
というおかしな事実に着目したわけです。
 当時は病気と言えばまず安静です。そして栄養をとることでした。
結核が多く、まだ貧しい社会情勢では、ゆっくり休んで、自然治癒力
を高めて、病気に対抗して行くのは病に対する心得の第一でありまし
て、これはいまでも同じです。
 そこへ持ってきて、正に逆転の発想と言いましょうか、病人の顔を
して寝ていてはいけない。これは病気ではなくて、心のとらわれなん
だから、むしろ生活はまったく健康な人と同じにしていけば「とらわ
れ」から解放されて、治るんです。とやったわけです。
 当時の人は吃驚仰天しました。なかなか受け入れてはもらえなかっ
たようでしたが、そのやり方で、治った人々や先生の教えに接した医
学生達によって、この治療法は確立し、日本独自の精神療法としてい
まに続いているものであります。私のところでも森田正馬の直弟子で
ありました故竹山恒寿先生の教えを受けて、父の代から森田療法をラ
イフワークとして実践しています。なにぶんマイナーな治療法ですし、
対象の患者さんは限られていますが、うまくはまりますとこれが完治
するという少し変わった治療法のお話です。もちろん私どもも普段は
普通の医者として、神経科医として一般的な身体、精神の疾患に対処
している日々ですがその中にちょっと特別なものがあって、その特別
なものに対しては特別な対処法を行っているというふうに認識して下
さい。 
でもみなさん、こんなものがあるということを頭の隅にとどめて置い
て下さい。役に立つこともあろうかと存じます。
               <森田療法の適応>     
不安が不安を呼ぶ...悪循環のサイクル、予期不安のスパイラル、悪循環
ますますとらわれていく。
打ち破るには....発想と行動の逆転が必要
これが森田療法です。
特徴   症状は多くは不安に彩られており、病気のサインとしてでなく
     不安の現れとしての症状を見せるのが特徴です。
対処  専門家の診断を仰ぐことは必要です。
    まず医療機関で身体は病気ではないことを診断してもらう。
    神経科、精神科、メンタルクリニックなどに受診して相談する。
    殆どはこのレベルで解決します。 



<森田療法の適応> 
不安が不安を呼ぶ...悪循環のサイクル、予期不安のスパイラル、悪循環
ますますとらわれていく。
打ち破るには....発想と行動の逆転が必要
これが森田療法です。
特徴   症状は多くは不安に彩られており、病気のサインとしてでなく
     不安の現れとしての症状を見せるのが特徴です。
対処  専門家の診断を仰ぐことは必要です。
    まず医療機関で身体は病気ではないことを診断してもらう。
    神経科、精神科、メンタルクリニックなどに受診して相談する。
    殆どはこのレベルで解決します。